2017年04月
2017年04月30日
堕ちるところまで堕ちて(6)
そこから見覚えのある顔の男がこちらに近づいてきた。
「じゃ、ちょっとさ、服を脱いで、これを履いてくれる?」
渡されたのは黄色い蛍光色のビキニパンツだ。それも競泳用なのかよく分からないが、紐がついていた。
「どこでですか?」
「ここでだよ、そりゃそうじゃない、浩ちゃん。」
と、この前初めて会ったのだが、いかにもよく知っているかのような馴れ馴れしい口調で話しかけ、ヒヒヒヒと下品な笑い方をした。
周りを見渡してみたが、2mくらいの距離でパイプ椅子に大人しく座っている中年が、この下品な笑いをしている奴を含めて全部で13人、ドアのところに立っている大柄であまり頭がよくなさそうな男が1人、事務用のテーブルに座っている黒縁メガネが1人、全部で15人しかいない。
その中年の集まりの眼の先にあるのは、大きなエアコンと鉄アレイが全部で6個、そしておそらくもともとは柱があったのだろうが、鉄筋が赤く数本むき出しになって途中で乱雑に切れていて、それをまた鉄パイプで組み合わせた、ジャングルジムのような構造物があるだけだった。
ストリップみたいにゆっくり脱いだ方がいいのかなとか、よく分からないながらも着ていた洋服を全部脱いで、指定されたビキニパンツに履き替えた。
モノの位置にちょっと困ったが、それでも毛がはみ出てしまうのはどうしようもなく、これで準備がいいのかどうかよく分からないまま直立姿勢をとった。
中年たちの目が輝いた。まあ、中年たちには縁のない、この発達した大胸筋に惚れ惚れしているのだろう。おひねりとかあるのかな?そんなに食いつきがいいのだったら予めもっと鍛えこんでおけば良かったな。
と思ってると、さっきの大柄な男が浩輔のところに来て、腕を後ろに組むように指示した。
言われるままやると、そうじゃなくて手を交差させて頭の後ろに持っていくように、そして中年たちの方を向けとジェスチャーで言われた。すると、大柄な男が手首に手錠をかけた。そして、手際よくジャングルジム状の格子にその手錠を縛った。
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2017年04月29日
堕ちるところまで堕ちて(5)
当日、指定された住所を頼りに行くと、一見普通の集合住宅のように見えるが、指示されたとおり地下へ階段を下りていくと、異様に頑丈そうなドアがあった。開けようとしたが開かない。呼び出しベルを鳴らしたが、音沙汰がなかった。メモを見ると、数字で****を押してから、*****と言えと書いてあった。そのとおりにすると、カシャンと鍵が開く音がした。
入ると、薄暗いコンクリートと配管に囲まれた空間であって、想像していたイメージ、スポットライトを浴びて華やかでずらっとギャラリーがいて、ステージがあってその上でパフォーマンスをするみたいなイメージを勝手にしていたのだが、それとは全然違っていた。
呆然と立っていると、坊主頭でカラダのでかい男が「こっち、こっち」と手招きをしていた。
言われるがままに行ってドアを開けて入ると、スーツ姿もいれば普段着姿もいるが、いずれも中年から壮年と言った感じの男が10人くらい、パイプ椅子に座ってこちらを見ていた。
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2017年04月28日
堕ちるところまで堕ちて(4)
「いえ、待ってください。でも、ショーって、俺、本番とかちょっと勘弁して欲しいっていうか・・」
ガハハハハと、急に豪快に笑い出した。そして、しばらく笑い転げていた。
「いやいや、ショーってさ、そういうショーじゃないから。それ違法でしょ?筋肉見せ付けてさ、パンツも履いているしさ、そんな構えるようなことはなくて、何もしないでただ立っているだけでいい、簡単なショーだから。だって、無理でしょ、知らない相手とヤルなんてさ。」
「はい。」
「そんな、素人さんが急に人前で本番なんかできないんだから。だって、急に勃てって言われて勃つ?それも知らない人に囲まれて。ああいうのは演技力がないとできないの。そんなの求めちゃいないからさ。」
「はぁ。」
まあ、聞く限りでは全然なんてことない。なんかそんなもの?みたいにあっけにとられたというか狐にでもつままれたような感じだったが、金持ちって言うのは分からないものに金をかけるものだからなと変に納得して、承諾の返事を再びした。
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2017年04月27日
堕ちるところまで堕ちて(3)
