ヤクザ者
2023年04月25日
だって夏じゃない(5)
もう夏も終わりだ。風も涼しくなって、すっかり秋めいてきた。クラゲが今年は異様に多いし、もう海に入るって陽気でもない。ただ、泳ぎにっていうわけではなく、海に来てパラソルの下で寝転んで、海の家で焼きそばをつまみに昼から生ビールをグビグビ飲んで一日を過ごすなんて客も少なからずいるので、海の家は許可された8月いっぱいまでは続けている。まあ、監視員のバイトも同じで、人が泳いでいてもいなくても、雨が降っても暑くなくなっても、さすがに台風接近のように遊泳禁止になる場合はともかく、そのシーズンが終わるまでは続くのだった。あいかわらず光和はデカい体を屈めて青いビニールのようなクラゲの死体を拾っている。空き缶空き瓶だけではなく、近くの川から流れ込んでここまで漂ってきた木の枝とか色褪せたペットボトルの蓋をも拾っているし、海水浴客は逆に減る一方なので、海岸はすっかりキレイになった。昼下がり、この頃になるとようやく過ごし易いというよりはちょっと暑いくらいになる。すると、この前の、出っ歯と木偶の坊がやってきた。今日は兄貴分らしき人はいなかった。二人は座ると、ビールと焼きそばを注文した。何かあったらすぐに警察に電話していいよと言われていたが、二人とも今日は大人しく、というか何しに来たのかというくらい、ほぼ何もしゃべらず、淡々とビールを飲んで焼きそばを食べていた。で、金をちょうどぴったりテーブルの上に置くと、そのまま何事もなく帰っていった。あんなにいろいろあり、それで1週間たつか経たないかのうちにまた現れて、なのに何もせずに帰っていくというのも不気味ではあったが、他の店員は皆一様に安堵の表情を浮かべていた。
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2023年04月22日
だって夏じゃない(4)
出っ歯は、ことの顛末を兄貴分にすぐさま報告した。興奮して、唾を飛ばしつつ早口で話した。兄貴分は、腕組みをしてずっと動かずに話を聞いていた。
「で、テメエはどうしたんだ。」
「やくざ者に手を出したらどうなるかってものをこの身で教え込ませないとなりませんぜ、兄貴。」
「その、オメエはいったい何されたんだ?」
「今話やしたとおり、投げ飛ばされたんですぜ、兄貴。」
と、ゴルフクラブのドライバーを奥から取り出して、
「そうか、テメエ、やくざ者に手を出したらどうなるかを教えてやったのか?」
「いえ、何しろ相手は力自慢なもんでして、でも、兄貴の手にかかりゃ、怖いものなしですぜ。」
兄貴分が立ち上がると、ゴルフボールを打つかのようにスイングをして、ドライバーで思いっきり出っ歯の足のすねに振り下ろした。出っ歯は弁慶の泣き所を押さえてうずくまる。
「おい、やくざ者が手を出されて、おめおめとよく帰ってこれたな。だったらもうやくざなんて辞めちまえよ。そんな根性なしを置いといたら、岸本組の看板に傷がつくってもんだ。」
しゃがんで出っ歯の顎をつかんで顔を近づける。
「テメエ、ボクサー崩れじゃなかったか?そんなんでやくざ稼業が務まると思っているのか?テメエに子分なんてまだ早かったな。また事務所の雑巾がけから始めるか、それとも・・」
「いや、待ってください、待ってください、兄貴。やくざ辞めたら、俺、もう行くとこないです。」
「オメエよ、あの兄ちゃんのいうとおりだな。俺がいないとテメエじゃ何もできないか?」
「・・・。」
「まあ、今日明日ってのもなんだから、一週間待ってやる。一週間でよくよく身の振り方を考えろ。」
兄貴分は、突き放すようなものの言い方をして、たばこの箱に手をかけた。
「あの、兄貴、身の振り方ってのは・・。」
出っ歯よりも先に、気配を消していた木偶の坊がライターでタバコの火をつけた。木偶の坊は、さっき抵抗されたときに殴られた鼻のあたりが青痣になっていた。
「無理だろ、あんなのシメられないようじゃ、この先やくざなんてよぉ。」
「いえ、必ず、この落とし前付けますから、どうか待ってやってください。」
兄貴分はほぼ吸っていないタバコの火をコンクリートの壁に押し当てて消すと、
「シメんのは勝手だが、ただ、サツにチンコロされるような真似はすんじゃねーぞ。刑事沙汰になれば即破門だからな。」
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toppoi01 at 21:00|Permalink│Comments(0)