耐えてみろ!Ⅵ

2017年11月21日

耐えてみろ!(16)

陽一郎は今日も西八王子駅近くの小汚い焼き鳥屋のカウンターで、生レモンサワーを飲んでいた。後輩を片っ端から呼び出すが、今日は全然捕まらなかったので一人で飲んでいた。しかし、それも当たり前だった。ウエイトリフティングの試合が近いため、他の部員は当然のことながら栄養面のコントロールを計画的に始めている。食事の管理は即成績に反映する。それに大学の体組成計で日々記録することが義務づけられており、不摂生が露見すればトレーナーにきつく絞られる。しかし陽一郎は口うるさいトレーナーやコーチと早い段階で不仲となり、スポーツ推薦で入った身でありながら、挫折した落ちこぼれ組であった。でありながら酔うと後輩に絡み説教し出す絡み酒なので、部内で付き合う後輩はまあいなかった。ざっとメニューをこなして体の中の水分があらかた抜けた後に飲むサワーは最高だった。一通り食べ終わる頃には、若干足下がふらつく程度まで酔いが回っていた。

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2017年11月23日

耐えてみろ!(17)

陽一郎のいる寮は駅を通り抜けて反対側にある。この商店街と平行して伸びている飲み屋街は、駅に近づくにつれて華やかになり、風俗街に変わる。都心では勧誘はもちろん御法度だけれど、八王子まで来ると規制も緩いのか、半ば大っぴらに呼び込みをしている。陽一郎がゲイだとは知る由もなく、また対学生でもあり、キャッチは馴れ馴れしく肩に手をかけていい子がいると言ってきたり、腕をつかんだり行く手を阻んだりして、半ば強引に勧誘してくる。元々愛想がいいタイプでもないし、今日はずっと一人で酒を飲んで発散する相手もいなかったため、鬱屈していた。
「お兄さん、ちょっと遊ぼうよ。」
とデカパイしか売りがなさそうな女が、手を無理矢理胸に持って行った。
「うるせーな、触んな!」
女を突き飛ばすと、その横の分厚い金のネックレスをつけてサングラスをかけた男にぶつかった。
「なあなあ、兄ちゃん、威勢がいいな。」
陽一郎より二回り位でかいカラダをした奴がこっちに向かってきた。
「商品に手を出したら困るんだけどね。」
「うるせーな、そっちがやって来たんだろ。」
「見てたけど、胸触っちゃったよね?」
「あのブスが勝手に触らせてきたんだろうがよ。」
「ひどーい。」
そこにやせ細った勤勉そうな警官が割って入って来た。
「何かありましたか?」
すると、たまたま通りがかった通行人であるかのように、皆がそれぞれ勝手な方向へと歩いて行った。警官はそれを見届けると、自転車に乗って奥へ消えていった。

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2017年11月25日

耐えてみろ!(18)

すると、今度は金髪ロン毛の奴が仲間と談笑していたときに後ろに反り返り、陽一郎に接触した。
「テメー、気をつけろよ!」
と陽一郎は強めに突き飛ばすと、その談笑していた仲間も陽一郎の方を一斉に見た。
「イヤイヤイヤイヤ、それはないっしょ。」
「謝るってことしないの?」
陽一郎は振り向くと、その金髪ロン毛の胸倉に掴みかかった。すると、周りのホストっぽい男たちがそれを引き離しにかかった。陽一郎はそのホストに頭突きを2,3発喰らわせていたところ、さっきのサングラス男がこっちに来た。
「その兄ちゃんさ、B対応。」
すると、ホストたちが一斉に、
「ありがとうございます。」
と深々とお辞儀をしていた。すると、今度はホストたちが陽一郎の腕をつかみ、
「お客さんご来店ー。」
とホストに囲まれて店の方に向かっていった。陽一郎は
「何だ、行かねーよ、離せ。」
と抵抗したが、多勢に無勢で連れていかれた。ただ、店の脇の非常階段の脇をすり抜けて、屋外換気扇ばかりが集まって複雑な臭いの立ち込めた一角に来た。真っ暗だったが、急に上のライトが感知して、明るくなった。陽一郎の脇に一人ずつついて、腕を首からそれぞれ回し、背面はブロック塀という状態で、その他のホストたちはそれをただ見守っていた。

