終わりの見えないデスマッチBⅢ

2018年03月25日

終わりの見えないデスマッチB(12)

終わった後、ハッとするとすっと鼻血が一筋垂れて、ジーンズを赤く染めていた。そして股間はずっと硬い状態を維持していた。一対一の喧嘩、それも誰にも止められることもないし、ルールに縛られずに強い者が勝つという単純明快なルール。今までずっと意味も分からず、時には理不尽なルールで雁字搦めに縛り付けられていた実来にとって、内から解き放たれた、とても爽快で弾け飛ぶような強い衝撃だった。こんなにも高揚とした気分は初めてだった。これが探していたものかとカラダに電気が貫通したかのようにビリビリという感覚が走った。帰ると、自分の気持ちを率直に仲間に伝えた。目標を持った実来は、それからは率先して暇さえあればトレーニングをこなし、そして健とスパーリングをした。というのも、他の者が全然相手にしてくれなかったからだ。頼み込んだがダメの一点張りだった。このデスマッチを選んでいるのはジャナバルとナデートだけだった。二人とも、今まで会ったことのない人間だった。人間には違いない。しっかりとした日本語をしゃべっているのだから。ジャナバルはトルコから、ナデートはタイから子どもの時に買われてきた、というよりは親に見捨てられて引き取られたというのが正解だろう。そもそも、風貌が人間とはいえず、親から忌み嫌われて生まれたときから孤児だったのである。


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2018年03月28日

終わりの見えないデスマッチB(13)

ジャナバルは腕が4本あり、指も6本それぞれ生えている。そのせいか、上半身の発育が尋常ではなく、おそらく実来の2倍はあるのではないかというくらいの肩幅で、胸ももの凄く厚く、肩幅もアンバランスに広かった。ただ、腕は上腕の方が太くて、普段はその上腕の方だけ使っていて下段の腕は垂れ下がったままだった。そのためか、下段の腕は2周りくらい細かった。ナデートは、ヒマラヤの雪男と言われても違和感がないくらい、ふさふさでやや硬めの黄金の毛に覆われていた。夏の間はその毛が薄くなって首や胸、内股の辺りは毛が全くなくなるが、その他の時期はその毛で皮膚が全く見えなかった。顔と尻は毛がなく、さっぱりとした顔つきをしていた。なので、ジャナバルと違って長袖シャツとジーンズをはいていれば気づかされないが、尻尾が足より長く、そしてその尻尾は手よりも自由自在に、そして素早く動かせるらしく、缶ジュースなどは尻尾を使って飲んでいるくらいだ。あと、口を開くと、糸切り歯が牙のように鋭く生えている。ひどい猫背で、聞くところによると四足で走った方が速いようだ。奇形と言われればそうなのだが、普段は実来に対してとても優しく接してくれ、普段から精悍で厳しい顔つきをしている健と異なり、いつもニコニコしていた。ジャナバルとナデートは、それぞれ別の専従の相手がいて、その人とトレーニングを積んでいたのだった。
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2018年03月31日

終わりの見えないデスマッチB(14)

実来は健に相談してみた。すると、ナデートについていたシディークがその役を買って出た。シディークは見たところ虚弱体質であるかのように線が細く、風が吹けば倒れるんじゃないかと思われるくらいだった。健と比べれば明らかに力の差があり、実践の相手だと聞かされるとからかわれているのかとムッとした。きっと見くびられているんだ、俺がこいつを打ちのめして突き返してやれば、俺の実力が分かるだろうと思い、早速シディークと実戦を行った。打って来いと一丁前に言うので、軽くローキックを放ったら避けられた。あんまり強めに蹴って相手を怪我させちゃってもなと思って様子見で健に徹底的に教わったジャブを繰り出すが、全然当たらない。フットワークがかなり軽くて避けられてしまう。シディークはケタケタ笑っている。余裕なんだ。しかし、あまりに当たらないと練習にもならない。こういうのは実力差がはっきりしている相手だったら分かるが、明らかにシディークの方が体格的に劣っているし、それでいておちょくられている。実来は、分かった分かったと手振りで示して、近づいていって、細い二の腕を掴んだところにボディを食らわせた。本気で殴ったわけではないが、うずくまって倒れ込み、エビの字になって呻いていた。さすがにやり過ぎたなと思って近づくと、実来の肩に手を乗せて、立とうとしたところにボディを食らった。取るに足らない相手だと思っていたし、そもそも腹筋には自信があったのだが、結構鋭いボディで、平静を保っていたが実は結構効いていた。「なかなか強いね。」とシディークはまだ腹を押さえていたが、ニヤッと笑った。
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2018年04月01日

