2019年11月
2019年11月09日
熾天使アブディエル(1)
アブディエルは天空にいた頃のことを思い出していた。背についた純白の翼を自在に操り自由に空を飛び回り、毎日が雲一つない晴天で眩いばかりの光を遮る物質は全くない。木々は花が咲き乱れ果実もたわわに実っているが、食べる者がいないので、甘く香しい匂いが辺りを漂っている。名をまだ与えられていない鳥の囀りに囲まれながら時折吹いてくる心地よい風に当たる。まだ宇宙というものが渾沌に支配されていた頃、ガスが渦を巻いて一つの輝きがまた生まれようとしている頃のことだ。太陽もまだできていないが、その光よりも遙かに強い光でこの世界は満ち溢れている。鳥の声が聞こえる木の下で一休みしようか。しかし先客がいるようだ。あそこにいるのはガブリエルか?輝いて眩しすぎて姿が見えない、気品溢れるガブリエル・・古き良き友よ・・
「ぎゃぁぁぁ!!!」
この世のものとは思えない悲鳴が辺り一面を揺るがせた。悪鬼がアブディエルの股間をまさぐっていた。そして大声に怯んでいったんは手を放したが、また垂れ下がった二つの玉を探り当てると、先ほどと同じように力任せに握ったのであった。
「あぁぁぁ、止めてくれ、止めてくれ、お前はなぜそのようなことをする?」
悪鬼にはアブディエルの草木がそよぐような声が耳に入らなかった。悪鬼はそもそも言語が理解できないのだった。仕事の一部として組み込まれているかのように、悪鬼はまたもアブディエルの玉を、その茨のような棘が生えた黒い手で潰しにかかった。
「あぁぁぁぁ!!!」
耳をつんざくような声がまたも辺り一面に響いたが、誰も応ずるものはなかった。
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2019年11月07日
よくあるファミレスでのできごと(5)
「おい、まだかよ、頼んだの、まだ来ないんだけど。」
いるんだよね、普段おとなしいくせにこういうときだけ大声上げてクレームつけてくる奴。仕事の時はきっと米つきバッタのようにペコペコしているような小心者なんだよな。
「お待たせしました。」
「遅ーよ。遅い。オ、ソ、イ。何やってんだよ。こんなのすぐにできんだろうがよ。」
額が大きく禿げ上がった黒縁メガネが、唾を飛ばしながらクレームを言う。その向かいにはそこそこ若くて色白で端正な顔立ちだけれども、さらに不機嫌に眉を歪めた男が。そんなに遅いってこともないと思うのだけれども、すみませんでしたと言って、さっさと立ち去る。
「あの、もう時間も過ぎているので帰ってもいいですか?」
「いや、ここ、俺のおごりだから、大丈夫。」
「3時間なので、延長なら店を通してもらいたいんですけど。」
「違う違う、これはほら、ここは俺が出すから、もうフリータイム。」
「ちょっと店と相談します。」
といって、席についたままで電話した。
「あの、お客様が延長を希望しているようですが、どうしたらいいですか?」
どうやらウリ専っぽいわ。でしょうね、釣り合わないし。何だ、あのハゲ、若い子の前だからって、粋がり過ぎ。
「はい、はい。もうお金は3時間分でいただいてます。はい。」
ハゲ、何か苛立っているわ。そうよね、金なら出すって言いたいんだろうけどさ。電話が終わったようだ。
「すみません。僕は次の予約が入っているんで、これで失礼します。」
「おい、そらねーだろ、こっちとらホテル取ってんだ、どうなってるんだ?」
「いえ、いただいているのは3時間のご料金で、既に3時間が経過していますので。」
「ふざけんなよ、3時間払ったんだからあとはフリーだろうがよ。」
何だろ、フリーって。あのハゲ、もしかして3時間で口説いて自分の物にした気でいるのかね?すごい自信。
「では、ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
「おい、おい。」
「お待たせしました、ナポリタンです。」
「いいよ、もう。会計。」
ファミレスで口説く自体でそもそもアウトなのに、鈍感だな。
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2019年11月04日
よくあるファミレスでのできごと(4)
訳アリな感じの薄幸そうな男二人組が入ってきた。険悪な感じで終始無言。飲み物だけ頼んで、あとはずっと何をするわけでもなく、一方は一方をずっと睨み、睨まれた方は下を向いている。
キョロキョロして入って来たサラリーマン風の男。冴えない感じだわ。その、向かい合って座っているところの脇にちょっと間を開けて座る。
「ねえ、いつから?」
クスリでもやってそうな感じの不健康そうな金髪が口を開いた。不穏な雰囲気だ。浮気?
「いつからって何が?」
「とぼけないでよ!」
目にクマを作った感じの丸顔が、コップをガンってテーブルに置く。でた、とぼけないでよ。久しぶりに聞くそのワード。っていうか、どっちもオネエ?
「何、何したの?」
「アタシが帰ってきたら、コイツがいたの。何、コイツ?」
「はぁ?アンタが何なんですけど。嗤える。」
「バッカじゃないの?この腐れマ××。」
「自分の顔見てからいいなさいよ、このブス。」
あの、何でファミレスで痴話喧嘩をするかね?家で遭遇したら家でやったら?
「どっちが本命なの?アタシよね?」
「どこまでおめでたいの?チー君はアタシにぞっこんなんだから。」
「オバチャン、そんなわけないでしょって。厚かましい身の程知らず。」
「ブスはでしゃばらないでくれます?」
化粧してないからよく分からなかったけど、どっちもそういやニチョのゲイバーの売り子だわ。スッピンだとどっちも冴えない男なんだな。若いと思ってたけど、よく見ると皴やシミがすごいや。
「うっせーんだよ、あばずれ。誰だってまた開くくせによー、マ××洗ってんの?マ×臭すごいんだけど。」
「アンタ、お黙んなさいよ。口臭いわよ。何食ったらそうなんの?ウ××?」
エキサイトしてきたから、冴えないサラリーマンはブス二人連れて二丁目に消えていった。つかみ合いとかするのかな?ブスの取っ組み合いっておもしろそう。仕事がなければ見に行くんだけれど。
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2019年11月02日
よくあるファミレスでのできごと(3)
「いやー、セーナ君、お疲れお疲れ。」
悠太が戻って来た。2時間経ってないけど、あのネクラ君どうしたの?
「参ったよ、泣かれちゃって。こんなつもりじゃなかったとか言い出されて。」
ん?経験したいって話だったよね?
「それがさ、よく分かんねーんだよ。経験ない人とヤリたいんだって。」
は?言っている意味がよく分かんないけど?
「だから、俺みたいな経験豊富な感じなのは嫌なんだとさ。俺のことをノンケだと思っていたみたい。」
え、処女希望ってまさか、あのネクラ君が処女ってことじゃなかったっけ?
「俺みたいにすぐケツ突き出したりするのは嫌なんだとさ、言わすなよ。」
悠太は忌々しそうにタバコを吸っている。整理すると、ネクラ君はノンケの処女を犯したかったんだけれど、悠太は見た目がノンケっぽいだけで、すぐに股を開くなんてバリバリゲイじゃないかってことだ。それにしてもそれで泣く?
「それは、俺がちょっとね、なじっちゃったからかな。」
煙を宙に向かって吹く。あの、トラウマにならないかね?
「っていうか、セーナ君、いつバイト終わるの?俺のケツ、使っていいからさ。」
俺も遠慮しておくっす。だって、ネクラ君より順位が低いんだもん。どういうこと!?
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