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2017年11月26日

耐えてみろ!(19)

すると、さっきのガタイの良いグッチのサングラスをつけた男がガムをクチャクチャ噛みながらやって来た。鼻にピアスをつけて、この寒いのに薄いTシャツを着て、太い腕にはタトゥが入っている。
「お疲れ様っす。」
ホストたちが一斉に礼をした。男がグルッと見渡して、それから陽一郎に向かって話しかけた。
「兄ちゃん、この辺の人?」
「うるせえ。」
と唾を吐きかけたが、男はそんなことに動じずに淡々と説明を続けた。
「街には街のルールっつーもんがあるんだわ。兄ちゃんもこれからもここでやっていく気なら、その辺、覚えておくといいわ。」
と言うと、その男が近づいて来ると、両脇のホストは脇にグッと力を入れて陽一郎の腕を固め、待ち構えた。シメられるんだなと漠然と分かっていたんで、歯を食いしばってその動きを見ていた。来る、と全身の筋肉を硬直させたが、「フンッ」という荒い鼻息と共に、なかなかの重い一撃を腹に食らい、その弾みで後ろのコンクリート塀にぶつかった。そして、間髪入れずにまた同じ箇所に力の入った一撃を食らう。覆われた皮下脂肪などを物ともせず、まるで臓器を守るべき脂肪が自ら避けていったかのように、腕そのものが臓器のあるあたりまで奥深く入り込み、胃袋の下方部が潰されて上に突き上げられた。背後は硬く冷たいコンクリート壁で挟み撃ちにされ、ダイナミックで逃げ場のない一撃が襲ってきたのである。
「おおぅ。」
と、その男が俺の腹を殴るたびに周りのホストは一斉にかけ声をかけている。そもそも、陽一郎はウエイト競技をしているから胸は人一倍厚いのだが、腹回りは日頃の不摂生が祟って脂肪がしっかりとついてしまって、筋肉の周りに脂肪があるという言い方もできるが、少なくとも見た目は緩かった。まして、さっき食ったばかりで、一人酒でサワーもガンガン飲んでいたし、ただでさえ膀胱にもう余裕がなく、すぐにでもトイレに行って用を足したいところでだった。ただでさえ、とても腹に力を入れて守れるような状況ではなかったのに、こんな重いボディブローをもらってはひとたまりもなかった。二発目当たりで生暖かい水が股間の中央部辺りから徐々に塗らし始め、三発目からは一気阿世にダムが決壊したかのごとくジャバジャバと流れ出して地面を濡らしていった。五発目くらいで胃袋が悲鳴を上げ、グッと大量にこみ上げてくるものがあるのを止められず、さっき食べたものをしこたま吐いた。しかし、そんなことを意に介さずに規則的に腹へ拳がねじ込まれ、その度に胃の中の内容物が逆流し、ほぼ胃の中が空になるほど吐き尽くし、ようやく終わった頃には周りは吐瀉物と小便で悲惨な状況になっていた。
「今度からは気をつけて歩けよ。」
と、男が去って行くと、
「ご指導ありがとうございました。」
とホストが一斉におじぎをした。陽一郎は解放された後も、もう吐くべきものなど残っていないのにゲーゲーと吐き続けた。誰も介抱してくれる人はおらず、時折襲ってくる吐き気に耐えながら、駅を突っ切って宿舎に戻っていった。
こんなことがあってから、当分は慎吾に対する腹蹴りの儀式は行われなかった。慎吾は、最近陽一郎の機嫌がいいんだなといい方に解釈していたが、反面、たまには俺の腹をメチャメチャにして欲しいとも思っていた。

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