耐えてみろ!Ⅴ

2017年08月11日

耐えてみろ!(11)

「生、もう一杯。」 ツレの後輩が店を出て30分、陽一郎はまだカウンターにいた。 「伊藤さん、明日朝一で練習がありますから、ほどほどに。」 「何だ、お前、俺に説教か?偉そうだな。」 「いえ、ただ、・・」 その後輩の代役に、陽一郎に急に呼び出され、延々陽一郎の愚痴を聞かされて、正直帰りたかったのが本音だった。 愚痴ならいいが、酒が進むにつれ、説教じみてきた。 ただ、慎吾に言わせてみれば、それは陽一郎がコーチに言われたセリフをそのままオウム返しに言っているだけだったから、陽一郎には全く響かない言葉だった。 その発した言葉はそのままブーメランのように曲線を描いて自分に突き刺さる。自己嫌悪に陥り、愚痴り、責任転嫁をして、それが輪唱のように重なり合って繰り返されて、終わる見通しが立たなかった。・・慎吾は、電話で呼び出されたのを機に、店を出た。もちろん、丁重に、穏便に済まそうと言葉を選んで。

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2017年08月12日

耐えてみろ!(12)

慎吾が帰ってからも、誰に聞かすわけでもなく、ただつぶやくようにして愚痴、そして責任転嫁は続いた。怒られたことに対する反省の言葉は全く出なかった。自己を正当化し、自分は悪くないと言い聞かせることで自分を慰めた。もちろん、本当はそれを慎吾に言ってほしかったのであるが。
後ろの客は逆に楽しく騒いでいた。くだらない話で盛り上がり、しょうもないことで腹を抱えて笑い転げていた。
「ギャハハハ。」
陽一郎の真後ろの客が、笑い転げて不注意で端に置いてあったジョッキを手で払ってしまい、床に落とした。グラスは割れ、炭酸の液体が泡を吹いて周囲に撒き散らされた。それは床に置いてあった陽一郎のバッグを濡らした。
「あーあ、何やってんだよぉ!」
他の二人は、割ったグラスを見て、ゲラゲラと笑い転げた。
「おい、何してんだ、テメー。」
陽一郎は、我慢できずに後ろを振り返って言った。
「すみません、今片付けますから。」
そう言ってきたのは店員であって、割った張本人と他の二人はただ、陽一郎の顔を口を半開きにして見ていた。
「やべえ、田舎臭いマッチョに怒られちった。」
「田舎臭いとか言うなよ、聞こえるだろ、ウケる。」
途端、またゲラゲラと笑い転げる。
「だって坊主はないだろ、坊主って。」
途中からゲラゲラ笑いが止まらなくなって、ずっと笑い転げている。
陽一郎はもうたまらずに、「表へ出ろ!」というと、ガラスの引き戸を開けて店を出た。
「ほらぁ、田舎マッチョがいきり立ったじゃん。」
「マジかよ、表出ろって、熱血漫画見てぇ。」
3人は、笑いながら面白そうに陽一郎を追って外に出て行った。

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2017年08月13日

耐えてみろ!(13)

「おい、誰が田舎侍なんだよ。誰だ。誰が言ったか言え。」
またゲラゲラ笑いが沸き起こった。
「違う違う、田舎マッチョなのに、侍になってる。訳わかんねーじゃん。」
「お前が田舎マッチョとか言い出すからそうなるんだろ?」
「マジ止めろって、腹痛え。」
陽一郎は怒りが押さえ切れなかった。人知れぬところでケリをつけようと思ったが、我慢がならない。振り向きざまにバカ笑いをしている黒メガネの顔を思いっきり殴った。メガネが先に飛び、仰け反るようにしてバランスを崩して倒れた。そして、一心不乱に飲み屋街を走り抜けた。途中、なぜ俺が逃げなくちゃならないんだという疑念が生じ、速度を緩めた。後ろを見たが、追ってくるという感じでもなかった。殴った相手を介抱しているんだろう。それにしても、見ず知らずの相手を殴ったりしちゃいけないよな。酒を飲んだ勢いとはいえ、日頃からスポーツマンシップと言っている俺が、それじゃいけないわ。走ったからか酒が急に回ったようで、ちょっとふらついた。そっか、それより金を払わないと。荷物も置いたままだ。またさっきの道を歩いて戻っていった。

