終わりの見えないデスマッチBⅠ

2018年02月28日

終わりの見えないデスマッチB(1)

世の中には、必ずしも両親に愛されつつ産まれてくる者ばかりとは限らない。何らかの理由で子どもの存在を知られたくない者、経済的理由で育てられない者もいる。そういう子どもは親から離れ、祖母兄弟がいればまだしも、遠い親戚に預けられるとか、子どものいない家庭に養子として引き取られることもある。それだけではなく、金欲しさゆえに売られる子どももいる。それに、五体満足で産まれてくる子どもばかりではない。生まれながらにして何らかの欠陥を有している子どもは、もちろん腹を痛めた子供だからということもあるが、一方でこれから先の長い人生のことを悲観して育てることを放棄する親もいる。公にはならないが、こうした人に言えない事情によって育てることを放棄された子どもたちを集めている組織がある。人身売買。女の子は売春婦、身体障害者は乞食として搾取される運命である。しかし、中には類まれな素質を見出され、英才教育を施され、新たな価値を付与されて世に出る者もいる。

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2018年03月02日

終わりの見えないデスマッチB(2)

西条実来もその一人だった。中国人留学生と新宿歌舞伎町のとあるソープランドで働く売春婦との間にできた子どもだが、男女関係のいざこざで生後まもなく母親は同業者にナイフで惨殺され、父親は実来が生まれる前に既に帰国して、そのまま行方知れず。本名を隠して働いていたために身寄りもなく、戸籍さえもない実来は、住み込みで働いていたソープランドの売春婦たちに囲まれて育った。ただカラダを好きでもない相手に捧げ、そうして稼いだお金は服や宝石、不特定多数の男にすぐに吸い取られていく、そしてそんな金回りがいい生活も一時だけで、新人が入ってくれば急に収入が減り、生活するのがやっと、ソープランドから放り出されればホームレス同然の生活をするしかないような最底辺の女が集まった場所、そこで実来は心のすさんだ売春婦の心を癒すのにうってつけで、ほぼ全員の売春婦から可愛がられ、逞しく育ったが、警察の一斉摘発によってソープランドは営業停止となり、売春婦は新しい住処を探して方々へ散っていった。実来は唯一の住処を奪われて、警察を通じて、多摩郊外にある施設に移ることになった。
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2018年03月04日

終わりの見えないデスマッチB(3)

「えーん、えーん。」
うずくまって泣いている子どもの脇に女の養護教諭がいる。
「だめでしょ、こんなことをしちゃ。」
実来は自分が悪いことをしたとは思っていなかった。施設でTシャツにアイロンで貼ってもらったワッペンを剥がされたので、相手の股間を蹴ったのだ。
「ここは子どもが生まれてくる大事なところなのよ。ここを蹴ったりしちゃダメなの。分かった?」
そんなことを小4に言ったところで分かるはずがない。施設での生活は正直馴染めなかった。今まで売春婦たちからチヤホヤされて育ったのだが、施設ではそんな愛情を示してくれる人はごく少数で、いじめられても誰も助けてくれなかった。いじめを受けても誰にも相談できなかった。食事に虫やゴミが入っていたりしても、除いて食べた。味噌汁から消毒液のような臭いがしたときはさすがに食べなかったが、後で無理矢理飲まされて、トイレでしこたま吐いた。ルールでがんじがらめにされた施設の中で、いじめるのがいわば遊びだった。遊びだから、顔なんか殴ったりしない。後ろから蹴られてつんのめって机の角に頭をぶつけたり、とび蹴りの練習代になったり、絞め技で何度も落とされたり、肩を思いっきり殴られたり、腹にすれ違いざまに国語辞書をぶつけられたり、プロレス技をかけられたり、ホッチキスを後頭部に投げつけられたり、トイレで用を足しているときにホースで水をかけられたり、椅子に画鋲を置かれたり、枚挙にいとまがなかった。それが普通でそれが日常だった。いじめや嫌がらせを訴えればそれだけまた仕返しが来るだけで、何の解決にもならない、絶望的な閉じられた世界だ。それがワッペンを剥がした相手が明らかに悪いのに、なぜ俺が怒られるのかが理不尽だった。何もかもが不条理から成り立っていた。