「お金は、お金はすぐに返します。」
実際盗んだのは2万3千円ほど、返せない額ではない。
「浩輔ちゃんよ、お金の話をしてないんだよ。これは立派な犯罪よ?明治大学水泳部3年の浩輔ちゃん。」
相手は俺の素性を調べてからここに来ているようだ。
「窃盗事件はマズいよね?学校だって停学で済めばいいけどね。ましてゲイバーで窃盗なんてね。」
結構目がマジで、視線を半ば上向きにして、落ち着いた様子で話した。
「どうしたらいいですか?」
唾を飲み込み、相手が一体何を望んでいるのかを聞いた。要は脅しだ。ただ、バレたら俺の将来はメチャメチャだ。
「パーティのゲストとして出てほしいんだ。」
「!?」
「いや、パーティって言ってもそんな若い人たちがするような奴じゃなくてさ、簡単に言うとゲイの金持ちが集まって、そこでショーをするんだけど、そこに出演するっていうんでどうだろ。」
なんだ、慰謝料含めていくらって話かと思ったが、拍子抜けした。
「弁償とかではなく、それに出ればいいってことですか?」
「そうそう。悪い話じゃないだろ?それにさ、そのパーティに出たら、逆にVIPの客からおひねりでるかもしれないし。」
「向こうのママもさ、金さえ返してくれればいいって言うし、実はそのパーティの主催者に写真見せたら、出てくれたらその金を肩代わりしてもいいって言うんだ。」
もう、話が知らないところで進んでいるようだ。
「分かりました。」
「そう?そっか。話が早いな。体育会系は物分りがいいよな。よし、じゃ、話つけておくから。」
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2017年04月26日
堕ちるところまで堕ちて(2)
「おいおい、今日は君に用があるのよ、浩輔ちゃん。」
普段、店では「コウちゃん」と言われていて、名前そのままで言われることはない。俺を知っているのか?
「ああ、君さ、浩輔ちゃん。この写真見覚えある?」
携帯を俺にかざす。暗くてさっぱり分からないが、なにやら黒い影がもぞもぞと動いている。どうやら動画のようだ。ただ、目を凝らして見ても、人が何かを探しているのかくらいにしか分からない。
「分からないかな?暗いもんね。これ、中野にあるbo-zuってゲイバーの店内映像なんだよ。知ってるだろ?」
浩輔の顔から血の気が引いていった。目が泳いで焦点が合わず、明らかに動揺しているが、浩輔は平静を装って、
「ああ、知っています。よく行っていましたから。」
若干声も上ずっているのが自分でも分かった。この動画が何を物語っているか、浩輔自身がよく知っていた。
半月前、bo-zuで飲んでいた。ママが客を見送りに外に出て、もう一人、店内にいた客はトイレに立った。その隙に、カウンターの内側にあった現金12万円ちょっとを鷲掴みにして、そっとポケットにしまったのだ。
浩輔自身、これが初めてではなかった。3回目だった。初めはほんの少し、千円札2,3枚をかすめ取っただけだった。ばれないと思ったからだ。次は2万円。これもこの前の場所に手を入れたところ、たまたまこれが2万円だったというだけで、ばれないだろうと思っていた。
味を占めて、3回目は洗い合切、そこに置いてあった現金をそのまま持ち去った。もちろん、何食わぬ顔で会計を済ませた後で。もう来ないと決めていたから大胆だった。ただ、半日経って改めて明るいところで見ると、1万円札は全てカラーコピーだったことに気づくことになるのであるが。
その時の客が、浩輔は気づかなかっただろうが目の前にいるオヤジ、そしてママに依頼されて防犯カメラを設置し、犯人の目星をつけていたママに呼び出されて飲んでいたのだ。防犯カメラには、色こそ違えど、似たような横のボーダーの服が映し出されていた。
もう、何も言い逃れはできなかった。
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2017年04月25日
堕ちるところまで堕ちて(1)
赤いランプで照らされた店内。テーブルもソファも皆真紅。白ワインさえも赤く輝く。
「嫌、ん、モー、照さん。」
座り際にお尻をなでられ、毛深い腕を掴んでそっと払う。
「なんだよ、新入りか、やけに堅いじゃねーの、ヒヒヒヒ。」
書けた前歯も赤く照らされ、酒焼けで普段から真っ赤な顔は、却ってどす黒さを増している。
ネクタイも左に曲がり、はしご酒をしてきてここ、東上野のムーンサルトにたどり着いた客をさばく。
「照さん、久しぶりじゃないの、元気してた?」
正直、浩輔には名前すら記憶がなかった。ただ、ママがそう呼ぶし、いろいろ聞いていればそのうち思い出すだろうという、根拠のない自信があった。
