2015年10月

2015年10月21日

僕の彼氏は韓国人(5)

ギチョルはさ、寝るとき細い腕のくせに腕枕しようとするんだよね。俺を抱きたいって感覚らしい。
よく頭を撫でられるよ。ちょっと恥ずかしい。
この前も、階段登ってて疲れたと言ったら、おんぶするって言うんだよ。してもらってけど。俺重いのに、無理しちゃって。
朝さ、布団を干そうと思ったら「布団が吹っ飛んだ。」って言うんだよ。
へ?って思って。フリーズしたよ。今どき誰が言うの、オヤジギャグ。
「鮭が叫んだ。」「鹿が叱った。」「カエルが帰った。」あたりも頻出。
「熊がクマった。」(困った?)「ビンがビビった。」(ンはどうした?)とか無理があるものもあるし。何の脈略もなく、急に言う。
なんだろね。日本語ユーモア集とかに載っているのかな?愛想笑いすらできないし、どう対処していいか分からない。どうしたら正解なのかな?
逆に、若手芸人が先輩芸人に叩かれたりとか突っ込まれたりみたいなのは全然笑わないどころか、しかめっ面するよ。笑いの感覚がちょっと違うみたい。
コーヒーとタバコが好きだね。1日の半分くらいはコーヒーとタバコなんじゃないかってくらい。どっちも軍隊で覚えたんだって。軍隊って暇なのかな?
日本でタバコは高いから止めたらって言っているんだけれど、あの頻度でね。コーヒーは、どっちかというとアメリカン好き。家で飲むときはもう薄い、俺には薄くてコーヒーの味なんかしないくらい、出がらし?みたいなのを好んで飲んでいる。で、暇さえあればトイレ。俺、トイレとタバコで待たされるっての結構多いよ。
ギチョルはアメリカに留学していたって言って、俺の英語が変な発音だって言うんだけどギチョルだって、fの発音が、俺にはpに聴こえる。
「プライト」「プランス」「パイナンス」って、なんか俺には違和感があるけれど、アメリカ人にはちゃんと理解できているのかな?俺の発音ばっか変だ変だと言ってけつかって。
日本に来る直前まで英語の講師をしていたというから、ソウルの教え子たちは皆「プライト」「プランス」「パイナンス」って言っているんだろうね。

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2015年10月19日

僕の彼氏は韓国人(4)

ギチョルとデパートに出かけた。細身のくせに、ドルチェ&ガッバーナのブランドを好んで着ている。ギチョルは必ず襟のついたシャツを着る。
ネクタイをするときもある。学生なのに。そのネクタイがちょっと派手目で、傾奇者じゃんかって感じの柄。正直恥ずかしい。オンリーワンというか個性を出そうとする。
あと、何かというとポーズをとる。カッコつけだ。別に皆がギチョルを見ているわけでもあるまいし。唖然とする。特に写真。写真写りをすごく気にするし、兎角ポーズを取りたがる。俺としては自然体の写真を撮りたいのに、そういうのは撮らせてくれない。
だから笑顔の写真なんかないし、あってもブレている。わざと撮らせないようにするんだ。で、口を真一文字に結んだ横顔の決めポーズばっかり撮らせようとする。昭和30年代の銀幕スターかよって感じ。
もちろん食べるところも撮らせないね。食べる前の、見合い写真かよと思うような、ガチガチの感じのを撮るしかない。絶対目の前の料理がおいしそうに見えないよ。
何でかっていうのは大体分かる。外に出る前、異常なほどのスタイルチェック。全身見て、顔見て、化粧品塗りたくって、髪の毛弄って、もういつ行くんだろうってくらい入念に自分の姿をチェックする。
で、韓国製の化粧品を使っているのかと思うと、これがまた高いイギリス製のを使っている。女でもこんなに使わないんじゃない?というか、どれが何の効果があるのかさっぱり分からないけれど。
夏のクソ暑いときでも長袖を着る神経も俺には分からない。日焼けをしたくないんだろうね。そりゃ、色が白いわけだよ。アソコは黒いくせに。
油とり紙だけは日本製なんだよね。イギリス製がないのかな?よく知らないけれど。リップもハンドクリームも気が付くと塗っている。また脂紙使ってるし。どっちが女っぽいんだよ。まあ、その甲斐あってか手なんて俺と違ってスベスベのツルツル。それでいて、「俺の方が強い。」とかいうんだから不思議なものだよ。少なくとも、肌は俺の方が強いよ。
カッコつけてばかりいやがって。外で髪をクシャクシャにしてやりたいね。殺されるかな?

