2015年08月22日

ハサミムシ(3)

木曜日はリサイクルの日。ゴミ捨て場に新聞紙の束、発砲トレイ、酒瓶や空き缶が一か所にまとめて捨てられている。
克利は家の側にある収集ボックスから、アルミ缶を取り出し、足でそれを踏み潰した。縦にしてもなかなか潰れないので、まず横に転がして、踏み潰してから端を折り曲げてコンパクトにする。それを何個か見繕って繰り返して、自転車の前かごに入れる。もはや木曜日の習慣ともなっている。
夜中の2時、自転車で家を出る。街灯で照らされているので2時と言ってもそんなに暗くもない。信号機は黄色のまま点滅している。周辺は克利の家の東側が新興住宅街なので、道路もきれいに一直線に舗装されて、歩道も完備されている。終電も終わり、人通りはほとんどない。今度は左に曲がる。西側は古い住宅地で、細い道も多く、道が入り組んでいる。
すると、ボロボロの大きなずた袋を引きずって、灰色の作業着だか何だか原形をとどめていない服を着た、髪の長いホームレスが半ば左足を引きずりながら歩いているのを見つけた。克利は見つけるや否や全力で自転車をこぎ出し、追い抜きざまにさっき踏み潰したアルミ缶を、ホームレスめがけて全部投げつけた。ホームレスは意味不明な言葉を喚き散らした。克利は「ゴミ!社会のゴミ!」と、シーンと静まり返った住宅街の中で怒鳴った。
性格に言うと、ムシャクシャしたときのストレス発散のためであって、習慣ではない。ただ、ムシャクシャすることが水曜日の夜にあるから、半ば習慣めいてしまったのだ。

水曜日は、行きつけのヤリ部屋が安い日だった。いや、25歳以下が500円であって、克利は32歳なので、7歳もオーバーしているのであるが、偽造した大学院の学生証を呈示して、いつも入っているのだった。この日は当然のことながら、客層は若め。克利はこの曜日はわざわざバイトの時間を早めに切り上げて、16時には既にヤリ部屋でスタンバイしているのであった。
水曜日はアンダーウェアの日だが、克利はいつもSPEEDの、赤くて中央に白い斜線の入ったデザインの競パンを履いてきていた。ガリガリの洗濯板のような胸にポッコリとした下腹、競パンは選択肢としてはないはずだが、克利にとってはお気に入りだった。
克利のタイプは、ずばり競パンが似合う奴。水泳体型でビキニ跡があればなおいい。できれば競パン履いた者同士で競パンプレイができればベスト。ロッカースペースとハッテンスペースとの間には喫煙兼休憩スペースがあって、ロッカースペースとは薄いのれんのような布きれで仕切られているのであるが、ロッカーの開ける音がするたびに、のれんを除けて品定めをしていた。
ハッテンスペースは暗くて顔とかチェックできないし。17時には克利を含めて4人。ただ、どいつもこいつも普通体型のオッサンばかりで、克利の目に叶う者はいなかった。ロッカーの開く音がしたので例によって除くと、横顔をちらっと見ただけだが爽やか系のイケメン。携帯を入れるフリをしてロッカールームに行き、明るいところでじっくり堪能。アンダーウェアになってシャワーを浴びに行くまで、しっかりと舐め回すように見た。
で、シャワーから出た直後が要チェック!スッポンポンなわけだから、大事な場所をじっくり吟味。黄色い競パン履いた!これ、俺とヤリたいってサインじゃん。早速中でスタンバイ。中では中肉中背どもがアホ面して立ってやがる。帰れ、アホ。邪魔なだけだ。
来た。すれ違いざま、ケツをペロンって触る。いい弾力。俺の股間もムクムクしてきたぜ。克利は真っ黒く変色して突起した乳首を平手でこする。興奮したときのいつもの癖だ。競パンプレイするんだから、ガラス張りの部屋を押さえておくか。部屋に半身入れた状態で陣取る。5分くらいそうしていたが、ちっとも来ないので、しびれを切らしてロッカールームに戻る。何、帰る用意してんじゃん。
ジーンズを履こうとしていたので、その隙に競パンをずり下ろそうとしたが止められた。脇から出してやれと思って手を入れようとすると拒まれた。
「何、何だよ、オマエは。」
俺の口テク使えばこっちもんだと思って、競パンの膨らみに口を持っていく。ベロを出して舐めようとした。
「お客様、お客様。」
受付からちょっと太めの店員が出てきた。
「迷惑行為は禁止されていますので。」
その間にすばやくジーンズと履いて白いシャツを羽織り、バッグを手にして逃げるように出ていった。
「はぁ?ハッテン場でハッテン行為して何が悪いの?」
「迷惑行為ですので。」
「セックスが迷惑なわけねーじゃん。ここってそういうとこだろ。教育受けたか?頭おかしいんじゃねーの、オマエ。」
「店内のルールに従えないのでしたら、退場してください。」
「オマエだろ、それ。病気か?病気だよ、オマエ。病院行けよ。いい病院あるよ。」
「退場してください。」
太めの店員は、顔を紅潮させて、ゆっくりと大きめの声を出した。
「当たり前だろ。誰が来るか、こんな店。臭えしよ、掃除してないだろ。勉強しろ。死ね。」
悪態をつきながら、克利はこの店を出た。
「バカが、ふざけんじゃねーよ。」
エレベーターの中でも帰り道も、ずっと悪態をつき続けていた。すれ違う人は皆怪訝な顔をして見つめ、誰一人として意味を理解する人はいなかった。電車の中でも、駅を降りても、家に帰ってからも。
もちろん、そのことは2ちゃんねるのハッテン掲示板に書き込んだが、早速袋叩き状態になり、パソコンに対してさえも悪態をついていた。

ホームレスのオヤジはまだ喚いていた。ゴミにゴミをぶつけるのは痛快だな。ま、俺のぶつけたのは有用なゴミで、ぶつけられたほうが無用のゴミだがな。
向こうから自転車が来た。警官か。通り過ぎようとしたら、遮られて止められた。
「お急ぎのところすみません、ちょっとよろしいですか?」
「悪いが、急いでいるんで。」
「自転車の確認をさせてください。」
「俺のだよ。防犯登録してあるじゃん。」
「身分証明書の提示をお願いいたします。」
「持ってないし。」
「これからどちらへ?」
「家だよ、決まってるだろ?」
「お仕事の帰りですか?」
警官が集まってきた。逃げるか。しかし、自転車のハンドルが掴まれている。
「すみませんが、こっちは急いでいるんで。」
「うん、すぐ済むから。防犯登録の確認はできましたんで。お仕事はどういったことをされてます?」
「おい、頭悪いだろ、オマエ、学校出ているか?急いでいるって市民が言っているだろ。拘束する権利があるんですか?何条の何項に書いてありますか?」
「うんうん、で、お名前から教えてもらえますか?」
「警官は国家の犬ー、犬に言葉は通じなーい、よってしゃべることなーし、帰れバカ。最も頭悪いオマエは、まず帰れ。」
警官に悪態をずっとついていた。
「オマエら警官の仕事はゴミ掃除だ、社会のゴミを掃除することだ。犬が。俺は法によって守られているんだ。弁護士呼べよ。オマエはバカだから話にならない。」
ゴミ、今掃除してんだけどな。応援で駆け付けた警官は、心の中でそう呟いた。

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toppoi01 at 11:25│Comments(0)ハサミムシ 

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