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2017年08月14日

耐えてみろ!(14)

店で会計を済ませた。飲みかけの生ビール以外は全て片されていて、店員も立ってこちらを見つめていたんで、伝票を持って、そして荷物を持って出ようとしたが見当たらなかった。レジに行くと、ドアのところで俺のバッグを持っている男がこちらを見ていた。ああ、さっきの奴らか。まあいいや。外ではもう1人がこっちを見てニヤニヤして立っていた。勝手に歩き出したので、俺も付いて行った。それにしても、さっきいざこざを起こしたのに後ろ向きで歩くなんて無用心だ。バッグだって引ったくってまた走り去ることだってできるんだが、まあ何を怒っていたかすら朧気で、早く済ませたかったので言うとおりにした。
公園の時計があるポールのところに、男が睨んでいた。一見分からなかったが、壊れたメガネを持っていたので殴った相手だと分かった。
「これ、見ろ!」
フレームが曲がってレンズはなくなっている。踏まれたのか?
「おい、これ、どうする?」
弁償の話か。金で解決した方が楽だ。
「3万円払え!!」
冷静に考えれば、手持ちもあったし、メガネを新しく買ったことと殴ったことの侘び代として、3万円は妥当な線だったと思うが、3万円が唐突だったことと、殴って3万円だったら殴られたっていいよなと、貧乏根性が働いてしまった。
「3万円はなくないか?」
「何だと?」「おい、ふざけんなよ。」「ちょづきやがって。」
すると、俺のバッグがなぜか俺に投げられた。それを受け取ると、その殴った相手の持っている赤いガラケーに目がいった。俺のだ、って思った途端、そいつがそれを真っ二つに圧し折って、それも投げ返した。
あまりの衝撃にあっけに取られていると、急にそいつが駆け寄ってきて、俺の股間目掛けて正面から蹴りを喰らわせた。
「うぐっ。」
両腕でバッグや携帯を持っていたおかげでうまく防御できず、モロに喰らってうずくまった。
「バーカ。」「マッチョ頭悪いぞ。」
笑い声が遠ざかっていく中、股間のジワっと陰湿に襲ってくる痛みと、買って数週間しかたっていない携帯を破壊された喪失感で、ただ公園の一角で、しばらく呆然としていた。

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2017年08月15日

耐えてみろ!(15)

寮に帰り、早速慎吾を呼び出した。
「オマエ、分かってるよな。」
ま、いつものとおりだ。先に帰っちゃったのを怒っているんだな。慎吾は上着を脱いで上半身裸になって正座をした。さっきのビールでカラダがほんのり桜色になっている。
食事した後の腹蹴りはちょっと堪えるな。気を抜いてモロに入ったら、戻してしまいそうなんで、グッと腹に力を入れて、陽一郎の繰り出す腹蹴りを堪える。すると、廊下で慎吾の前に陽一郎と飲んでいたらしい後輩が部屋の前を通りかかった。
「おい、オマエ、こっち入れ!!」
全体的にがっちりした背の低くて坊主頭の、おそらくまだ大学入りたての1年生という感じな彼を呼び止めた。ランニングとトランクスと言う男子寮ならではの簡素な格好で、呼ばれたからと陽一郎の怒気の含んだ声と対照的に悪びれた様子もなく部屋の中に入ってきた。すると陽一郎は唐突に、その垢抜けない丸顔をした1年生の前に立つと、股間に膝蹴りを喰らわせた。
「はぁぁぅっ。」
両手で股間を押さえると、床に倒れてそのままうずくまった。
驚いている慎吾を見て、「オマエ、次やったらこれだかんな。」と言い残して部屋を出て行った。
ファールカップを買おうかな、と全く起き上がってこない後輩を横目にそう思った。

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