「克利、克利!」
ウッセー。シカト。
「克利!いるんでしょ?今日、バイトは?」
「ウルセーな。休みだよ。」
「嘘でしょ?どうせ辞めたんでしょ?」
「・・・。」
「お母さんね、心配だから言ってるの。もう何回目なの?あのね、お父さんだって退職して、うちにあなたを養うお金なんてないんだから、真面目に稼いでくれないと困るじゃないの。あなた、もう32になったのよ。」
また、いつもの小言だ。聞かなくても言いたいことは分かっているし、こっちが聞いていようが聞いていまいが、どうせ最後まで話すんだろ?
高校受験にいくらかかって、予備校にいくら、大学にいくら、会計士の予備校にいくら、まあこっちにしてみりゃだから何って感じだが。返せって?投資だろ、それ。勝手に投資しておいて、損したから返せって?バカな。
「同級生の小永井君、今度帝京大学の講師ですって。ゆくゆくは教授かしら。お母さんが言ってたわよ。うちもたまにはそんなことを言わせてちょうだいよ。」
講師くらい誰でもなれるだろ。マリオカートやりながら、克利はつぶやいた。大体、俺だって会計士に受かってればこんな生活してないけどね。会計士になったら、一流会社の顧問にでもなって、適当に言われた通りの監査をしてさ、固定給をもらって、まあ安泰な生活だよ。面倒なことは会計士補にやらせてさ、俺は最後に判だけ押せばいいんだから。
「あんたさぁ、これからどうしていくの?アルバイトの給料なんてたかが知れているじゃない。小永井君、あんた馬鹿にしていたけれど、抜かれちゃったじゃないの。悔しくないの?もう会計士なんていいから、ちょっとはまともな職について・・ちょっとどこ行くの、克利、克利!」
ウッセー、マジで。耳にタコ。ミニにタコ。自分の腹をポンポンと叩く。最近は相撲取りのように、腹をたたくのが癖になった。体重は人並みだけれど、急に腹がポコッと出てきた。スリムだったんだけど、というか、腹を除けば今もスリム体型なんだけどな。まあ、いいや。背脂鬼盛ラーメンでも喰ってから行くか。
腹ごなしをして、食欲を満たした後は性欲だな。木曜日は中野のヤリ部屋でデカマラデーのイベントがある。克利はモノには自信がある。ウケだから使いはしないのだが。デカマラパスポートを提示すると700円割引になる。今日も勝負競パンを装着して、中央線に乗り込んだ。
電車は乗ったけれど、しばらく動かなかった。
「人身事故の影響で、上下線とも当面運転を見合わせております。地下鉄東西線、新宿線、京王線で振替輸送をしておりますので・・」
何やってんだよ、克利はホームに唾を吐き、迂回して中野に向かった。
ヤリ部屋は、居酒屋が立ち並ぶ通りを突っ切って、角の薄汚れたビルを上がった4階にあった。
デカマラパスポートを提示して、1000円札を出した。
「お客様、申し訳ありませんが、当店は短髪イカニモ系をコンセプトにしてまして、」
「はあ、知ってますが、これ。」
パスポートを受付に向かって見せる。
「お客様のような長髪は、ちょっとこの店のコンセプトに合いませんので、申し訳ありませんが。」
克利は激昂して、どもりつつ言った。
「オオオ、オマエさ、こここ、このパスポートさ、誰、だ、誰が発行したんだよ。ん?」
「申し訳ございません。」
「いや、入れるんだよ。オマエ、俺はさ、入る権利があるんだよ。バカだろ。大学出たのか?」
「お客様、」
「入れろよ、じゃなければ、オマエみたいなバカはいいから責任者呼んで来いよ。オマエが判断する話じゃないんだよ。」
デカマラパスポートには、所持者はデカマラデーに限り割引になるとしか書いていなかった。また、有効期限の半年もとっくに経過していた。
他の客もいつの間にか入ってきたが、受付の手前で携帯をいじっている。
「おい、いいからカギ渡せよ。バカと話してられねーんだよ。権利を行使します。全宇宙で共通なんです。カギ渡さないということは、どこのロッカーにも入れて構わない、そう解釈していいですか?」
受付から若い男が出てきた。克利の首元を掴むと、強い力で入口の方まで連れて行った。
「すみません、不当な行為です。誰か、警察呼んでもらえますか?ああ、痛い痛い、刑法上の罪になりますよ?いいんですか?バカだからそんなことも分からないんですか?」
ドアから突き飛ばすように出され、一気に閉められた。
「つぶれろ、バーカ、死ね。」
そう、ドアの向こうに向かって大声で騒ぎ、階段をまたブツブツ言いながら下りて行った。
この様子は動画サイトに投稿され、ゲイの間ではそこそこの有名人へと成り上がった。もちろん本人はそんなことは知る由もないことで、2ちゃんねるにそこのヤリ部屋の悪口をネチネチと書き込むのが当面の日課となった。



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