「ボスッボスッ。」
くっ・・左脇腹に喰らうパンチがじわじわと効いてきた。半身傾けてかばおうとするが、相手はそれを見越して打ってくる。
リング内に固定されたカメラが一台、またオヤジのところにもカメラがあって、時折モニターを見ながら操作をしている。
いくらバキバキに割れた腹筋を誇る慎吾でも、吊るされ、手の自由を失い、ただ延々と耐えるだけ、しかも崩れ落ちることさえ許されない、絶望的な状況。終わりがあるとすれば、相手が疲れ果てて根を上げるか、それとも・・

3日後、慎吾は思い切って電話をしてみた。話だけでも聞いてみようと。
先方は、ゲイ向けの広告に使うんだと、はっきり言った。カラダだけの写真で3万、顔付きだと5万、いずれも現金先払い。条件として、アンダーウェアはこちらで用意したものを使うこと、拘束時間は半日程度であることを告げられた。
ちょっと早口で説明を受けて聞き逃した点があるかもしれないのと、念を押す意味で、写真撮影だけで3万なんですね、って聞き返した。それだけだと、そしてその場で写真はお互いに確認するとの答えが返ってきた。
金に困っているというわけではないんだけれど、写真で3万は悪い話ではない。時間も融通が利くし。

「ボスッボスッ。」
この単調な動き、決して乱れず的確に腹を狙う感じ、決して強くはないが衰えない威力、当たり前だな。俺は練習台だ。相手にダメージを与えられない、ただのサンドバックだ。いや、サンドバッグより弱い、消耗していくサンドバッグ。
俺の呼吸が乱れていること、俺に余裕がなくなってきていること、でも無表情で俺の腹を打ち続ける。自分のペースを崩さずに、腹だけを狙って。

写真撮影は順調に進んだ。というのも、ただ言われたとおりのポーズをして撮るだけだ。似たような写真ばかりを撮って、チェックした。1時間もかからなかったが、それで3万円をもらった。
「本当にいいんですか?」
こっちが逆に申し訳なく思って聞いた。
「契約通りのことだから当たり前だよ。それにしても、兄さん、いいカラダしてるね。」
既にTシャツに着替えていた慎吾だが、まだ裸体を見られている感じがした。
「兄さん、腹筋がすごいね。鍛えてるんだ?」
まあ、慎吾は腹筋が特に自慢で、水泳以外にも毎日腹筋のトレーニングを欠かさなかった。腹筋のブロック一つ一つが岩でも詰め込んだかのように固く、浮き出ていた。
「でさ、広告で動画も取りたいんだわ。腹筋を殴る、ただそれだけなんだけど、8万、、いや10万でどうかな?」
「それは痛がったり苦しがったりする必要があるんですか?」
妙な質問だった。演技する必要があるのかという、何とも腹筋に自信のある慎吾ならではの発言だった。
「自然でいい、それに演技だとどうしてもわざとらしく映って、ロクな作品にならない。自然体にしていればいい。」
その回答は、それはそれで何か噛みしめると言うか、自分に言い聞かせるような感じでゆっくりと出された。


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