攫われる

2023年04月28日

だって夏じゃない(6)

海の家は、最後の客がいなくなって早々と店仕舞いをした。夕方になると、監視員としての仕事もほぼなくなり、光和は監視台の拭き掃除をしている。淳平は、その様子を横目で見て、くだらない、と独り言をつぶやくと店の裏に回った。携帯電話を弄っていると、ふと人影が見えた。振り返ると、出っ歯がサバイバルナイフを持って、それをわき腹に当てていた。
「騒ぐな、騒ぐとそのままこのナイフが刺さるぜ。」
ビックリして意識せずに声を上げそうになったけれど、少し動いただけでもこの鋭利なサバイバルナイフがわき腹に突き刺さってしまいかねない状況を目の当たりにして、ぐっと息を呑んだ。
「か、金ですか、金、金なら・・」
過呼吸気味になって声が上ずって思うように出せない。
「兄ちゃん、そうあせんなや。」
と、もう一人の木偶の坊が片方の手首に手錠をゆっくりとかけた。そして、ナイフを腰附近にあてながら、防風林の中へと分け入り、適当な枝を見つけてその一方を枝につなぐと、さっき取り上げた携帯電話を渡した。
「兄ちゃん、あの図体のデカい奴、それでここに呼び出せや。」
そう言われ、淳平は俺が狙いではなかったのだと思うと、ひとまずホッとした。俺は人質として捕らえられただけか。そうとなったら、さっさとアイツを呼び出して、俺は解放してもらおう、アイツが大体ヤクザを突き飛ばしたりするから俺がとばっちりを受けるんだと、きっかけが自分にあったことなどすっかり棚上げにして、相談事を口実に呼び出した。光和は言われたとおりに防風林の方に向かうと、ヤクザがその入口のあたりで声をかけた。
「おい、兄ちゃんよ、アイツを探してるんだったらこっちだぜ。」
一瞬怯んだが、状況をなんとなく察して付いていくと、手錠をかけられて木に半ば吊るされている淳平の姿が目に入った。
「おい、コイツをどうするつもりだ。」
といって近づこうとすると、淳平は、
「お前のせいだかんな、お前のせいで俺はこんな目に遭っているんだ。謝れ、土下座でも何でもしてすぐに謝って誠意を示せ!!」
と喚き散らした。謝るといっても、何を謝ればいいのかわからなくて戸惑っていたが、とりあえず土下座しようとしたところで、出っ歯が声をかけた。

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toppoi01 at 16:54|PermalinkComments(0)
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