2019年08月

2019年08月29日

デリバリーC(4)

「何?」
「俺が何も知らないとでも思ってんすか?」
「何がだ?」
「随分といいことしているみたいじゃないですか。」
「・・・。」
「知ってるんすよ、俺。仕事終わってどこで何をしているか。」
耕太郎は心当たりはもちろんあるものも、それを淳平が知っているはずがなかった。
「これ、何だか分かります?」
とスマホを近づけて、画像をいくつか見せられた。画像は遠く不鮮明で、素人目には判別が難しいものであり、違うと言えばしらを突き通すこともできそうだが、次にスマホから流れてきた男同士の荒い息づかいと、ときどき漏れる淫靡な声は決定的だった。当事者の耕太郎にはそのときの情景がまざまざと蘇ってきた。おそらくは望遠鏡か何かでそこで夜な夜な行われた行為を全て見ていたのだろうし、盗聴器か何かが耕太郎に仕掛けられていて、何が行われているかが容易に分かる状態だったのだろう。夜景のキレイな高層階で誰も見ていないだろうという油断が大胆にさせ、それが一部始終見られていたのだった。
「すっげえ淫乱。すっげ。俺にも見せてくださいよ。」
と、汗ばんだシャツをめくると、バキバキに不揃いに割れた腹筋が目の前に現れた。
「すっげ、何この腹筋。やべえ。」
と指でなぞるように腹筋のブロック一つ一つをなぞる。
「おい、何するつもりだ?」
「決まってんじゃないっすか、このシチュエーション、じっくり楽しませてもらいますよ。」
と一気にシャツをめくり、頭から脱がせた。腋から汗が滴り落ちてきて、蒸せかえるような薫りが漂ってきた。ロッカーで着替えるときに、同僚のカラダを見る機会はあるが、宅配便の仕事をしているからと言って皆が皆、鋼のようなカラダをしているわけではない。栄養が足りていないのかガリガリに痩せている者、偏った食生活が祟って大きく腹の出た者など、いいカラダをしている者はそういない。そして、不摂生は特に口腔衛生に顕著で、歯が欠けたまま、そして全部の歯が虫歯なんじゃないかと言うくらいボロボロだったり歯が数本しか残っていなかったり、タバコのヤニやコーヒー等で変色していたりと惨憺たるものだった。こんな耕太郎のようなカラダは自然にはできないのだ。この分厚い胸板、こんなカラダをしていたらさぞかしいつもいい思いをしているんだなと思うと、ひどい嫉妬心に刈られるのだった。

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toppoi01 at 08:30|PermalinkComments(0)デリバリーC 

2019年08月24日

デリバリーC(3)

今日も集荷の仕分けをしていた。翌日は祝日だったので、集荷はあっても翌日の配達はあまりなく、結構皆早く帰ってしまっていたが、淳平はいつものように黙々と作業をしていた。耕太郎は真っ先に明日の準備を終えていたが、約束していた時間まで少し間があったし、いつものように淳平を手伝っていた。カートに荷物を整然と積み込み、それを耕太郎が倉庫に入れているときに、淳平は倉庫の鍵を内側からかけた。そして、予め用意してあった手錠を持ち、背後から近づくと、いきなり右手首と運んでいたカートへ手錠をかけた。耕太郎は、カートの真ん中あたりに右手を固定されたので、若干かがんだ状態で振り向き、「何するんだ!」と言った途端に、腹を蹴られた。バランスを崩して倒れそうになるが、手錠がそうはさせずに何とか持ちこたえたが、淳平は無言で耕太郎の腹ばかりを執拗に狙って蹴った。動く気力さえ萎えたところに、もう片方の手首にも手錠をかけられ、違うカートへと括られた。
「くっそっ、、、俺になんの恨みがあるんだ?」
と声を絞り出すように言うと、
「恨みなんてないっす。ただ、アンタをこうしてみたかっただけっす。」

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toppoi01 at 07:30|PermalinkComments(0)デリバリーC 

2019年08月21日

デリバリーC(2)

