明は、昼は池袋の某百貨店でアパレル勤務をしているため、アルバイトをすると言ってもそう長い時間いられない。
シフトで木金休みなので、金曜日は早く来るようにしている。週末はさすがに客が多く、10時以降になると満席になる。
明は元々寡黙な性格で、しかも人見知りなので、こうした客相手の商売には不向きである。それは自分でも重々承知している。
客から「明美ちゃん、今日もかわいいね。」とか言われても、顔を赤くして黙ってうつむいてしまう。
すかさずママが「何、うちの秘蔵っ子に手出してんのよ。高くつくわよ!」と間髪入れずに返すのが常だった。
ゲイバーの喧騒とは裏腹に、黙々と酒を作って出し、皿やコップを洗っている。しゃべりは専らママの役目。けれど、店に来るオヤジたちは、やっぱりイケメンの若い明を放っておくわけがない。なんとか話の糸口をつかもうと、いろいろ話しかけてくる。
ママに明のことを聞き出そうとする客も多い。ただ、ママは「そんなの、明美ちゃんに直接聞けばいいじゃない。」と冷たくあしらう。
ママも明の気持ちがよく分からないのだった。口下手なのにここで働いているのは、ひょっとしたら前の彼氏が訪れるのを待っているのかもしれない。
前の彼氏は浮気性で、ママが知っているだけでも常時2,3人はスペアがいた。明は一途だったが、彼氏の方はそのうちの一人程度にしか思っていなかったようで、明が不実を責めると、今までの熱々な関係は何だったのかと思うくらい、あっけなく別れて次の男に乗り換えた。
端的に言うと捨てられたのだ。あくまで都合のいい男であって、面倒なことが起こればもう用済みだった。ただ、明はその男に身も心も捧げていたから、急に別れると言われても心がついて行かなかった。


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