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2015年10月18日

愛しているって言って(7)

夜、新宿で買い物をして、CMでやっていたホラー映画を見た。まあ、CM以上に怖い場面が出て来なくて、途中から半ばウンザリして見ていた。
悟は実はホラーとか苦手なんだなって思ったよ。ポルターガイストが椅子でガラスを割るシーンなんか、こんなに力ある?ってくらい強く握られた。かわいいところもあるものだよ。
悟がイタリアンが食べたいと言う。アルタのポポラマーマで、ニンニクをたっぷり入れたパスタを食べたら、結構いい時間に。終電にはまだまだ間に合うけれどさ、明日もあるし。
会計を済ませた後、エレベータに乗り込もうとするとき、ちょっと暗かったから、後ろにいる悟に急に振り向いて「わっ。」って大きな声を出したんだ。
悟が驚いて、後ろによろけて、階段の方まで行っちゃって落ちそうになったからさ、とっさに悟の腕を掴んだ。まさかそんなに驚くとは思わないからさ。さっきのホラーを引きずっているんだな。
俺も何かにやついちゃって、悟に「なんだよ。」って言われた。
「何でもないよ。」って言いつつ、やっぱりにやけちゃうね。自分でホラー見たいって言ってたのに。
「クラブ行こうよ。」
「え?終電そろそろじゃね?」
「いいじゃん、今日は。」
悟が言うんで、2丁目のクラブに行くことにしたよ。眠くなったら、どこかラブホにでも入ればいいし。
2階に上がると、もうドアの前からガンガン音楽が聞こえてくる。開けると、もうすごい人。たまたま吹き抜けの階段のすぐ脇のテーブルが開いていたので、腰をかけた。とりあえずドリンク、何飲む・・
「踊ろうよ。」
普段は座って静かにドリンク飲んでいる悟が、珍しい。二人で螺旋階段を下りて行った。カラフルなスポットライトが目まぐるしく動き回り、壇上で踊っている男たちとは対照的に、階段下は薄暗く、リズムから微妙にずれたステップで緩やかに、そして人にぶつからない程度の申し訳なさそうな間隔を空けて踊っている。
悟を見ると、別に特段楽しそうでもなく、周囲と同じく、何となく皆が踊っているから合わせて踊ろうかといった調子で風景と一体化している。
悟が上で飲んでいるんだったら壇上に行ったっていいんだけどさ。俺も周りを見渡しながら、でもついついイケメンのいる壇上の方を見てしまうけれど。
後ろから悟がそっと抱きついてきた。手を脇腹のところにあてている。あれか、俺がナンパされるのを阻止しようという魂胆か。別にナンパされたっていいじゃん。
次第に密着度が高くなる。俺の胸辺りに手が伸びる。そして俺の乳首をコリコリ。悟、それはダメだって。
というか、全然止めようとしない。人前でも構わず、執拗に乳首をコリコリされる。
「悟、ダメだって。周りの人が見ているから。」
悟の腕を取るけれど、力が入らない。結構ジロジロ見られているし。
股間に手を伸ばしてきて、俺の曲がったまま固くなったモノを撫でる。・・クラブってどの辺まで許されるんだっけ??あの、この先はトイレとか別のところで・・
皆に見られて、もうどうにでもしてくれって感じ。周りもゲイだし。というか、もうイカせて・・
ガンガン体を突き抜けていくような音楽と反比例して、メルトダウンしていく俺。
サーチライトのような強烈な光が時折俺を照らしては何もなかったかのように去っていく。
トランス状態のようにヨダレを垂らしながら悶える俺とは対照的に、冷静沈着に俺のカラダをまさぐる悟。
悟はおもむろに半パンのチャックを下げて、俺のモノを乱暴に掴んで取り出した。俺のモノは勢いよくのけ反って俺のヘソをえぐり、先から流れ出す潤沢な汁が俺のTシャツの裾を濡らし滴る。
殆ど踊ってもいないのに息が荒い。カラダが異様に熱い。全てを脱いで、生まれたままの状態になってしまいたい。
って、ん?悟、既にサイドテーブルに手をかけて、なんか飲んでいるし。え、終わり?俺は?
周囲の冷たい視線を浴びつつ、柔らかくなったモノを無理矢理しまい込んで、トイレに駆け込んだ。悟のバカ。。
 

