「ねえ、僕のこと、好き?」
悟が俺の顔を覗き込んで聞いてきた。いつものことだ。
「ん?まあ。」
曖昧に答える。
「ねえ、じゃあ僕のこと、愛している?」
上目づかいで俺を見つめる。
「何、いいじゃん。」
「何、いいじゃんって。愛している?」
若干微笑みながら、いや、どちらかというとずるそうな口元で、再度俺に聞く。
俺は顔を紅潮させて、うつむいた。
「ねえ、愛してる?愛してないの?どっちー?」
「バカ、場所考えろよ。」
小声で言うが、悟はそんなことお構いなしだ。
「ねえ、愛しているって言ってよー。」
何人かが、こっちを好奇の目で見ているのが分かる。
いや、見ていなくても、携帯のゲームをしながら、lineをしながら、新聞を読みながら、耳をそばだてているのが分かる。
知ってるんだ。俺を辱めようとしているのは。さっきのお返しなんだろ?
列車はカーブに差し掛かったようで、轟音をあげる。周りは誰もしゃべらず、成り行きをうかがっているようだ。
車内アナウンスがまもなく駅に到着することを告げる。

2時間前、スタバでコーヒー飲んでて。グランデ頼んだ後で、これ、熱いし飲みきれないなってことで、単行本を読んでいた。
悟は携帯を弄って。どうせジャックドで男探しでもしてるんだなって思って。
スタバの店員って、結構イケメン多いよな。あの、一番左端の奴なんて岡田将生そっくりじゃん。
ふと、鋭い視線を感じた。悟が俺を観察しているんだ。
「結構忙しそうだね。」
「何が?」
「コーヒーショップってなかなか大変だなって思って。」
「一番左の人が?」
やばい、やっぱり気づかれていた。
「いや、みんなだよ。」
「一番左の人をずっと見てたよね?違う?」
「う、うん。」
悟は、また携帯を弄りだした。俺は、単行本を手に取り、読む振りをした。もちろん、冷めたコーヒーを無理にでも飲み干して。

あと、一駅。次の駅までの辛抱。耐えよう。自分に言い聞かせる。
「茂人、聞いてる?愛してる?愛してるって言ってよー。」
おねだりするかのように、片手で吊り輪を掴みながら体をくねらせて要求する。
「あれ、茂人、チンチン大きくなってない?」
うつむいていた車内の乗客が一斉に俺の方を見た。
俺は恥ずかしくてさらにうつむいた。履いている靴ひもの赤さが際立って見えた。
「何で?何で何で?」
勃起なんてしてないのに何でそういうこと言うんだ。
呼吸が荒くなってきた。意識すればするほど荒くなる。胸の鼓動も、心音が聞こえるくらいに大きくなってきた。
俺は両手で一つの吊り革を掴んで、ただひたすら靴ひもを見ていた。耐えろ、あと一駅。
乗客の乗降も終わり、列車は走り出した。
「皆、見てるよ。」
悟は耳元でささやきかけて、フーって息を吹きかけた。あー、ダメだ、これ、ダメかも。
茂人の股間は膨らみを増し、傍からもUの字になった、窮屈そうな張りがくっきりと見えた。茂人はその自分の状態から目を逸らすかのように上方を見上げた。大学入試やサラ金の広告を見て、落ち着かそうと試みた。
「もっと足、開け。」
悟は耳元で命令口調で囁き、俺の左足を蹴る。
股間は脈動している。膝がガクガクして、背中に嫌な汗が流れて行った。
「はうぅ。」
唐突に悟は茂人の股間を握るように掴み、そして離した。ビリッとした衝撃が股間から脳天へと突き抜けた。
「まもなく、つつじヶ丘、つつじヶ丘駅です。出口は・・。」
茂人は口を開けて、吊り輪に全体重をかけ、脱力していた。股間の膨らみは元に戻ったが、その代わり、シミがどんどん茂人の股間を濡らしていった。
「浮気するとどうなるか、分かった?」
「はい。。」
涙目で、消え入るような声で茂人はつぶやいた。
「二度としませんは?」
「二度としないです。」
駅で、人を避けるかのように内股で歩く茂人の後から、悟は携帯をいじりながら歩いて行った。いじりながらも、茂人の内股歩きを観察しながら。


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