2018年04月
2018年04月29日
終わりの見えないデスマッチB(17)
「無理じゃない?」「まだ、まだできる!!!」心配そうな顔をして見るシディークが腹立たしかった。そんな顔ができなくなるくらい徹底的に殴りつけてやりたかったが、全く当てることもできず、即座にリングに這いつくばった。シディークはリングの中央に移動して、「じゃあ、気の済むまでかかってくるといいよ。ただ、約束は忘れないでね。」と、またも立ち上げってくるのを根気よく待っていた。どうもはっきりと分からないが、こっちの動きが読まれているような感じがした。また、無防備だと踏み込んで入ると瞬間に、そして的確に狙われている。直前までよく見極めて冷静に判断を下している。じゃなければ防御をしないなんてことができない。それと、これはどうしてなのか分からないが、シディークの持っている力の源がよく分からない。当たっても大したことがないだろう、またスピードはこっちの方が上だろうと思ってかかっていくが、相手の方が速いし、かなり手痛いダメージを受ける。まず捕まえようとタックルを仕掛けても逃げられ、顔に渾身の力を込めて打ちかかっても、逆にカウンターで顔を殴られて吹っ飛ばされる。どこにこんな力があるんだと顔に手を当てていると、シディークが鳩尾目がけて蹴りを食らわせた。「ぐぉぉぉぉ!」さすがに二度も鳩尾にまともに食らっては、とてもじゃないが立ち上がれる状態ではなかった。エビのようにカラダを丸めて縮こまり、断続的に襲ってくる吐き気と戦っていた。
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2018年04月27日
終わりの見えないデスマッチB(16)
しかし、こうしてマジマジとシディークを見ていると、どう見ても腕も首も細いし胸も薄く、腹も引き締まってはいるが腹筋だってうっすら割れているだけで、強そうには見えない。むしろ弱そうだ。色黒の顔だからニッて笑うと白い歯が際立って見える。駅近くでインドカレーのチラシを配っているインド系の好青年くらいにしか見えない。俺が不覚にもダウンを奪われたのは冷静さを欠いていたからで、こんな奴にいくらなんでもやられるわけがない、そういう観念が確信に変わると、もう一度練習相手になってくれと頼んだ。そう言いつつ、実来は俺の圧倒的強さを見せつけてやろうという野心で燃え上がっていた。「いいけど、一つ約束してもらっていい?」と、シディークが真剣な面持ちで言う。「僕が1分以内に勝ったら、健のスパーリング相手を続けてくれる?」「え、それはなぜ?」すると、衝撃的な答えが返ってきた。「健が、君を特訓して欲しいって言ってきたんだ。けれど、僕は健が君を甘やかしていると思うんだよね。」「もっとできるのかと思っていたけど、健が手加減していたのかな。」と、堰を切ったかのように挑発的なことを言ってきた。「何言ってんの?マジで。」シディークが立ち上がったので、俺も相手の目を見ながら立ち上がった。「次は殺すぞ。」と、後ろを振り返りもせずにリングに上がったが、1分ももたなかった。顎にきれいに入って軽い脳震盪を起こし、リングに崩れ落ちた。大の字で倒れる俺を見つめるシディーク。ちょっと笑っていたので飛びかかっていきたいが、カラダが思うように動かない。シディークはコーナーで悠然とカラダを預けて俺を見ている。意識がはっきり戻ったところでもう一度シディークに殴りかかる。しかしすんでの所でシディークの前蹴りが俺の鳩尾にヒットした。たまらず俺はその場にしゃがみ込んだ。シディークはロープに両腕を預けたまま動かなかった。避けさえもしなかったのに。「ま、まだ・・。」声を絞り出すのがやっとで、何とか立ち上がった。
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2018年04月01日
終わりの見えないデスマッチB(15)
シディークは選手ではなくトレーナー志望で、ナデートだけではなく、いろいろな人をサポートしているようだった。普段はただ、基礎的なトレーニングとかアドバイス、栄養指導をしているのだが、俺には特別に実技指導をしてくれることになった。要するに、教えるところがあるというよりは、まだまだ見ていて荒いのだろう。しかし、実来には、きっと舐められている、シディークにも勝てると思い込ませるほど、自分を甘く見られているというように思えた。自分では健に学ぶことがないというくらいの気持ちだったので、その高く伸びた鼻を叩き折られたような形で屈辱的であった。加減してやったのに、もっと痛い目に遭わせた方がいいのだろうか。シディークは、またも打ってこいと実来を挑発した。赤い旗を前にした闘牛の如くいきり立ち、結構最初から本気モードでシディークに打ちかかっていった。しかし、本当に当たらない。逃げられているのではなく、スレスレのところでかわされている。そして、ふいに打ち込んでくるけれど、それはなぜか脇腹ばかりにヒットする。そこに吸い付けられるかのように狙ってきたところを当てようと思うが、そう狙い通りにはいかない。ガードが下がれば顔ががら空きになってしまう。また、同じ脇腹に!そして実来は崩れるように前のめりに倒れた。シディークは笑って「これで五分五分だね。」と言う。いや、全然五分五分ではない。足がガクガクして全然立ち上がれない。あんな当たっているか分からないくらい軽いパンチだったのになぜ?喉が渇いたという理由で、相手に悟られないようにゆっくり立ち上がり、ベンチの方に向かった。「肩、貸そうか?」と、やはりシディークにはそんな繕った元気が見透かされているようだ。
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