2017年11月26日

耐えてみろ!(19)

すると、さっきのガタイの良いグッチのサングラスをつけた男がガムをクチャクチャ噛みながらやって来た。鼻にピアスをつけて、この寒いのに薄いTシャツを着て、太い腕にはタトゥが入っている。
「お疲れ様っす。」
ホストたちが一斉に礼をした。男がグルッと見渡して、それから陽一郎に向かって話しかけた。
「兄ちゃん、この辺の人?」
「うるせえ。」
と唾を吐きかけたが、男はそんなことに動じずに淡々と説明を続けた。
「街には街のルールっつーもんがあるんだわ。兄ちゃんもこれからもここでやっていく気なら、その辺、覚えておくといいわ。」
と言うと、その男が近づいて来ると、両脇のホストは脇にグッと力を入れて陽一郎の腕を固め、待ち構えた。シメられるんだなと漠然と分かっていたんで、歯を食いしばってその動きを見ていた。来る、と全身の筋肉を硬直させたが、「フンッ」という荒い鼻息と共に、なかなかの重い一撃を腹に食らい、その弾みで後ろのコンクリート塀にぶつかった。そして、間髪入れずにまた同じ箇所に力の入った一撃を食らう。覆われた皮下脂肪などを物ともせず、まるで臓器を守るべき脂肪が自ら避けていったかのように、腕そのものが臓器のあるあたりまで奥深く入り込み、胃袋の下方部が潰されて上に突き上げられた。背後は硬く冷たいコンクリート壁で挟み撃ちにされ、ダイナミックで逃げ場のない一撃が襲ってきたのである。
「おおぅ。」
と、その男が俺の腹を殴るたびに周りのホストは一斉にかけ声をかけている。そもそも、陽一郎はウエイト競技をしているから胸は人一倍厚いのだが、腹回りは日頃の不摂生が祟って脂肪がしっかりとついてしまって、筋肉の周りに脂肪があるという言い方もできるが、少なくとも見た目は緩かった。まして、さっき食ったばかりで、一人酒でサワーもガンガン飲んでいたし、ただでさえ膀胱にもう余裕がなく、すぐにでもトイレに行って用を足したいところでだった。ただでさえ、とても腹に力を入れて守れるような状況ではなかったのに、こんな重いボディブローをもらってはひとたまりもなかった。二発目当たりで生暖かい水が股間の中央部辺りから徐々に塗らし始め、三発目からは一気阿世にダムが決壊したかのごとくジャバジャバと流れ出して地面を濡らしていった。五発目くらいで胃袋が悲鳴を上げ、グッと大量にこみ上げてくるものがあるのを止められず、さっき食べたものをしこたま吐いた。しかし、そんなことを意に介さずに規則的に腹へ拳がねじ込まれ、その度に胃の中の内容物が逆流し、ほぼ胃の中が空になるほど吐き尽くし、ようやく終わった頃には周りは吐瀉物と小便で悲惨な状況になっていた。
「今度からは気をつけて歩けよ。」
と、男が去って行くと、
「ご指導ありがとうございました。」
とホストが一斉におじぎをした。陽一郎は解放された後も、もう吐くべきものなど残っていないのにゲーゲーと吐き続けた。誰も介抱してくれる人はおらず、時折襲ってくる吐き気に耐えながら、駅を突っ切って宿舎に戻っていった。
こんなことがあってから、当分は慎吾に対する腹蹴りの儀式は行われなかった。慎吾は、最近陽一郎の機嫌がいいんだなといい方に解釈していたが、反面、たまには俺の腹をメチャメチャにして欲しいとも思っていた。

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toppoi01 at 08:00│Comments(0)耐えてみろ!Ⅵ 

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