終わりの見えないデスマッチB(15)

シディークは選手ではなくトレーナー志望で、ナデートだけではなく、いろいろな人をサポートしているようだった。普段はただ、基礎的なトレーニングとかアドバイス、栄養指導をしているのだが、俺には特別に実技指導をしてくれることになった。要するに、教えるところがあるというよりは、まだまだ見ていて荒いのだろう。しかし、実来には、きっと舐められている、シディークにも勝てると思い込ませるほど、自分を甘く見られているというように思えた。自分では健に学ぶことがないというくらいの気持ちだったので、その高く伸びた鼻を叩き折られたような形で屈辱的であった。加減してやったのに、もっと痛い目に遭わせた方がいいのだろうか。シディークは、またも打ってこいと実来を挑発した。赤い旗を前にした闘牛の如くいきり立ち、結構最初から本気モードでシディークに打ちかかっていった。しかし、本当に当たらない。逃げられているのではなく、スレスレのところでかわされている。そして、ふいに打ち込んでくるけれど、それはなぜか脇腹ばかりにヒットする。そこに吸い付けられるかのように狙ってきたところを当てようと思うが、そう狙い通りにはいかない。ガードが下がれば顔ががら空きになってしまう。また、同じ脇腹に!そして実来は崩れるように前のめりに倒れた。シディークは笑って「これで五分五分だね。」と言う。いや、全然五分五分ではない。足がガクガクして全然立ち上がれない。あんな当たっているか分からないくらい軽いパンチだったのになぜ?喉が渇いたという理由で、相手に悟られないようにゆっくり立ち上がり、ベンチの方に向かった。「肩、貸そうか?」と、やはりシディークにはそんな繕った元気が見透かされているようだ。


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2018年04月27日

終わりの見えないデスマッチB(16)

しかし、こうしてマジマジとシディークを見ていると、どう見ても腕も首も細いし胸も薄く、腹も引き締まってはいるが腹筋だってうっすら割れているだけで、強そうには見えない。むしろ弱そうだ。色黒の顔だからニッて笑うと白い歯が際立って見える。駅近くでインドカレーのチラシを配っているインド系の好青年くらいにしか見えない。俺が不覚にもダウンを奪われたのは冷静さを欠いていたからで、こんな奴にいくらなんでもやられるわけがない、そういう観念が確信に変わると、もう一度練習相手になってくれと頼んだ。そう言いつつ、実来は俺の圧倒的強さを見せつけてやろうという野心で燃え上がっていた。「いいけど、一つ約束してもらっていい?」と、シディークが真剣な面持ちで言う。「僕が1分以内に勝ったら、健のスパーリング相手を続けてくれる?」「え、それはなぜ?」すると、衝撃的な答えが返ってきた。「健が、君を特訓して欲しいって言ってきたんだ。けれど、僕は健が君を甘やかしていると思うんだよね。」「もっとできるのかと思っていたけど、健が手加減していたのかな。」と、堰を切ったかのように挑発的なことを言ってきた。「何言ってんの?マジで。」シディークが立ち上がったので、俺も相手の目を見ながら立ち上がった。「次は殺すぞ。」と、後ろを振り返りもせずにリングに上がったが、1分ももたなかった。顎にきれいに入って軽い脳震盪を起こし、リングに崩れ落ちた。大の字で倒れる俺を見つめるシディーク。ちょっと笑っていたので飛びかかっていきたいが、カラダが思うように動かない。シディークはコーナーで悠然とカラダを預けて俺を見ている。意識がはっきり戻ったところでもう一度シディークに殴りかかる。しかしすんでの所でシディークの前蹴りが俺の鳩尾にヒットした。たまらず俺はその場にしゃがみ込んだ。シディークはロープに両腕を預けたまま動かなかった。避けさえもしなかったのに。「ま、まだ・・。」声を絞り出すのがやっとで、何とか立ち上がった。
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2018年04月29日

