2021年12月07日

終わりの見えないデスマッチC(2)

「おぅ、兄ちゃん、どこ見て歩いてんだい!」
と眉の殆どなく派手ではあるが色褪せてよく見るとところどころが擦り切れているシャネルのシャツを着た若い男にいきなり言われた。いや、そもそもがこちらが言うべき台詞であった。ニヤニヤしてこちらを見つめている手には、ほぼ空になった紙コップが握られていた。見るとコーヒーが弘一のワイシャツの全面を濡らしていた。
「おいおい、どうしてくれんだ、兄ちゃんよ。」
と、両腕に青い幾何学模様のタトゥの入った仲間と思われる男が近寄ってきた。
「あーあ、昨日買ったばかりのシャツがオジャンになっちまったじゃねーか。高いんだぞ、買うと。」
言う台詞が決まっているのかどうか分からないが、昨日買ったとは到底思えず、少なくともコーヒーのような褐色の液体は、因縁をつけてきた相手ではなく、ほぼ弘一にかかっているのは傍目から見ても明らかだった。
「まあ、兄ちゃん、ここじゃなんだから静かなところで話しようか。」と顎をクイッと捻って、その先の薄暗い路地を指し示した。この辺りで金を搾り取れそうなのを探していて、俺が引っかかったんだなと、うっすらと納得した様子で言うとおりに付いていった。
「いくら持ってんだ?」
「金ならないです。」
「嘘つけ。」
「ないですから。」
「おい、俺をあんまり怒らせるなよ。」
「ケガしないうちに出しておけよ、コラ。」
と胸ぐらを捕まれたのと同時に、弘一は相手の股間を膝で蹴り上げ、同時にもう一人の喉を左手で強打した。
「がぁぁ。」
「うげぇぇ。」
と倒れてもがいているのを尻目に、何事もなかったかのように、また元の道に戻った。

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