淳平が残って集荷の仕分けをしていた。ドライバーは担当エリアが決まっているので、どこをどうやって配達したらいいかということを予め決めている。ただ、指定配達時間や急な集荷、クール便など期限付きで配達すべきものなどいろいろあるので、荷物の入れ方もただ漫然と積めばいいと言うものではなかった。耕太郎のように考えて行動するタイプの人間には簡単でも、淳平のような、根っからの行き当たりばったりで生きてきたような人間にはそう簡単にできるものではなく、いつも積み残しができ、それが累積していつも遅くなってしまうのであった。耕太郎は、そんな淳平のことを仕事熱心で、仕事を抱え込んでしまっているからいつも夜遅くまで残ってやっているんだなと誤解していた。これは、耕太郎の人のいいところを進んでとらえようとする性格から来るものであって、大抵は好循環でうまくいくのであるが、今回は逆効果であった。「手伝おうか?」と淳平の答えを待たずに荷物の仕分けをして、ある程度見通しがつくと、「じゃあ、また明日。」と急ぐように帰っていく、そんなやり取りが数回行われた。

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toppoi01 at 08:30|PermalinkComments(0)デリバリーC 

2019年08月19日

デリバリーC(1)

「お疲れ様でしたぁ。」「お疲れぇっす。」22時になると続々と営業所に配達を終えた者たちが戻ってくる。連れだって飲みに行くものもいるが、大抵は終電を気にしつつ家路に急ぐ。もちろん仕事着を着替えてから帰るのだが、耕太郎だけは仕事着のまま帰ることがあった。もちろん気にする人もいて聞くと、「急いでるんっすよ。」との答えが返ってきたが、確かに耕太郎は他のドライバーよりも急いで帰り支度をしているのはよく分かるが、それにしても着替える時間なんて大したことはないし、かといって着替えて帰る日ももちろんある。朝が仕事着で来ることはないので、大抵着替えを持って帰るのだ。急ぐという理由もよく分からない。終電にはまだ時間は大分あるし、こんな時間から約束などしないだろう。皆それぞれが忙しいから気にも留めていないが、淳平は引っかかっていた。淳平はふとしたことから携帯のアプリを見て、耕太郎がゲイであることを知っていた。なので、大体見当は付いていた。

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toppoi01 at 08:30|PermalinkComments(0)デリバリーC 

2019年08月16日

灰色の空間(7)

そこからの記憶は断片的にしか思い出せない。ずっと拷問を受けていたのかいなかったのか、ただ「自白」、もちろん言わされた「自白」をしたことは確かだ。録画も録音もしっかりされているに違いない。ただ、そこから何日が経って、気が付いてみると俺はソウル郊外の橋の袂でずっと蹲っていた。何時間もそんな感じでボーっとしていたのかもしれない。通りすがりに気にかかった何人かが俺に声をかけたが、俺はまともに答える気力が残っていなかった。時折、自分でもよく分からないが大声を上げて、自分が生きているんだな、ということを自分に実感させた。それからはまた、格子のある建物へと連れていかれた。暴れて抵抗したが、注射のようなもので寝かされた。それからというもの、起きているか起きていないか分からないような生活だ。食事とは言えないようなものが格子の中に入れられて、奇声を不規則に発する者たちに囲まれて、こうして日々を送っている。たまに受ける電気ショックが心地いい。これくらいが俺にはちょうどいいんだ。あれに比べたら、あれ、あれと、ぎゃぁぁぁ!!!
「もう大丈夫、大丈夫よ。ね、ちょっと寝ましょうか、ね。」
「チョン代議士はどうなった?なあ、教えてくれよ。」
「そのうち逢えますよ、さ、寝ましょうね。」
また俺は夢の中へと戻って行った。いや、これが現実なのかもしれないが。

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toppoi01 at 08:30|PermalinkComments(0)灰色の空間 

2019年08月14日

灰色の空間(6)

