2021年11月

2021年11月13日

終わりの見えないデスマッチB(41)

実来はそれ以来、姿を見せることはなかった。風の噂では、マネージャーの逆鱗に触れてどこか知らない国へ売り飛ばされたということになっていた。3年後、その実来がふいにシディークのところに現れた。「実来、実来、生きていたんだ、実来!!!」シディークに両肩をつかまれて前へ後ろへと勢いよく振られ、声も出なかった。生きているも何も、それからというもの、実来は智哉や父の仕事を引き継いでいろいろ忙しく、全世界をそれこそ飛び回っていて、ここに来る余裕がなかったのだ。ただ、顔は変わりないのだが、全身を黒服で包み、そしてなんともいいようのない、隠し切れない「影」が実来を陰鬱な形にして見せていた。ギュッと抱きしめられて・・人目をかまわず、二人は長いキスを交わした。ただ、それっきりだった。実来の左目から、一筋の涙が流れ落ちたが、何事も発することなく、そこから立ち去っていった。越えられない壁が二人を分け隔てているように、近くにいるのに遠い存在のようだった。

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2021年11月10日

終わりの見えないデスマッチB(40)

「ガッ。」目を開けると智哉がうずくまっていた。渾身のボディブローがヒットしたようだ。あんなに鍛えたカラダをしていても、結構大したことがなかった、この男は俺のことを子供だと思って軽く見ていたんだ、余裕ぶってかかってこいとかいうからこんなことになるんだ、と思うと、実来の口元が緩んだ。と、智哉がいきなり起き上がったと思うと、思いっきり拳で顔面中央を殴られ、後ろに吹っ飛んだ。鼻血が出て、痛みで涙がこぼれて鼻血と混じってカラダを濡らしていった。「オマエ、どこでもいいってキンタマはないだろ!!!」と、リングに座り込んで、股間を揉みほぐしている。と、手をたたく音が聞こえて、黒服の男が近づいてきた。「良くやった、良くやったよ。」「良くない!!!」黒服の男は、血だらけになった実来の前に来ると、頭を撫でた。「実来、良く育った。良く・・。」あとは、涙声と片言の日本語でよく聞き取れなかった。智哉が片手で股間を抑えながら近づいてきて、「実来、よく見ろ、お前のお父さんだ。」お父さんと言われても、全く覚えていないのでピンと来なかったが、目の前に差し出されたプリクラの写真、それも実来は1枚きりしか持っていなかったが、手帳に埋め尽くされた無数のツーショットの写真を見せられると、「お父さん」と言われるものが急に現実味を帯びた。

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2021年11月06日

終わりの見えないデスマッチB(39)

リングに上がろうとすると、智哉はロープを握ってカラダをほぐしている。と、誰もいないのにアナウンスが聞こえてきた。レフリーもいない。観客どころか人が全くいない。ただ、個室からさっきの男が眺めているだけなのだろうが、こっちからは見えないので様子を窺い知ることができない。「タイマン、タイマン。ある?タイマン。」全てが異様なので、言葉が全然入ってこなかった。口ももうカラカラに渇いている。と、智哉は腕も足も広げて、「好きなところ殴っていいよ。」えっ、と戸惑ってしばらく立ちすくんでいると、痺れを切らして両腕両足を閉じて、「ハンディだよ、ハンディ。」なおも様子を見ていると、智哉の顔もだんだんと険しくなっていた。「なぁ、分からないかな?俺もいつまでも優しくないぞ。10数えるから、それまでにかかってこい、10、9、8、・・・」とカウントダウンが始まった、しかも心持ち速く。足の震えが止まらないが、行かない選択肢はない、行くしかない。目をつぶったまま、実来は智哉に殴りかかった。

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2021年11月04日

終わりの見えないデスマッチB(38)

全試合が終わり、客が帰っていくのを見ると余計ソワソワしてきたが、智哉は隣の男と密着してしゃべっていた。智哉が男の膝に手を当てたり、手を握ったりと、かなり親しげだった。最初、親子なのかなと思っていたが、男の体にまとわりついたりしているところを見ると、まあ付き合っていると見た方が自然だった。客も全くいなくなって、清掃や後片付けを済ますとスタッフもいなくなった。「じゃ、やるかな。」と、右腕をグルングルン回して、服を脱ぎだした。「ああ、ここで着替えてもいいけど、雰囲気でないか。あっちで着替える?」と言うので、見慣れた更衣室に移動した。智哉はさっさと脱いでいく。サングラスを取ったら、結構愛嬌のある人懐っこい顔をしている。それに・・、腹筋とかパキパキって割れていて、無駄な脂肪なんて全然ない、普段の黒服からは想像もできないようなファイターのカラダ付きをしていたのに驚いた。「先行ってるよ。」と履いていたブランドもののトランクスを投げ捨てると、リングに向かって行った。

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