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2015年10月07日

ハサミムシ(5)

ハサミムシ5
克利の日課は2ちゃんねるチェック。今、夢中なのは照信っていうウリ専を叩くこと。以前絡んだマッサージ師が、登録先のマッサージ店とは別の、個人名で照信という名でホームページを作成しているのを発見。
アイツ、マッサージ専門と口では言いつつ、カッチリウリしてんじゃん。ハゲてるくせに。2ちゃんねるに「照信にぞっこんLOVE vol.1」って板を新規に作って、専ら人格批判を繰り広げる。1回しか会ったことないくせに、想像であること、いやないことばっかりの悪口を書き連ねる。
「照信、成人式のときには既に禿げていた。禿げは遺伝でオヤジもジジイも禿げ。」
「照信が金に汚いことはこの業界では超有名。ストップウォッチで細かく時間を図ってちょっとでも出たら延長料金徴収。」
「マッサージ技術がないから、10分くらいですぐに性感マッサージに移行。希望しなくて移行したくせにカッチリ料金はいただき。守銭奴。」
「照信の家は近所でも評判のゴミ屋敷。猫が12匹で避妊手術もせずに毎日やりまくり。照信も獣姦は当然経験済み。ちなみに猫に対しては両刀使い。」
「照信、照という字の由来は先祖代々受け継がれた禿げ遺伝子から。お天道様からソーラーパワーを得るために禿げた選び抜かれたスーパー禿げ。」
「マッサージするときの液は、もちろん自分の股間から流れ出たカウパー液。カウパー液はとどめなくいつでも流れ出ていて照信のパンツはいつもグチョグチョ。」
「高校では照信は禿げが移ると嫌われて、女子から鼻つまみ者にされていた。皮膚病的禿げだが、遺伝」
「河童の血が入っているという噂。水を頭からぶっかけると喜ぶらしい。」
同じIDで丸一日延々と批判を書き込み、レスを上げることに執念を燃やす。ただ、照信の知名度が当たり前だけれど全然ないので、盛り上がっているのは克利だけだった。
執念深さは筋金入りの克利は、twitterからとってきた照信の写真使ってイケメンゲイランキングに勝手に投稿した。まあ、twitterからなかなかの不細工な写真を持ち込んだからか、コメントに
「イケメンの意味が分かっているのか、不細工!。」
「あの、ふざけないでほしいんですが。こういう人がいると迷惑なんです。」
「日本語読めるのか?ここはイケメンであることが条件なんですよ。わかります?早急に削除をお願いします。」
と、批判が寄せられ、2ちゃんねるにも同じような批判コメントが続々と載せられた。
いつしか2ちゃんねるパワーで上位にランクイン。
とうとう擁護する奴も登場し、輝信板は盛り上がっていた。今日は擁護派のコッテリちゃんとバトル。
「照信さんを誹謗中傷するのはどうかと思います。事実ではないし。個人的な怨恨ですか?」
「出たな、コッテリ。擁護する奴は禿げ。」
「あなたも禿げているじゃないですか。人のこと言えます?」
「バーカ、コッテリふざけんな、禿げてんのはオマエだ、ハーゲ。」
「でも、腹もぽっこり膨れてて、・・おいくつですか?中年体型ですね。」
・・え?実は克利もかなりおでこが広くなってきていて、自分でも気にはしていた。ただ、腹?え?俺のことを知ってる奴?まさか、照信自身・・?
これだけ照信のことを批判しているのだから、もちろん照信の書き込むことは想定していた。ただ、克利自身のことを特定されるとは思っていなかった。
特定されれば、電話番号も知っているし、住所だってもしかしたら覚えているかもしれない。ネットに晒されたら、削除されない限り永遠に残ってしまう。
あれだけ毎日のように罵っていた克利だが、それからピタリと書き込みを止めた。
コッテリは照信自身ではなかった。2ちゃんねるに照信のホームページがあるのだが、早い段階から克利が2ちゃんねるに書き込んでいることを特定していた。
別リンクで2ちゃんねるに書いてある内容が事実無根であること、また書き込んでいる人、克利がマッサージなのに性行為を要求した過程が赤裸々に語られていた。
期限を決めて警告したにもかかわらず、批判がエスカレートして第三者がコメントする等拡大の様相を示してきたので、電話番号とメールアドレスから克利のfacebook、twitter、Lineを芋づる式に調べ上げ、そこから顔と体の写真をコピペしホームページに載せた。
それをみて、コッテリは2ちゃんねるに書いたのである。克利が知らないうちに2ちゃんねるには克利板ができ、イケメンランキングに登場するのにそう時間はかからなかった。