また、2日くらい日が開いた。そして、その次の朝、食事を済ませた後に、また同じように「出ろ。」と言われ、また手首をフックにかけられて吊るされた。もう抵抗せずにそのままにしていたが、今度は精悍な顔をした二人が無表情で木製の机といすを持ってきて、そのまま出て行った。すると、いつもの尋問者が現れ、そこに座った。書記官も横に立っているが、何かする様子もなく、直立不動の体勢だ。
「覚えていることを話してくれればいい。チョン代議士と面会して何を話した?」
沈黙をしていると、一人が二本のコードを持ってきた。その先は、一つは金属製のクリップで、もう一つは細い金属製の棒になっている。もう一人は、俺の背後に回るとベルトを解いてズボンと下着をサッと下ろした。そして、竿の根元をクリップで挟んだ。
「現政権の転覆を諮るため、朴大統領の側近であるG補佐官を唆した、そうだな?」
「そんな事実はな・・、ぎゃぁぁぁ!」
言い終わる前に、カラダを突き抜けるような強烈な刺激があった。竿全体が焼けるように痛い。電気ショックか。
「もう一度聞くが、現政権の転覆を諮るため、朴大統領の側近であるG補佐官を唆した、間違いないな?」
「でっち上げだ、お前らが書いた筋書じゃないか、ぎゃぁぁぁ!」
またも局所に電気ショックが与えられた。無表情だった二人が苦笑している。陰毛が焦げたような臭いを発している。よっぽど強い電流なのだろうか?
「では、G補佐官とチョン代議士とを会わせる仲介の労を取ったのもお前だな?」
「止めてくれ、後生だ。俺じゃない、誰と間違えているんだ、俺じゃ、ぎゃぁぁぁ!」

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toppoi01 at 08:30|PermalinkComments(0)灰色の空間 

2019年08月11日

灰色の空間(5)

すると、また10分くらいしてから精悍な顔をした二人が俺の方にやって来た。そして、一人が荒々しく俺の背後に回って立たせた。
「ちょっと待て、待て、話を・・」
と言いかけたところに腹を連続で殴られ、動けなくなったカラダを引きずるようにして、また手首をフックにかけられて吊るされた。それから小一時間が過ぎたが、何事もなく、そして降ろされて独房に戻された。翌日、また、同じ時刻に引き出され、木製の椅子に座らされた。目の前には既にいつもの顔があった。
「今日は話を聞く前に、聞いて欲しいものがある。おい、これを流せ。」
と小さなマイクロテープを書記官に渡した。聞きづらい会話だが、そのうちの一人はチョン代議士のようだった。特段何の変哲もない、地元の陳情団が現政権の農業政策への不満を話し、話は途切れ、チョン代議士が次期政権の展望を話している。何とも現実味に欠けた中身の薄い、たわいもない話であった。
「チョン代議士は国家反逆罪の嫌疑を受けて、現在拘留されている。国家反逆罪は重罪で、死刑と無期懲役しかない。ただ、チョン代議士はこれを現政権のでっち上げだと主張している。」
テープと国家反逆罪とどういう関係があるのかが分からないが、KCIAが何をしたいかは大体分かった。しかし証拠がないじゃないか。
「KCIAでは、現在、これを立証するために証拠を集めている。もう一度聞くが、7月16日に何を話したのか、概要を教えてほしい。」
「俺はチョン代議士の仲間でもないし、そもそも一介の記者だ、貴様らが思っているようなスパイなんかじゃない。」
「それは分かっている。」
「じゃあ、なぜ俺を拘束してこんな目に遭わす?」
それには答えず、また、「覚えていることをしゃべればいいんだ。」と同じことを言う。
「覚えていることなどもうない。」
「では、それがお前の全て知っていることか?」
「そうだ、だから言っているだろう。俺は無実だ。」
すると、「まあ、いい。記憶ってものは後になって思い出すことだってあるからな。」
と言い残して、また去って行った。

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2019年08月08日

灰色の空間(4)