「元気じゃないよ、ママ、元気なのはね、ココだけ。」
と、股間を指さし、下品な声で高笑い。
うわっコイツ最悪と思いつつも、
「すみませーん、私も一杯いいかしら?」
浩輔は木曜と土曜だけ、バイトで入っている。浩輔の仕事は客にボトルを入れてもらうこと。
グラスが空きそうだったら促し、減りが遅い客には自ら分け前をもらいに行く。
「おう、いっぱいでもおっぱいでも。」
と浩輔の胸を揉む。
「もう、照さん、ご機嫌なのね。」
またも、客の手首をつかんで払う。
「おいおい、知らない仲じゃねーんだし、いいじゃねーの。」
と、また浩輔の胸を揉み始める。
黄色と青の、横ボーダーのラガーシャツにはちきれんばかりにパンパンになっている胸は浩輔の自慢でもあった。
触れられただけでも体をビクつかせるくらいの性感帯。けど、酔客に触られるために鍛えたんじゃない。浩輔は歯を食いしばってこの屈辱に耐える。
そもそも知らない仲じゃないってなんなんだ?全く覚えがないし、それにゲイバーだから触られることがないわけではないが、こんなにも大っぴらに触られることは初めてだ。
「ごめんなさいね、ここはお触り禁止なの。また今度ね。」
「おっ!?今度っていつの今度だよ?」
「さあ、いつかしら。」
「今度はコンドーム用意ってか?ゲヘヘヘヘ。」
オヤジギャグに愛想笑いを浮かべ、敏感な胸を揉まれた興奮を落ち着かせようと深呼吸をする。ボトルを取りにカウンターに向かおうとすると、ズボンの縁を掴まれた。
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2017年04月24日
とことん付き合って・・いけるか、俺?(4)
俺、また発見しちゃった。努、時間を計ってる。
キスの時間、12秒。決まってるんだ。いや、ちゃんとね、計ってるんだよ。
キスって目を閉じる人?俺は閉じるんだけど、さっきいきなりだったから開けてたのね。
努の目が、俺の方に向いていなかったわけ。はっきりデジタル時計見ていたね。で、何か俺が乗ってこようがこまいが、12秒できっかり止める。
まさかねと思ったけれど、セックスも時間が決まっている。アラームまではかけないけどさ、これ、デリバリーの人のすることじゃない?
単調、単調と言えば単調なんだ、正直。セックスがその一日の一コマの中に当てはめられているわけだから。でもさ、でもよ?俺のカラダはそんなわけにはいかないじゃない?違うことをして欲しかったりもする。今日は後ろから攻められてみたいとかあるわけじゃん?人間のカラダって法則どおりにはいかないわけだよ。
ってなわけでさ、俺は意地悪く、体勢を入れ替えてみたのね。くるんってカラダを回転させて、俺が四つんばいになる形に。俺も受身だからってやるときはやるんだよ。
そしたら、それはそれでいいみたい。何か、いつもと違う。違う位置に当たっているし・・あっそこばっかり責めて、・・って時間は同じなんだ。俺は籠の中の鳥。
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2017年04月20日
耐えてみろ!(6)
同じクラスの柔道部の奴が先生にずうずうしくも腕相撲などと。
「いいぞ。腕太いな、兼子君。」
え、やるの?えー、俺もしたい。瑞樹は腕相撲を見るために近寄った。というか、慎吾が腕相撲を取っているところを見るために。
「先生、やめなよ。無理だよ。」
「先生、腕相撲強いの?」
「先生、早くしないと次の授業始まっちゃうよ?」
女どもが本当にウルセー。でも、先生、力比べは止めた方がいいよ。
兼子と慎吾は教壇で向かい合って、互いの右腕の肘を置き、右手で握り合った。10人ほどのギャラリーに囲まれている。
「長塚君、君、審判な。」
兼子は不敵な笑いを浮かべ、自信満々な様子で瑞樹を見つめる。瑞樹は両者の拳を手で上から軽く押さえた。なぜか瑞樹の手が一番熱かった。
「レディ・・・ゴー!」
勝負は結構あっけなかった。遊んだりとか焦らしたりすることなく、兼子の腕がその力とは反対の方に押され、驚きの表情と共に倒された。急だったためか、体もバランスを崩して倒れかけた。
「先生、ツエー・・・。」
「また、体調のいい時にやろう、兼子君。」
そう、言い残して、夏季講習テキストを机でトントンと揃えてから、サッと教室から出て行った。
「えー、何、兼子。それはなくない?」
「先生、腕細いくせに、結構やるよね。」
バーカ、兼子。先生は鋼のような肉体しているから、オマエみたいな雑魚に負けるわけがないんだよ。
俺は見たんだ、先生の秘密を知っているんだ。
