堕ちるところまで堕ちてⅠ

2017年04月25日

堕ちるところまで堕ちて(1)

赤いランプで照らされた店内。テーブルもソファも皆真紅。白ワインさえも赤く輝く。
「嫌、ん、モー、照さん。」
座り際にお尻をなでられ、毛深い腕を掴んでそっと払う。
「なんだよ、新入りか、やけに堅いじゃねーの、ヒヒヒヒ。」
書けた前歯も赤く照らされ、酒焼けで普段から真っ赤な顔は、却ってどす黒さを増している。
ネクタイも左に曲がり、はしご酒をしてきてここ、東上野のムーンサルトにたどり着いた客をさばく。
「照さん、久しぶりじゃないの、元気してた?」
正直、浩輔には名前すら記憶がなかった。ただ、ママがそう呼ぶし、いろいろ聞いていればそのうち思い出すだろうという、根拠のない自信があった。
「元気じゃないよ、ママ、元気なのはね、ココだけ。」
と、股間を指さし、下品な声で高笑い。
うわっコイツ最悪と思いつつも、
「すみませーん、私も一杯いいかしら?」
浩輔は木曜と土曜だけ、バイトで入っている。浩輔の仕事は客にボトルを入れてもらうこと。
グラスが空きそうだったら促し、減りが遅い客には自ら分け前をもらいに行く。
「おう、いっぱいでもおっぱいでも。」
と浩輔の胸を揉む。
「もう、照さん、ご機嫌なのね。」
またも、客の手首をつかんで払う。
「おいおい、知らない仲じゃねーんだし、いいじゃねーの。」
と、また浩輔の胸を揉み始める。
黄色と青の、横ボーダーのラガーシャツにはちきれんばかりにパンパンになっている胸は浩輔の自慢でもあった。
触れられただけでも体をビクつかせるくらいの性感帯。けど、酔客に触られるために鍛えたんじゃない。浩輔は歯を食いしばってこの屈辱に耐える。
そもそも知らない仲じゃないってなんなんだ?全く覚えがないし、それにゲイバーだから触られることがないわけではないが、こんなにも大っぴらに触られることは初めてだ。
「ごめんなさいね、ここはお触り禁止なの。また今度ね。」
「おっ!?今度っていつの今度だよ?」
「さあ、いつかしら。」
「今度はコンドーム用意ってか?ゲヘヘヘヘ。」
オヤジギャグに愛想笑いを浮かべ、敏感な胸を揉まれた興奮を落ち着かせようと深呼吸をする。ボトルを取りにカウンターに向かおうとすると、ズボンの縁を掴まれた。

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toppoi01 at 18:07|PermalinkComments(0)

2017年04月26日

堕ちるところまで堕ちて(2)

「おいおい、今日は君に用があるのよ、浩輔ちゃん。」
普段、店では「コウちゃん」と言われていて、名前そのままで言われることはない。俺を知っているのか?
「ああ、君さ、浩輔ちゃん。この写真見覚えある?」
携帯を俺にかざす。暗くてさっぱり分からないが、なにやら黒い影がもぞもぞと動いている。どうやら動画のようだ。ただ、目を凝らして見ても、人が何かを探しているのかくらいにしか分からない。
「分からないかな?暗いもんね。これ、中野にあるbo-zuってゲイバーの店内映像なんだよ。知ってるだろ?」
浩輔の顔から血の気が引いていった。目が泳いで焦点が合わず、明らかに動揺しているが、浩輔は平静を装って、
「ああ、知っています。よく行っていましたから。」
若干声も上ずっているのが自分でも分かった。この動画が何を物語っているか、浩輔自身がよく知っていた。
半月前、bo-zuで飲んでいた。ママが客を見送りに外に出て、もう一人、店内にいた客はトイレに立った。その隙に、カウンターの内側にあった現金12万円ちょっとを鷲掴みにして、そっとポケットにしまったのだ。
浩輔自身、これが初めてではなかった。3回目だった。初めはほんの少し、千円札2,3枚をかすめ取っただけだった。ばれないと思ったからだ。次は2万円。これもこの前の場所に手を入れたところ、たまたまこれが2万円だったというだけで、ばれないだろうと思っていた。
味を占めて、3回目は洗い合切、そこに置いてあった現金をそのまま持ち去った。もちろん、何食わぬ顔で会計を済ませた後で。もう来ないと決めていたから大胆だった。ただ、半日経って改めて明るいところで見ると、1万円札は全てカラーコピーだったことに気づくことになるのであるが。
その時の客が、浩輔は気づかなかっただろうが目の前にいるオヤジ、そしてママに依頼されて防犯カメラを設置し、犯人の目星をつけていたママに呼び出されて飲んでいたのだ。防犯カメラには、色こそ違えど、似たような横のボーダーの服が映し出されていた。
もう、何も言い逃れはできなかった。