次の日も、その次の日も、何も起こらなかった。ただ、独房に入れられて、あてがわれた食事を淡々と取り、そして横になるのに十分なスペースではなかったのでただ丸くなって寝た。ただ、打たれたところが打ち身になって腫れあがり、時折襲ってくる鈍痛で目が覚めたりした。そもそも地下室で時間の経過が分からない。ただ三食があるのだからそれが1日なのだろうなというように思っているだけだ。ジャラジャラとカギの音がこっちに近づいてくる。食事はさっきしたけどなと訝っていると、「出ろ」と事務的に言い放ってカギが開いた。
また最初の日と同じように、正面に向かった男は、「ただ、覚えていることをしゃべればいい。正直にただ話すのを我々は聞いているだけだ。」と言った。前回と同じことしかしゃべりようがなかったが、何も言わないのは反抗的だと思われかねないため、同じことをまた繰り返ししゃべった。前回同様、後ろの書記官はメモを取る様子はなかった。
「終わったのか?」
また、前回と同じように言うが、こちらはこれ以上言う言葉が見つからない。どういうことを聞きたいのか分からないから、何が正解なのかも分からない。
「そうか。まあ、そう急ぐものではないしな。ゆっくり思い出すといい。」
と言い残して、地下室から出て行った。

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2019年08月06日

灰色の空間(3)

すると、さっきの奴とは違う奴が二人入ってきて、まっしぐらにこっちに向かってきたかと思うと、乱暴に俺を立ち上がらせて、柱の向こうの、蛍光灯から離れて暗くなったところへと連れて行った。
そして、俺の縛られた手首をフックで引っ掛けたかと思うと、急に上に引っ張られた。どうやら、天井に滑車が付いているようで、短時間でかかとが浮き、そこに吊るされた状態になった。
実際は足はつま先程度は床に付く程度の高さなのだが、何分不安定で、落ち着かなかった。しばらくはそうした状態が続いたが、なぜかまた二人とも地下室から出て行った。
よく分からないが、ゴムのようなもので縛られているからか、奇妙な姿勢だったけれども痛みは感じなかった。いや、実際は痛かったのかもしれないが記憶が定かではないからかもしれない。しばらくして、先ほどの二人が戻ってきた。細い金属のパイプ管のようなものを持っていて、二人が急に殴りかかってきた。脇腹から背にかけて、闇雲にやたらめったら打ってきて、骨身に染みて痛かった。逃げられないようにされて打ちのめされること自体が初めての経験であったので、痛さに非常に驚いた。そして、理由が分からなかった。拷問であれば、吐かせることが目的であるのだから、これはただの暴力であった。しかし、しばらく乱打が続くと「これくらいにしとけ」との声が聞こえ、また去って行った。

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2019年08月03日

灰色の空間(2)

「お前がどうしてここに来たかは、お前自身がよく知っているはずだ。我々は、ただお前が正直に話してくれればすぐにでも開放してやろう。」
抑揚のない口調で、事務的に淡々としゃべる。きっと何十人、何百人に同じ話をしているのだろう。
「7月16日に鍾路で会った人物、そして話した内容について知っていることを話せ。」
「それを話せば解放してくれるのか?」
「もちろんだ。」
心当たりはあった。7月16日は確かにそこで野党政治家のチョン代議士と話している。ただ、話すほどの内容ではない。
チョン代議士は野党第一党の政治家ではあり、朝鮮戦争の後は民主派の弁士として名を馳せたが、権力争いに敗れ、第一線から退き、名誉総裁と言った名ばかりの、今では何の実権も持たない一政治家に過ぎない。その政治家が話したことを聞いて何になるのか。
話したところで何も支障はない、あったとしてもチョン代議士側であろう。そもそも呼ばれて話を聞いたはいいが、結果時間の無駄としかいいようがない、権力を持たないものの愚痴を漫然と聞いたようなものだ。その権力欲の権化の愚痴に過ぎない。
テガンは覚えている限りのことをしゃべった。いや、しゃべらなかったとしても、既に没収されたメモや録音機からどうせ分かることだ。椅子の背を正面にして座っている男と斜め後方で記録する男は、テガンの話をただ聞いていた。ただ、記録をしている様子はなかったが。
しゃべり終わると、沈黙が訪れた。
「おい、それだけか?」
静かに、確認するように事務的な声で、座りながら問いかけてきたが、これ以上知っていることはない。事実を淡々としゃべっただけだ。
「まあ、いい。しゃべりたくなったら言うといい。」
そういうと、椅子から立ち上がり、広々とした、薄暗い地下室から出て行った。
手は前にロープで縛られたまま、10分くらい経った。
その間、記録(といっても特に何もしていなかったが)係はずっと同じような姿勢で座っていた。

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