復讐
2023年04月25日
だって夏じゃない(5)
もう夏も終わりだ。風も涼しくなって、すっかり秋めいてきた。クラゲが今年は異様に多いし、もう海に入るって陽気でもない。ただ、泳ぎにっていうわけではなく、海に来てパラソルの下で寝転んで、海の家で焼きそばをつまみに昼から生ビールをグビグビ飲んで一日を過ごすなんて客も少なからずいるので、海の家は許可された8月いっぱいまでは続けている。まあ、監視員のバイトも同じで、人が泳いでいてもいなくても、雨が降っても暑くなくなっても、さすがに台風接近のように遊泳禁止になる場合はともかく、そのシーズンが終わるまでは続くのだった。あいかわらず光和はデカい体を屈めて青いビニールのようなクラゲの死体を拾っている。空き缶空き瓶だけではなく、近くの川から流れ込んでここまで漂ってきた木の枝とか色褪せたペットボトルの蓋をも拾っているし、海水浴客は逆に減る一方なので、海岸はすっかりキレイになった。昼下がり、この頃になるとようやく過ごし易いというよりはちょっと暑いくらいになる。すると、この前の、出っ歯と木偶の坊がやってきた。今日は兄貴分らしき人はいなかった。二人は座ると、ビールと焼きそばを注文した。何かあったらすぐに警察に電話していいよと言われていたが、二人とも今日は大人しく、というか何しに来たのかというくらい、ほぼ何もしゃべらず、淡々とビールを飲んで焼きそばを食べていた。で、金をちょうどぴったりテーブルの上に置くと、そのまま何事もなく帰っていった。あんなにいろいろあり、それで1週間たつか経たないかのうちにまた現れて、なのに何もせずに帰っていくというのも不気味ではあったが、他の店員は皆一様に安堵の表情を浮かべていた。
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2019年12月15日
イスラエル王ダヴィデ(8)
内臓の奥深くから絞り出されるような雄叫びが広場を揺るがせた。これはダヴィデも未だかつて経験したことのない、死にも勝るような痛みであった。腰巻きから大部分がはみ出したそのモノは、どうしたってその鋭い攻撃から逃げおおせるはずがなかった。そして、それから三日三晩、ゴリアテの息子は憎しみを込めて、ありったけの力でダヴィデの下腹部だけを狙って蹴り続けた。その度に、人間の声とは思えない咆吼がバビロンの街の隅々まで響き渡った。カラダに響き渡る重低音のような痛みに耐え、ようやく収まってきたかと思われる頃に、ゴリアテの息子はまたも渾身の力を込めて下腹部を痛打した。ひたすらその繰り返しだった。アブディエルによって畏怖すべき程に巨大化した下腹部は、痛みもそれに比例して筆舌尽くしがたいほど壮絶なものであった。時には二つの大きな玉は勢いよく上方に跳ね上がって剛毛に覆われた臍の上辺りまで達し、棍棒のように不敵にぶら下がるモノも思いっきり跳ね上げられ、その衝撃で、バチンという激しい音と共にタマと一緒に汗まみれの引き締まった腹に叩きつけられた。また、時には玉が二つして足の甲と股との間に見事に挟まれてゴム毬の如く扁平に変形して潰された。折角アブディエルから賜ったモノがかようにしてまで苛まれるとは。ダヴィデは涙を流し、後生だから止めてくれるよう惨めに懇願したり、また王であることを忘れたかのように泣き叫んだりもした。前王が下腹部を蹴り上げられるという屈辱よりも今ここにある尋常でない痛みがそうさせたのである。しかし、ゴリアテの息子は父親の惨めな最後を聞いて育ったので、醜態を晒して許しを請うダヴィデの願いを聞き届けるどころか、決して下腹部を蹴り続けるのを止めようとはしなかった。
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2019年12月13日
イスラエル王ダヴィデ(7)
そして、ダヴィデは実行の翌朝に目が覚めると、その8つに割れた腹の上にずっしりと重く、そして自らが誇る鋼の腹筋よりも硬いのではないかと思われる棍棒状のモノが堂々と横たわり、そしてヒクヒクと蠢いているのを見て歓喜した。神が我が呪いを解いてくださったのだと。しかし、ダヴィデは致命的な勘違いをしていた。そこがクピドのままであれというのは神の意志であったのだ。世の中の慢心や驕り高ぶりの元凶をクピドのままにしておくことで、イスラエルの国を安泰に末永く治めさせることが神の意志であった。ダヴィデは自分は神に匹敵する姿を身につけた、そう思うことが背徳であり神の忌避することであった。神は激怒し、首都エルサレムに疫病を流行らせた。急激な人口低下により治安は急速に悪化し、首都エルサレムのみならず、旧ユダ王国も反乱を起こした。バビロニア王ネブカドネザルは、旧ユダ王の導きによりエルサレムに入城すると、ダヴィデ王を難なく捕虜としてバビロンに連れて帰った。ダヴィデはバビロンの中央広場にある大理石で造られた建造して間もないネブカドネザル像の脇に、ただくすんだクリーム色をした皮の腰巻きだけをまとった姿で、鉄の鎖で両腕を上げるようにして、また脚には重りで両足首がつながれていた。鍛え上げられた肉体に、両腋からはみ出るように生える腋毛と、臍から下腹部にかけて密生する臍毛が、勇猛な戦士であったダヴィデの、しかし王になった今でも健在であるという姿をまざまざと見せつけた。すると、まだ髭も生えそろわないくらいあどけない顔つきだけれども、まだまだ育ち盛りではあろうが既に一人前の大人程まで背が伸び、健全に育ってきてはいるものの、陰鬱で眉間に深い皺を寄せた目つきの鋭い少年が現れた。よく見ると亡きゴリアテにそっくりだった。その少年は、ダヴィデを憎々しい表情で見つめると、簡素な腰巻きでは到底隠せきれずにその大きさを見せつけているモノにめがけて勢いよく蹴りつけた。
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2019年12月07日
イスラエル王ダヴィデ(4)
ダヴィデは巨人ゴリアテの首を切り落とし、名声をあげた。そしてバビロニアと屈辱的な領土割譲条約を結ぼうとした旧王を退かせ、新たにダヴィデを新王に据えたのである。一方で、隣国ユダでは、神が古に起こした大洪水の教訓から民の安全を確保するため、バビロニアの支援を受けて通称バベルの塔の建設に取り掛かっていた。多くの人民がこの一大プロジェクトに駆り出されたが、ユダ王エホヤキンの狙いは、そんなところにはなかった。人間がアダムとイブしかいなかったころ、アダムは天使ガブリエルに尋ねた。人間は果たして天使になれるのかと。ガブリエルは、神に仕えていれば、天国へ上り、そして天使の道が開けると確かにこう言ったと伝承されている。しかし、アダムは神が定めた掟を破ったために地上に落とされたのだ。エホヤキンは考えた。天使に翼があり、アダムとイブは落とされた、つまりは天空に天国があるのは間違いない。我々は翼がないから天国に行けないのだ。であれば、天高い塔を作ればいいのではないか、そして天国に限りなく近づき、そこから支配するものは自然と聖的な力を与えられ、民は自らを神と同一視するに違いない。そうすれば、敵国イスラエルを倒し、神聖ユダ王国を建てることができるのだと。
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