告げ口

2023年04月22日

だって夏じゃない(4)

出っ歯は、ことの顛末を兄貴分にすぐさま報告した。興奮して、唾を飛ばしつつ早口で話した。兄貴分は、腕組みをしてずっと動かずに話を聞いていた。
「で、テメエはどうしたんだ。」
「やくざ者に手を出したらどうなるかってものをこの身で教え込ませないとなりませんぜ、兄貴。」
「その、オメエはいったい何されたんだ?」
「今話やしたとおり、投げ飛ばされたんですぜ、兄貴。」
と、ゴルフクラブのドライバーを奥から取り出して、
「そうか、テメエ、やくざ者に手を出したらどうなるかを教えてやったのか?」
「いえ、何しろ相手は力自慢なもんでして、でも、兄貴の手にかかりゃ、怖いものなしですぜ。」
兄貴分が立ち上がると、ゴルフボールを打つかのようにスイングをして、ドライバーで思いっきり出っ歯の足のすねに振り下ろした。出っ歯は弁慶の泣き所を押さえてうずくまる。
「おい、やくざ者が手を出されて、おめおめとよく帰ってこれたな。だったらもうやくざなんて辞めちまえよ。そんな根性なしを置いといたら、岸本組の看板に傷がつくってもんだ。」
しゃがんで出っ歯の顎をつかんで顔を近づける。
「テメエ、ボクサー崩れじゃなかったか?そんなんでやくざ稼業が務まると思っているのか?テメエに子分なんてまだ早かったな。また事務所の雑巾がけから始めるか、それとも・・」
「いや、待ってください、待ってください、兄貴。やくざ辞めたら、俺、もう行くとこないです。」
「オメエよ、あの兄ちゃんのいうとおりだな。俺がいないとテメエじゃ何もできないか?」
「・・・。」
「まあ、今日明日ってのもなんだから、一週間待ってやる。一週間でよくよく身の振り方を考えろ。」
兄貴分は、突き放すようなものの言い方をして、たばこの箱に手をかけた。
「あの、兄貴、身の振り方ってのは・・。」
出っ歯よりも先に、気配を消していた木偶の坊がライターでタバコの火をつけた。木偶の坊は、さっき抵抗されたときに殴られた鼻のあたりが青痣になっていた。
「無理だろ、あんなのシメられないようじゃ、この先やくざなんてよぉ。」
「いえ、必ず、この落とし前付けますから、どうか待ってやってください。」
兄貴分はほぼ吸っていないタバコの火をコンクリートの壁に押し当てて消すと、
「シメんのは勝手だが、ただ、サツにチンコロされるような真似はすんじゃねーぞ。刑事沙汰になれば即破門だからな。」

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toppoi01 at 21:00|PermalinkComments(0)
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