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toppoi01 at 17:41|PermalinkComments(0)

2017年04月27日

堕ちるところまで堕ちて(3)

「お金は、お金はすぐに返します。」
実際盗んだのは2万3千円ほど、返せない額ではない。
「浩輔ちゃんよ、お金の話をしてないんだよ。これは立派な犯罪よ?明治大学水泳部3年の浩輔ちゃん。」
相手は俺の素性を調べてからここに来ているようだ。
「窃盗事件はマズいよね?学校だって停学で済めばいいけどね。ましてゲイバーで窃盗なんてね。」
結構目がマジで、視線を半ば上向きにして、落ち着いた様子で話した。
「どうしたらいいですか?」
唾を飲み込み、相手が一体何を望んでいるのかを聞いた。要は脅しだ。ただ、バレたら俺の将来はメチャメチャだ。
「パーティのゲストとして出てほしいんだ。」
「!?」
「いや、パーティって言ってもそんな若い人たちがするような奴じゃなくてさ、簡単に言うとゲイの金持ちが集まって、そこでショーをするんだけど、そこに出演するっていうんでどうだろ。」
なんだ、慰謝料含めていくらって話かと思ったが、拍子抜けした。
「弁償とかではなく、それに出ればいいってことですか?」
「そうそう。悪い話じゃないだろ?それにさ、そのパーティに出たら、逆にVIPの客からおひねりでるかもしれないし。」
「向こうのママもさ、金さえ返してくれればいいって言うし、実はそのパーティの主催者に写真見せたら、出てくれたらその金を肩代わりしてもいいって言うんだ。」
もう、話が知らないところで進んでいるようだ。
「分かりました。」
「そう?そっか。話が早いな。体育会系は物分りがいいよな。よし、じゃ、話つけておくから。」

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toppoi01 at 17:39|PermalinkComments(0)

2017年04月28日

堕ちるところまで堕ちて(4)

「いえ、待ってください。でも、ショーって、俺、本番とかちょっと勘弁して欲しいっていうか・・」
ガハハハハと、急に豪快に笑い出した。そして、しばらく笑い転げていた。
「いやいや、ショーってさ、そういうショーじゃないから。それ違法でしょ?筋肉見せ付けてさ、パンツも履いているしさ、そんな構えるようなことはなくて、何もしないでただ立っているだけでいい、簡単なショーだから。だって、無理でしょ、知らない相手とヤルなんてさ。」
「はい。」
「そんな、素人さんが急に人前で本番なんかできないんだから。だって、急に勃てって言われて勃つ?それも知らない人に囲まれて。ああいうのは演技力がないとできないの。そんなの求めちゃいないからさ。」
「はぁ。」
まあ、聞く限りでは全然なんてことない。なんかそんなもの?みたいにあっけにとられたというか狐にでもつままれたような感じだったが、金持ちって言うのは分からないものに金をかけるものだからなと変に納得して、承諾の返事を再びした。

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toppoi01 at 18:18|PermalinkComments(0)
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