2016年03月

2016年03月01日

優先順位(3)

「女には愛情、男には性欲、そう昇平は割り切って行っているつもりだった。いや、事実そうしていた。だが、それは相手の感情を全く考慮しないで行っていたことに気づいていなかった。」
そういうけどさ、第一さ、妻に対して愛情なんてそもそもあっただろうかって話じゃん?性欲がなく、愛情さえなくなったら、それをさ、どうして妻と居続けなければならないよ?子どもと世間体と言った、クモの糸程度の細く切れやすいつながりでしか最早なかったんだよ。お互い離れようとしているけれど、糸と遠心力でバランスよくつながっているように見える、そんな関係よ。
「男には性欲というのも、昇平の自己都合である。相手の女には性欲はないのか、相手の男には愛情はないのか、そういったことを考える視点が欠けていた。自分中心に何もかもが動いているとまでは考えていたわけではない。ただ、自分中心に回っているんだとは思っていた。本当は地球も宇宙の一部であるのにもかかわらず、地球を中心にして太陽や星が回っているのだと考えているかのように。」
いやいや、これもね、俺から言わせてみたらさ、セックスとはじゃあ何ってことじゃない?子孫繁栄でしょ?DNAを後々まで残すことじゃない?だから、女には愛情によって子孫を残してさ、女はその子孫にまた愛情を注ぐだろ?男に対してはそれがないんだから、性欲ってことになるわけだ。使い分けというか、結構しっかりした説明だと思うけど。女とは子供ができるから永遠に続いていくわけで、男は単にセックスしたらそれで終わりというか、その瞬間瞬間でしかないわけよ。生活の中に部分的に入り込んでくるのが男。性欲っていうのは生理現象なわけだから、それを放出したら、元の生活に戻るというわけで。説明するまでもない。
そんなさ、既婚のゲイなんてやたらいるんだから、難しく考えることはない。うまくやっていけると思うよ。俺は不器用な人間だから妻にバレて、それ以来実体のない生活を送っているけれど。それでも子どももいるし、いくらなんでも俺の子供であることには間違いないんだから。苦労したんだ、勃たないのを勃たせるのって大変なんだから。男側の難産って奴よ。
男は消耗品なんだって言った奴がいたっけ?女が備品、男が消耗品っていうのは間違っちゃいないよ。悲しい生き物だよ、男って。まあ、家庭を守ってきたのがちょっとセックスにシフトしてきたかなって程度で、これはこれで弥次郎兵衛のようにバランスが取れている感じが俺にはしている。俺中心だなんて、それって誤解。いろいろバランスをとるって大変なんだから。人生という平均台を慎重に渡っているのが今の俺。自己中なんて的外れだね。
ただ、最近は手詰まりというか、未来が見えないや。八方ふさがりというか、行き当たりばったりの自転車操業のような状態に人生が陥っている。歯車は狂っていないんだけれど、噛み合っている感じがしない。どうしたらいいかね?どうしようもないか。
昇平は、和室の中央で、延々と、誰もいない部屋で誰に聞かせるわけでもなく喚き続けた。蛍光灯が煌々と、数週間前から片付けられていない雑然とした部屋を照らす。数日前に食べて、3分の1程度残っていたカップラーメンの容器が倒れて畳を汚したが、意に介さず、また同じような話を同じトーンで、空中の誰かと会話しているかのように、独白し続けた。

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toppoi01 at 18:00|PermalinkComments(0)優先順位 
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