終わりの見えないデスマッチB(17)

「無理じゃない?」「まだ、まだできる!!!」心配そうな顔をして見るシディークが腹立たしかった。そんな顔ができなくなるくらい徹底的に殴りつけてやりたかったが、全く当てることもできず、即座にリングに這いつくばった。シディークはリングの中央に移動して、「じゃあ、気の済むまでかかってくるといいよ。ただ、約束は忘れないでね。」と、またも立ち上げってくるのを根気よく待っていた。どうもはっきりと分からないが、こっちの動きが読まれているような感じがした。また、無防備だと踏み込んで入ると瞬間に、そして的確に狙われている。直前までよく見極めて冷静に判断を下している。じゃなければ防御をしないなんてことができない。それと、これはどうしてなのか分からないが、シディークの持っている力の源がよく分からない。当たっても大したことがないだろう、またスピードはこっちの方が上だろうと思ってかかっていくが、相手の方が速いし、かなり手痛いダメージを受ける。まず捕まえようとタックルを仕掛けても逃げられ、顔に渾身の力を込めて打ちかかっても、逆にカウンターで顔を殴られて吹っ飛ばされる。どこにこんな力があるんだと顔に手を当てていると、シディークが鳩尾目がけて蹴りを食らわせた。「ぐぉぉぉぉ!」さすがに二度も鳩尾にまともに食らっては、とてもじゃないが立ち上がれる状態ではなかった。エビのようにカラダを丸めて縮こまり、断続的に襲ってくる吐き気と戦っていた。
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2020年08月14日

終わりの見えないデスマッチB(18)

「じゃ、約束は守ってくれるよね?」呻吟している実来を上から見下ろす形で、心配そうに見つめながらシディークが話しかけた。約束・・吐き気が邪魔して声を出すことさえできないが、肯きもしなかった。「僕から健に言うよ。健はボクシングというルールの縛りで、君に手加減をしていたんだし。」「なんで・・。」と言おうとしたけれど、声に出すことは叶わなかった。「健に逆にスパーリングの相手をしてくれって言ったらどうかな?そうすればボクシングって縛りはなくなるわけだから。それでも健に不足を感じたら、僕のところに来たらいいよ。」「・・・。」約束なので、こっちから言う権利は何もなかった。しかし、こんなにまで力の差があるとまでは思わなかった。シディークは何者なんだ?「そうそう、健はナデートとスパーリングしているんだった。見てみようよ。」と、未だに鳩尾への鈍痛で動くのもままならない俺の手を引いて、奥にある、まだ入ったことのない密室に入って行った。

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2020年08月16日

終わりの見えないデスマッチB(19)

そこには、あの獣毛をまとったナデートが、うつ伏せになって伸びていた。隣で背なし椅子に座って、健は携帯電話を弄っていた。「やぁ、健。休憩中?」シディークが声をかけると、健が近寄ってきた。「どうも頭では理解しているのかもしれないけどさ、カラダが動かないよ。」「何、ディフェンスのこと?」「そうそう、倒そうって気ばかり強くて防御が疎かになっているって言ってんのにさ、分かんないんだよね。」よく見ると、ナデートはアンダーウェアを身に着けていなかった。黄色の毛で覆われた尻尾と対照的に、尻がきれいにツルツルなのが際立って見えた。「ああ、じゃあこの実来と同じだ。」「え、手加減してくれた?」「もちろんだよ。大事な君の実来を壊したら、僕、どんな目に遭わされるんだか。」ってシディークが笑っている。健はシディークよりも強いのか?そもそもなぜナデートは伸びているのだろうか?「まあ、いいよ。約束でシディークに戻すってことにしてあるから。」ん?もしかして、お互いに戻すって約束させてスパーリングさせていた?「ナデート、じゃ、約束だから。」「まだ、まだ、俺、できる。」俺と同じことを言っている。「いいけど、同じだろ?」と、健はグローブを器用にはめ始めた。

