アスリート
2023年04月05日
だって夏じゃない(1)
門田淳平と定岡光和は、今日もこの逗子海水浴場で監視員の仕事をしていた。普通であればライフセーバーが携わる仕事であるが、ここ数年はライフセーバーのやり手がおらず、逗子海水浴場のような波も穏やかで遠浅の海岸は海難事故もここ数年ゼロが続いているということもあって、淳平も光和もライフセーバーの経験はなく、泳ぎが得意だからという履歴書の文言だけで採用された。淳平は細身で、脱ぐと腹筋がボコボコ浮き出て見えるほどだからそれっぽいのだけれど、光和の方は現役柔道部だからか異様に筋肉の盛り上がったマッチョな体形をしていて、水に入ったら絶対沈むなという感じであったのに、採用されるくらいであった。まあ、本当にこれといって事件事故はない。家族連れが殆どだ。淳平は、してはいけないことになっているのだが、忙しいときは海の家のバイトもしていた。ここは湾全体が見渡せる小高いところにあって、のんびりとできる。と、遠くに一人だけ、浮かんだり沈んだりという影が見えた。海の家にいた淳平は光和にサインを出す。が、こっちのいうことに気づいてはいるのだが、どうも動かない。埒が明かないのでそっちに行くと、
「今、このおばあさんが体調を崩したみたいで介抱しているんだ。あっち、やっておいてくれないかな?」
と、おばあさんがおそらく熱射病か何かで寝ているところを団扇であおいでいた。結局、小学生くらいの女の子を助けたのは淳平だった。だから、おそらく泳ぎは不得手なのであろう。
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toppoi01 at 14:58|Permalink│Comments(0)
2018年05月06日
ゴーグルマン(3)
ちょっと摩るのはまだ早かったかな、と性急すぎた動きをちょっと後悔したが、数時間後に三上の携帯が鳴り、次週の水曜日の同じ時間に会うことになった。同じ喫茶店で待ち合わせることにした。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
今日は先週と異なり、ちょっと肌寒いせいもあってか、ジーンズに長袖のジャケットを羽織って現れた。
「今日はちょっと撮影をするから。」
「・・自分、でも、そういうのは、何か・・」
撮影OKと言ったのに、ここまで来ておいて何ブーたれてんだ、乙女か、と内心イラついたが、
「撮影といってもね、外で服を着たまま、ちょっと運動してもらったり、インタビューをしたり、まあ、そんな構えなくても大丈夫だから。」
と、ワゴン車に乗り込んだ。5分間、無言で走る。河川敷の脇に車を停めた。
「ちょっとこれに着替えてくれるかな?」
薄手の青いランニングパンツにジャケットを渡す。
「ジャケットの下は着ないで。」
ジャケットは着古されていて、背面には「明治大学ラグビー部」と書いてあった。サイズはちょうどいい感じだったが、ドアを開けるとさすがに寒かった。河川敷の土手を上がると、目の前には江戸川が流れていて、その手前はグラウンドになっていた。
「じゃあ、撮影始めるよ。まず、向こうからダッシュしてきてくれる?」
「次に、腕立て伏せしてみようか。」
「スクワットいい?」
「ストレッチシーンを撮るから、座ってくれる?」
次々に指示をされ、そのとおりにこなした。
「いいよ、いいよ。舌を出して頭をかいてみて。」
「腕を上に上げて、肩のストレッチしようか。」
「ラグビーボール持って、ニコって笑って。」
「いいね、じゃ、親指を立ててグッドって言ってみようか。」
そんなこんなで2時間くらいが経った。
「ちょっとさ、そのジャケットをまくって見せて、そうそう、腹筋をチラッと。」
「このスポーツドリンク飲んでみようか。いいね。もっと、そう、全部飲んで。」
「土手に座って、太陽の方を見てくれる?そうそう、眩しそうにして。」
「この土手駆け上がったりしてみようか。」
「じゃ、土手にまた座ってくれる?ちょっとインタビューシーンを撮るから。」
「全部ゲイビデオなんですか?」
「そうだよ、もちろん。何だと思ったの?」
「いや、なんかおもしろいっすね。」
インタビューと言っても、サークルのことや合宿のこと、彼女のこととかたわいのないことで、それでも20分くらいはしゃべった。
「トイレは大丈夫?」
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