スパイ
2021年05月05日
疑心暗鬼(3)
昼を挟み、作戦本部会議が開かれた。実効支配地域の警邏が主題であったが、皆原はそれを上の空で聞いていた。斜め向かいに座っている郡は積極的に意見を言っていたが、薄笑いを浮かべつつチラチラとこちらを見ているような感じを受けた。そうか、と合点がいった。俺のポストを狙っているのかと。そして俺が今まで築き上げた諜報活動の成果を横取りし、俺を陥れることで昇進を狙っているのか。狡い奴だ。郡は俺より年は3つも上だが取り立てて軍功をあげた話など聞いたことがない。人を貶めて褒賞を得ようとは軍人の風上にも置けない。
「皆原中尉、皆原中尉。」
副班長の喜屋武が耳元で頻りに囁いた。我に返ると皆がこちらを凝視している。
「はい、あの、第一班といたしましては、この度の滄州南進の件でございますが、」
「中尉、その話は喜屋武少尉から既に伺いました。今は保定への進軍の策定をしておるのです。」
「は、失礼しました。保定、軍閥の拠点となっておりまして、保定、現状の兵力ですと、ええと、」
「もうよい!」
主任参謀長の小岩井が声を張り上げた。
「共産ゲリラの侵攻と軍閥に挟まれ、のっぴきならない状況にあるにもかかわらず危機意識が希薄である。喜屋武少尉。」
「は、失礼ながら私が説明をさせていただきます。保定南東部50kmにおきまして、共産ゲリラによる襲撃がここ数日にわたって起きております。我が軍は・・。」
主任参謀長の叱責にもかかわらず、皆原は結局この会議に集中できなかった。
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toppoi01 at 06:30|Permalink│Comments(0)