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2020年08月19日

終わりの見えないデスマッチB(20)

「俺が狙うのは金玉。他は皆フェイント。ナデートは何でもあり。簡単だろ?しっかり守れよ。」そっか。それで履いていないんだ。より実践に近い感じだけれど、大きなハンデだ。ナデートの方がカラダは大きいし、なんせその身体中を覆う剛毛がクッションともなるし厳つさを増していた。尻尾も握手ができたりコップを取ったりできる程自由自在だ。足を掴んで倒すくらいわけがない。それでいてこんなハンデを付けるとは、正気の沙汰じゃないな、痛い目に遭って見なければ分からないんだと、健を過小評価している実来はそう感じていた。「がああぁっ。」と獣のような雄叫びをあげて健に突進するが、健の間合いに入ると躊躇した感じがありあり見えた。こっちはもどかしくて見て入れらなかった。そんなの一撃で一発KOできるんだからガンガンいってかましてやれ、そう思っていた。ヒュンと空を切る音がした。尻尾がかなりの速さで健を襲い、背後から膝のあたりを絡めとった。健はバランスを崩し、・・「あがあぁぁ。」と叫んだのはナデートの方だった。尻尾が到達する前に仰け反り気味に倒れていき、足の裏でナデートの股間をかち上げたのだ。「うーん、うーん。」と獣みたいな姿をしていても股間の痛さは変わらないようで、実来も思わず自分の股間に手をやった。シディークがすかさずナデートに近寄って、股間を押さえていた手を除けて、まじまじと見ながら揉んでいた。「あーあ、ひどくやられたね、ナデート。ボールがこんな腫れてるよ。これ、何回やられたの?相当無理したんじゃない?」ナデートは今までの厳めしい顔つきとは打って変わって、シディークの小さなカラダに飛びついて泣き出した。シディークがその大きなカラダを抱き寄せつつ、「もう、まだ早いって言ったのに、聞かないからさ。少しは分かったでしょ?」「だってぇ、だってぇぇ。」と泣きじゃくっているのを横目に、健が近寄ってきた。
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2020年08月22日

終わりの見えないデスマッチB(21)

「どうだった?シディーク先生は。楽勝?」実来は顔を俯いた。健はニヤニヤして顔を上げない実来を見ている。「ちょっとは手ごたえあった?」もう、顔を真っ赤にして俯くしかなかった。健はきっと実来が普段抱いていた不満を皆知っていたのだ。「俺ともやる?」いや、実来は健が足技が使えることを全く知らなかったので、正直驚いた。いつもボクシング用のグローブをはめて練習していたからだ。「いいぞ、同じで、ハンデつけても。」しかし、正直ほぼ互角にいつもスパーリング相手を務めているわけで、ハンデというのは引っかかるものがあった。それに、健に不満があったというのは健の能力不足に物足りなさを覚えていたからであって、それはそれで自分のことを分かっていないなとも思った。「まあ、止めとくか、シディーク先生にしこたまやられただろうしな。」さっき、思いっきり当たって全然歯が立たなかったのは事実だが、健には勝てる気がしていた。「いや、やります。ハンデなくてもいいですけど?」「おいおい、今日は強気だな。ま、ハンデやるから、俺を後悔させてみたら?」実来は顔を紅潮させて、どうなっても知らないぞという思いでリングに上がって行った。

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