ピンチ

2023年05月02日

だって夏じゃない(7)

「別に、謝って済むんだったらヤクザは用無しだわな。まあ、こっちとすりゃ、落とし前はどっちにつけてもらったっていいんだが、どうするよ?」
と、ナイフを淳平に突きつけつつ出っ歯が言うと、言い終わるか言い終わらないかのうちに、
「おい、元はといえば、こっちが頼んでもいないのにヤクザを突き飛ばしたオマエが悪いだろ。悪いと思っているならすぐ跪け!!」
と、淳平はまたも喚き散らした。光和は先日、淳平が羽交い絞めされて殴られている様子を見ていた。突き飛ばしたのだから、その仕返しに来たのだと悟ったし、少なくともナイフで刺すのだったらとっくに刺しているだろうし、ここは様子を見た方がいいのだろうと思い、大人しく膝をついた。
「何が望みなんだ?」
「おい、その態度はなんだ、言われた通り何でもしますだろ。」
と叱りつけたのは淳平だった。
「まあ、俺も体が最近なまっちまってなぁ、年だなぁ、俺も。おい。」
と、ナイフを木偶の坊に渡した。で、ナイフを淳平に突きつける役を木偶の坊と代わり、
「サンドバッグ欲しいとこさなぁ、なあ、兄ちゃんよ、サンドバッグやるっけぇ?」
「やります、やらせてください、是非!!」
と淳平が代わりに答えた。
「なんだ、オメエ志願すんのけぇ?」
「違います、アイツです、アイツ。アイツがサンドバックなんです。」
と光和を当然のように指名した。さすがに出っ歯もその厚かましさにムッと来たし、用があるのはむしろ淳平の方であったが、一方で全く歯が立ちそうもないこの筋肉隆々の若者をひいひい泣かせてやりたいという思いもあったので、わざわざ呼び出したのだった。
「そっか、兄ちゃんがサンドバックになるか。じゃあ、その枝あんだろ、そこを両手で掴めや。」
出っ歯が指した向かいの木の枝を両手で掴むと、ちょうどサンドバッグのように見えてきた。出っ歯が殴る構えをとったが、すぐに止めると、
「兄ちゃん、サンドバッグは服なんて着てないやなぁ。」
「いや、それは、ちょっと勘弁して。」
「バカ、オマエは、脱げよ、サンドバッグなんだから、ほら、脱げ、脱げって。」
渋々脱いだが、恥ずかしいから、股間を片手で押さえている。
「兄ちゃん、サンドバッグはそんなことはしないやな?」
出っ歯もさすがに失笑した。周りは男だけ、それに男っぽい顔立ちのマッチョが股間を見られるのを恥ずかしがるというのも滑稽だった。恥ずかしそうに手を除けて、両手で枝を掴んだ。まあ、出っ歯も、そしてその他の者も、恥ずかしがる理由は何となく分かった。そんな立派なものを持ち合わせてはいなかったのだ。特に淳平は蔑んだような笑みを浮かべていた。それにしても、少なくとも海水浴場では見かけないような、全身筋肉で覆われたものすごい体をしている。海水浴場でこんなマッチョがいたら二度見してしまうだろう。男も惚れ惚れするような精悍な顔つきをしていて、普通の男の腿くらいはあろうこの太い腕、どうしたらこんな胸になるのかというくらい厚い胸、それでいて超合金並みの硬さだと推測できる腹、腕が腿であれば、足に至ってはもう木の幹のようである。筋肉で覆われたサンドバッグ、当たり前だが狙いはもう一点に限られるだろう。

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toppoi01 at 17:00|PermalinkComments(0)
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