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toppoi01 at 09:35|PermalinkComments(0)ハサミムシ 

2015年10月02日

ハサミムシ(4)

ハサミムシ4
コンビニでレジを打つ。水道料金のシートに赤いスタンプを押して、お釣りと一緒に返す。そして、さっき入荷した雑誌の梱包を解いて、並べ始める。
「おい、ハサミムシ、ハサミムシじゃんか、オマエ。久しぶりじゃね?」
「あ、マジで!ハサミムシだ、ハサミムシだ。ウケる。」
ハサミムシ・・中学、高校を通じて俺につけられたあだ名。クラスの男子だけでなく女子も、そして顧問の先生もそう呼んでいた。
簗場とメスゴリラだ。久しぶりに遭った。成人式以来か?簗場は昔から馬鹿面をしていたが、さらに太って馬鹿度合いが増したな。メスゴリラもすげえ迫力。簗場より体重あるんじゃないか?
「何、コンビニで働いてんだ。超ウケる。」
「ハサミムシ、ちょっと禿げたんじゃね?マジか。禿げてんじゃん、コイツ。」
俺はシカトぶっこいていた。
「おい、テメー、何シカトしてんだよ。また、遊ぶか?」
「いえ、いえシカトなんてしてないです。しなければいけない仕事が溜まっているんです。」
遊ぶっていうのは隠語で、要はイジメだ。簗場の顔を見ると、放課後の鬼ごっこを思い出す。
鬼は簗場だけではなく、いつも5,6人いた。逃げるのは俺の他にもいたが、大体、俺は逃げ切ることができなくて、真っ先に捕まった。
捕まると、鬼の言うことを1つ聞かなければならない。プロレス技や柔道の技の実験台だったり、下半身だけ全部脱がされたり、眉毛を半分剃られたり、髪の毛燃やされたり、石食わされたり、まあいろいろだ。ただ、誰が鬼であろうと、それらの大半は簗場の指示によるものだった。
克利はそんなことがいろいろあり過ぎて忘れているのだろうが、ハサミムシの由来は、プールと校舎の間で鬼ごっこをして捕まった時に、壁面と地面との境に数匹のハサミムシがいて、それを喰わされたことからだった。
最初は「便所虫」と言われていたのだけれど、昆虫博士と呼ばれていた秀才からの指摘を受けて、それ以来ハサミムシと呼ばれるようになったのだ。
「久しぶりの再会なんだしよ、なんか奢れよ。」
「え、マジで?奢ってくれんの?」
何言ってんだよ、デブメスゴリラ。
「じゃあ、アッタシ、スムージー飲みたいかも。」
「俺、セブンスターくれや。」
ベトナムから来た留学生のバイトが、レジを打っていいものやら戸惑っている。
「ちっげーよ、2個ずつ。そうそう。払いはアイツだから。」
「バイビー、ハサミムシ。ちゃんと働けよ!」
簗場たちは意外とあっさり帰って行った。克利が簗場たちが車に乗り込むところを見つめている間、ベトナム人留学生は「ハサミムシ」という単語の意味を携帯で調べていた。
「今の、誰にも言うなよ。言ったらクビだかんな。お前なんかすぐクビだ。」
ベトナム人留学生にさっきとは打って変わって威勢よく言い放った。
やられたらやり返す、それが克利の信条だ。店内からセメダインと虫眼鏡を取り出し、コンビニを出て駐車場の脇にある緑色をしたフェンスの前にしゃがみこんだ。蟻の巣を見つけると、そこにおもむろにセメダインを流し込んだ。働きアリの数匹は飲み込まれたが、あとは散り散りに散らばって行った。それを虫眼鏡で追いかけた。太陽光を集中させて、一匹一匹を焼き殺していった。
「逆らうとこうなるのだ。二度と来るな。お前たちの来るところではなーい、立ち去るがよい。」
にやけながら、虫眼鏡で次のターゲットを追いかけていた。
その姿を店長の息子がすぐ側で立って見ていた。ベトナム人留学生からたどたどしくも詳細な報告を、既に聞いていた。しばらくはその行為を見つめていたが、注意せずに放っておいた。
満足げにコンビニに戻ると、事務室に呼ばれ、そこで店長から今日限りで解雇ということとスムージー等の未払金の支払について、淡々と説明を受けた。