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2018年03月07日

終わりの見えないデスマッチB(4)

しかし、ふとしたことでいじめられることがなくなった。実来がソープランドから施設に移るとき、年齢は分からないがおそらく60くらいは優に超えているおばあさんの現役ソープ嬢が、小さなシールをくれた。プリクラのシールで、おそらく携帯か何かに貼ってあったのだろう、写真はこすれて擦り切れていた。しかし、笑って写っている若い二人の姿は確認できた。
「これが、あんたのお父さんとお母さんなんだ。こんなのしかなくてごめんね。かわいいだろ?あんたのお母さんは本当に性格のいい子でね。子どもができたってのが分かって、皆堕ろせって説得したんだけどさ、結局産んだんだよ。その中国人のことが好きで好きでしょうがなかったんだね。でも、そんなあの子も産んですぐに殺されちゃってさ。死ぬ間際まで実来、実来って口走っていたっけ。だからみんなで遺言だと思って大切に育ててきたんだけど、サツの手入れが入って、・・そんなこと言ってもさ、まだ、分かんないよね。可哀相に。お父さんとお母さんの生きた証、これしかないんだよ。これしかなくてごめんね。」
そういって、老ソープ嬢はシクシク泣き出した。実来は泣かなかった。今まで自分にはどうしてお父さんとお母さんがいないのか、誰も教えてくれなかった。そして、通帳と印鑑を渡された。殺された母親が残したものだった。肌身離さず持っていたのか、通帳には血痕が残っていた。

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2018年03月10日

終わりの見えないデスマッチB(5)

ときどき、どうしても寂しくなったときは、ベッドと布団の間に隠してあったそのシールを眺めた。ピンク色のハートに囲まれて笑いかける両親。どっちも会ったことは一度もないし、きっと会うことも永遠にないのだろうが、そのシールを見ると、不思議と寂しさが消えるのだった。その大切なシールを、奪われてしまった。2年上で、育てていた祖父母が死んで、幼い頃から施設に預けられ、この施設のリーダー格になっていた奴だった。
「なんだ、このシール。誰、コイツ?」
「返してください。」
奪おうとしても、背が高いので届かない。周りの奴らは皆嗤って見ている。
「誰って聞いてんだけど。」
「返してください。」
「言えば返してやるよ。」
「・・お父さんとお母さん。」
皆、笑い転げた。
「お前、バカじゃねーの?お前は誰でも股開く名もないソープ嬢と薄汚いハゲたエロオヤジの子なんだよ。」
そう言って、そのシールを丸めて投げ返した。何かプツリと切れる音がした。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
気づいたら、そいつがうずくまって呻いていた。怒りに任せて股間に蹴りを入れたのだ。普段からいじめている奴がまさか反撃するとは思っていなかったからか、不意を喰らってモロに急所を直撃した。痛烈な痛みにもがき苦しみ、痛みに耐えかねて声をあげて泣いていた。シールをまた伸ばしてから周りを見ると、皆目を反らした。実来はシールを元の場所に貼って、固くひんやりしたベッドの上に寝転がった。


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2018年03月11日

終わりの見えないデスマッチB(6)

そして、いじめられることがなくなると、今度は不思議なもので張り合いがなくなった。もし、誰かが肩を小突いてきたら、因縁を吹っかけてきたらといつも気を張り詰めていたのだけれど、そんなことがピタッと止まったのだ。そして、そんな毎日に飽き足らなくなり、むしろこっちからきっかけを作っていくようになっていき、施設内外でいろいろいざこざを起こすようになった。そして、「売られた」。いや、表向きは引き取り手が見つかったというべきなのだが、実際は厄介払いであった。ただ、決して嫌で行くわけではなかった。最初は更生施設に行くのかと思っていたが、そうではなくて養成施設であり、そこでは仲間と切磋琢磨して好きなことをすればいいというものだった。元々居場所なんて初めからなかった実来にとって、新たな挑戦の場でもあった。

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