ゲイ動画の「SHIGOKI」シリーズでメインで出てたのが先生だ。顔が手とかで隠れててはっきり分からないけれど、左腕のサポーターと左足についていた2本のミサンガがそのままなんだよね。
えぇって思って、パーツで確かめてみた。でも、決定的だったのは、薄いピンクのTシャツで、LONDON CITY BOYSって黄色くロゴの入ったものを着てきたときかな。動画では、その後でまくって自慢の腹筋を見せるんだもんね、先生。
俺もめくってみたいな、そして・・と夢想を巡らせていても、そんなことを言う勇気さえなかった。せいぜい、目で脱がせて、全裸の状態で授業をする慎吾の姿を夢想して・・
1週間後、勉強に手がつかなくなった結果、クラス替えテストで下のクラスへの変更を余儀なくされ、女性教師の元で人一倍勉強に励む長塚瑞樹の姿があった。
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2017年04月18日
耐えてみろ!(5)
「惜しい。これは一つしか入れられないだろ?分詞構文だよ。」
後ろから先生が声をかける。でも、声をかけられたかと思ったら、前の奴に声をかけている。
「うん、そうそう。ん?ここはもうちょっと考えた方がいいな。ヒント。「か」。」
夏期講習。いつもとは違って、見慣れない奴も半分くらい混じっている。先生、前の奴なんて昨日初めて会ったんじゃん?
「おー、正解。やるね。」
先生は右に左にと声をかけながら、生徒のプリントをチェックしていく。
先生、もう俺終わったよ。でも、先生は俺なんか最初から見えていないかのように、他の奴に声をかけている。
「はい、では、だいたい終わったようなので、32ページを開きましょう。仮定法はよく出るので、もう一度確認します。」
うーん、先生はかっこいいね。今日は黒縁メガネをして一段と冴えている。背も高いし、甘いマスクで、うーん、絶対彼女いるよ。
「(3)admitは分詞構文にすると、長塚君。・・長塚君?」
え、え、俺?何、何?
「難しいかな?これは過去分詞だからadmitedだね。次、(4)。」
やっちまったー。下手こいた。先生の前でいいとこ見せられなかったー。
「じゃ、今日はここまで。」
先生が言うのを待って、皆帰り支度をする。夏期講習以前からいる生徒のうち何人かは先生を囲んでいる。
「先生、彼女いるの?先生、いくつ?ねえ、先生。」
ウッセー女だな。俺の先生に軽々しく声かけるな。心にそう念じつつ、ダラダラと分厚いテキストをリュックに入れる。次は数学なので別の教室に行かなければならない。
「先生、腕相撲やろうぜ。」
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2017年04月10日
とことん付き合って・・いけるか、俺?(3)
昼は丼を食べに行った。海鮮丼。努の食べ方って特殊で、取り分け皿をもらうと、上の刺身の部分をちゃんと同じようにその皿によそって、丼の方をご飯だけにする。で、要するに刺身定食のようにして食べる。
定食にすればいいじゃんと誰でも思うだろうけれど、丼の盛り付け方がきれいなんだとか。
この前、初詣行ったときはもう大変。真ん中でお賽銭を投げようとする。川崎大師なんて相当先から動けない状態なんだけれど、真ん中にこだわるからいつになっても投げられない。いや、俺はいいんだけれど、はぐれそうだし、人混み過ぎて携帯つながらないから仕方なく付き合う。
そして、きっかりとゾロ目が好き。例えば、パンをオーブンで焼く時間、7時開始。家を出る時間、8時ちょうど。必ずそう。おそらく乗る電車も決まっているみたいで、遅れると必ずメールが来る。俺、そんなメールもらっても困るんだが。
シャワー浴びる時間とか寝る時間とか、そういうのは特にない。ない理由は知らない。付き合っていられないので。いや、たぶん俺にあんまり関わり合いなさそうなのを決めているっぽい。俺に配慮しているんじゃなくて、俺がそういうのルーズだと思っているんじゃないかな?
「すべてがfになる」の犀川先生が時報で腕時計を合わせていたけれど、うちはそんなことしない。全部電波時計に入れ替えたからね。全部デジタル。
Tシャツのマークが「555」。色違いで3着持っている。22年2月22日の切符が机の上にある。何気ない封筒にも、よく見ると22年2月22日の消印が。いや、これは言わないよ。俺が気づいたことで。たぶん、俺が知らないところでこれ以外にもいろいろあるんじゃないかな。逆に探している俺の方が気になっている。おお、あったぞ、12345なんだ、自転車のチェーン。それはそれで危なくない?
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