軍隊
2021年04月26日
疑心暗鬼(1)
「中尉、あなたがなぜ、ここに呼ばれたか、分かりますか?」
「いえ、後藤少佐、私には皆目見当がつきかねます。」
そう言いつつ、皆原中尉は、この前の騒擾の取り締まりにあたっての褒賞のことだろうと思っていた。つい10日前に、露西亜の遺産でもあるロータリー附近で起こった中国人同士の諍いについて、先に新聞にリークして、取り調べもまだ終わっていないのに、結論ありきで軍医局送りを決めてしまったのである。当然少佐の耳に入っていることだろうが、まだ報告書が途中であったために、課長には草稿程度を見せていただけであった。しかし、特殊諜報部長である後藤少佐から直々に言われるということは、栄転の可能性もあるか、そう思うと自然と口元が緩んだ。
「中尉、しかし、君がこんなことをするとは私はいまだに信じてはいないんだがね。」
「少佐殿、これは支那人のスパイを潜り込ませ、この反日騒擾の謀議を事前に聞きつけ、精鋭部隊を張り付けていたのです。二重スパイというご懸念を抱いているようでしたらご心配なく、その者は・・」
「いやいや、そのことではないんだ。」
半ば嘘とはったりで塗り固めた真骨頂ともいうべき語りを手を交えて遮って言うには、
「というかだな、君のことを二重スパイなのではないかと疑う者がいるんで、俺も弱っているんだがな。」
「自分が、ですか?」
「まあ、君に限ってそんなとんでもないことをしでかさないとは思うが、こういう世界だ、知らぬ間に罠にかかることだってあり得る。重々気を付けたまえ。」
「ありがとうございます、少佐。」
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toppoi01 at 15:51|Permalink│Comments(0)