2019年11月09日

熾天使アブディエル(1)

アブディエルは天空にいた頃のことを思い出していた。背についた純白の翼を自在に操り自由に空を飛び回り、毎日が雲一つない晴天で眩いばかりの光を遮る物質は全くない。木々は花が咲き乱れ果実もたわわに実っているが、食べる者がいないので、甘く香しい匂いが辺りを漂っている。名をまだ与えられていない鳥の囀りに囲まれながら時折吹いてくる心地よい風に当たる。まだ宇宙というものが渾沌に支配されていた頃、ガスが渦を巻いて一つの輝きがまた生まれようとしている頃のことだ。太陽もまだできていないが、その光よりも遙かに強い光でこの世界は満ち溢れている。鳥の声が聞こえる木の下で一休みしようか。しかし先客がいるようだ。あそこにいるのはガブリエルか?輝いて眩しすぎて姿が見えない、気品溢れるガブリエル・・古き良き友よ・・
「ぎゃぁぁぁ!!!」
この世のものとは思えない悲鳴が辺り一面を揺るがせた。悪鬼がアブディエルの股間をまさぐっていた。そして大声に怯んでいったんは手を放したが、また垂れ下がった二つの玉を探り当てると、先ほどと同じように力任せに握ったのであった。
「あぁぁぁ、止めてくれ、止めてくれ、お前はなぜそのようなことをする?」
悪鬼にはアブディエルの草木がそよぐような声が耳に入らなかった。悪鬼はそもそも言語が理解できないのだった。仕事の一部として組み込まれているかのように、悪鬼はまたもアブディエルの玉を、その茨のような棘が生えた黒い手で潰しにかかった。
「あぁぁぁぁ!!!」
耳をつんざくような声がまたも辺り一面に響いたが、誰も応ずるものはなかった。

人気ブログランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

記事検索
最新コメント