帰りに蟻の巣を見たら、セメダインは土に吸収されて跡形もなくなり、すぐ側に新たな穴ができていた。それを足で踏み潰し、「カスが!」と大声を出し、駅に向かって走った。
まっしぐらに家に戻り、自分の部屋にこもった。早速、DVDを鑑賞しようと思ったが、いつも置いてあるはずの棚にそれがない。段ボールごとなくなっている。バディもディルドも、すっかりなくなっている。
隣のおばさんが、克利のオナニーを見た翌日、克利の母親に、それとなく言ったのだった。
聞いたとき、母親はもう赤面して声も出なかった。周囲にはいい大学を出て、将来は会計士になるんだと良いことばかり言っていたので、男の裸映像見ながら全裸で騒いでいたなんて醜態を聞かされて・・
部屋に入って隠してあったDVDや雑誌、グッズを全て運びだし、母屋に運び込んだのだ。DVDにつぎ込んだ額は100万円ではきかない。自分の部屋を一生懸命探し、これはもう両親の仕業に違いないことを確信した。
鬼神のような形相で、髪を振り乱し、母屋に入るなり、
「おい、おい、DVDどうした、おい、おい。」
「知りません。」
洗濯物を畳みながら、母親は答えたが、これは明らかに知っている口ぶりであった。
「おい、知ってるな、知ってるな?おい、いくらしてると思ってるんだ、DVD。どこやった、言え、言え。」
「ちょっと、克利、やめなさい、克利!」
克利は、家の中を引っ掻き回すように一心不乱に探し回った。しかし、全然見つかりはしなかった。
半狂乱になり、ウォーと叫びながら探し回った。
隣のおばさんは、ベランダから一部始終を聞いていた。一言も聞き漏らさぬように、細心の注意を払って聞き耳を立てていた。
獣が殺される間際の断末魔のような、号泣が聞こえてきた。間もなく嗚咽に変わった。隣のおばさんは、探し物だったらそのビニール袋の中じゃないかいって、隣の家との境に捨てられた不審物を眺めつつ、未だ断続的に聞こえてくる嗚咽を聞いていた。


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