2024年08月06日

Le Pendu-吊るされた男-(4)

崇の体から汗が滴り落ちた。まだ長袖を着ていても少し寒いくらいだが、崇もこういう得体のしれない恐怖からの冷や汗といったものは初めての経験だった。暑くもないのにドクドクと体の心底から湧き出てくる。

吊された男_004

「フフフ、いいじゃないか。思っていたよりもいいぞ。」
と崇のパキパキに割れた腹筋を指先でずっとなぞっている。崇は食が細いということもあるが、普段からボクシング部でありながら、強いボクサーになりたいのではなくてボクサー体型のような魅せる体になりたかったので、特に腹筋などは見栄えは良かった。シャドーボクシングをしているとその自慢の腹部の筋肉が引き締まり、打つ動きに合わせてその腹筋が波打つ様は恰も彫刻が動き出したかのようだった。汗が腹筋の溝に沿って流れていく。腹筋は見た目からして石のようであり、ちょっと触っただけでもその堅さを思い知ることだろう。上から下まで、そのボコボコした腹筋は割れに割れまくり、その間に走る筋繊維は決して並大抵のものではない努力と鍛錬を物語っていた。腹斜筋もまたその腹筋を更に引き締まった印象にしていた。ただ、ボクシングの練習というよりは基礎トレーニングの賜物であった。というのも、美しく見せる筋肉と打撃を伴うボクシングは真逆であり、崇は決してボクシングに情熱があるわけではなかった。ボクサー体形を目指していたのだ。しかし、その引き締まった体が今回はどうやらマイナスだったようだ。
と、どうやら攫ってきた男も服を脱いで全裸になっているようだった。崇はゲイ寄りのバイなので、そういう性的に何かされるといった恐怖心はなかったし、そのこと「だけ」で済むのだったら、さっさと済ませてしまいたかった。しかし、その考えとは少し違った。

吊された男_005

「ガフッ。」
いきなり腹を殴られた。ボコボコの腹筋をしているからと言って、崇はよくありがちな腹打ちの特訓のようなものをしていない。殴られるということが筋肉繊維に良い作用を及ぼさないということもあって、ボクシング部の割にスパーリング経験すらあまりないのだ。だから、部員と言いつつ実質マネージャーのような役割をしているに過ぎない。けれど、そうはいいつつも、見た目通り筋肉の塊でできているので、筋肉が殴られて痛いというだけで、俗にいうボディブローのような痛みではない。
「おお、固え、固えな。いいぞ。でも、少しほぐしておかないとな。」
ほぐす?と男がちょっと後ろに下がった。そして・・
「うらぁぁぁ!」
「ぎゃん!!!」
男は助走をつけて、勢いよく崇の生まれたままの状態の股間を蹴り上げた。二つの玉が競りあがって喉元のあたりまでせり上がって来たのではないかというくらい、とんでもない衝撃だった。

吊された男_006

「はゎゎゎ。」
ギュンと股間とその周辺部が縮こまるような感覚で、目の前が途切れ途切れのスライド写真のように、断続的に見えた。
「よしよし、これでいい。」
と言って、すぐに
「おるぁぁぁあ!」
と、男は今度は8パックに割れた腹部の中央上に拳をめり込ませた。先ほどと違って、メリメリとそのキレイに割れた腹筋をも突き破っていった。
「かはぁぁぁ!」
唾液が周囲に跳ねとんだ。
「ククク、今度はしっかり腹に入ったな。これでオマエが腹に力を入れたところで、もうそうはいかないぞ、一旦ほぐしちまうとな、クククク。」

吊された男_007

「はぁぁ、はぁぁ。」
崇は呼吸を整える。次が来る、ボクシング部だから腹の強さも弱さも知っている。一見、鍛えこまれた腹ならどんなに打撃を食らおうが平気だと思われがちだが、実は脂肪が乗っていたほうが緩衝材になる。それに、表面的には防いでいるように見えても、衝撃波がしっかりそのすぐ裏に控えている内臓に伝わる。男の腕は腕が太くて力こぶも半端ない。崇の足よりも太いかもしれない。息を吐き切ったときに、
「うるぅぅぅあぁぁぁ!」
と、また腹に強い一撃を食らった。
「がっ、がふっ」
息ができない、息が、思いっきり吸い込んだところで、
「どうだぁぁぁあ!」
「かぁぁ、かはぁぁぁぁ・・・」
こみ上げてきたものを吐き出した。喉がヒリヒリする、薄黄色い液だった。
「ああ、あぐぅぅぅ、おうぅおぅううぅっ。」

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