2015年11月

2015年11月30日

耐えてみろ!(2)

吊される
「ボスッ。」
鈍い音が冷たい室内に響く。
擦り切れたグローブが俺の腹をえぐる。
「バスッ、バスッ。」
リズムよく、グローブは俺の腹を捕える。相手は俺の顔を無機質な目で見て、俺を腹をサンドバックのように、狙い澄まして叩く。
「ボスッ。」
俺は逃れようと腰を引かせるが、鎖で両手を拘束されて吊るされているから、逃げられないし反撃もできない。
ただ、弧を描くように、相手から逃げるだけだ。
だが、相手は少なくともボクシングの経験があるようで、ステップを踏み、リズムよく俺の腹を的確に狙ってくる。
「ボスッ、ボスッ。」
コーナーのロープには、毛の薄く中年太りしたオヤジが、両手をロープに乗せて、薄ら笑いを浮かべながらジッと見ている。
「ボスッ。」
やべぇ、気を抜いたらモロに入った。
慎吾の顔は苦痛で歪む。対照的に、金属質のライトで照らされたオヤジは、軽くうなずいてにやけていた。

10日前、自転車で15分ほどしたところにあるスーパー銭湯に行った。そこは風呂もそこそこ広く、サウナも2種類あるのだが、なぜか日焼けマシンが置いてある。
平日の午後は客も数えるほどしかいない。水曜日の午後は講義もなく、バイトまで時間があるので、週に1回はスーパー銭湯に通ってリラックスを図るのがここ数か月の習慣となっていた。
15分ほど日焼けマシンを使った後、シャワーを浴びてサウナに入った。サウナは薄暗く、特にミストサウナは視界が悪く、近くに来て初めて人がいることに気付くこともしばしばだった。
ミストサウナに入って3分くらい経っただろうか、
「兄さん、いいカラダしてんな。」
と、左手から声をかけられた。慎吾は、ここがゲイのハッテン場になっていることも知っていた。特にサウナがハッテン場としての機能を果たしているようで、ゲイ特有の強い視線を感じることもよくあった。
ただ、慎吾のタイプからは程遠い人ばかりで、今日も声のする方を見ずに、気持ちだけ会釈した。
「兄さん、そのカラダ生かして、仕事してみないかい?」
聞いてもいないのに、こちらの意思とは関係なく向こうはしゃべり続ける。
「何、兄さんのカラダの写真を使って広告作りたいんだわ。3万円払う。どうだ?」
写真で3万?一瞬心が揺れ動いたが、そんなうまい話があるわけはない。ただ、たったそれだけで済むならばという気もあった。
慎吾は水泳で推薦入学していて、寮生活をしていた。ただ、仕送りは授業料と寮費に消えて、残りは自分で稼がなければならなかった。
と言っても、朝も夜も練習で拘束され、疲れ果てた状態でできるアルバイトというのはそんなにあるわけではない。
「いつでもいいんだ、兄さんの都合のいい時でさ。興味持ったら電話くれよ。」
なぜか電話番号の書かれた紙を出して置いていった。サウナに入る前から、知らず知らずのうちに目をつけられていたのだろう。


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toppoi01 at 20:01|PermalinkComments(0)耐えてみろ!Ⅱ 
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