2015年08月10日

川辺にキラリ

また一つ、傍らにあった小石を拾って、川面へと投げた。
ピチャッという、湿った音を立てて水面から水がほとばしり、波紋が同心円状に広がっていった。
ただ、それも川の流れによって押し流され、淡く消えて行った。
空はどんよりと曇っていたが、時折陽も差していた。弱いながらも風が時折吹いて、目の前を小さな落ち葉がコロコロと転がって行った。
そういえば、陽も大分落ちてきたようだ。
邦史はいつからここでたたずんでいたのだろうか、自分でも分からなかった。気が付いたらここにいた。
また、小石を拾って投げた。今度は力が足りなかったからか、川の手前で落ちて、バウンドしてから川面に沈んだ。
ふと、啓太郎の声が聞こえたような気がした。
「ここで何しているの?」
って、優しく、でも聴こえるか聴こえないかのような、自分だけにしか聴こえない程度の声で。
でも、誰もいなかった。川面を魚が跳ねた。涙が頬を伝った。でも、その涙を見る人は誰もいなかった。

啓太郎が家を出て行ったんだ。僕とは住む世界が違うみたいだからって言い残して。「住む世界」って何?僕には分からないよ。けれど、啓太郎がそういうんだから、きっと違ったのかな。何かが。
僕と啓太郎は、自分では結ばれるべくして結ばれた、赤い糸で結ばれていた必然の関係だと思っていた。でも、育った環境が違えば、考え方やルールもそれぞれ違うよ。
分かってたんだ。啓太郎の心が僕から離れていくのが。1か月くらい前から薄々は感じていたんだよ。僕は離れまいと必死だった。離れていく心を追いかけて行った。けれど、加速度的に離れていく心を、僕の意のままにならない心をつなぎとめることはできなかったんだ。
それは知っていたけれど、こんな日が来るとは思っても見なかった。僕に悪いところがあったらどんどん言ってくれれば、僕はいくらでも直したよ。

風が通り過ぎて行った。まるでここだけが風の通り道になっているかのような、局所的で強い風が。僕の髪の中を、そしてシャツを突き抜けて背中の方まで風が走り抜けていった。
ガマの穂がなびいて、また反発してメトロノームのように揺れ動いている。ガマの穂は一見皆同じように見えるけれど、よく見ると、一つ一つが長さが違って揺れ方も異なっている。
もう一度強い風が吹いた。邦史の耳から熱を奪い、首に絡まるようにして拭いて行った。また、ガマの穂は一様になびいた。けれど、反動で揺れ動いてからはそれぞれがそれぞれの動きをしていた。

啓太郎・・陽も落ちて、周囲は段々と暗くなってきた。涙もいつしか止まっていた。
啓太郎の世界が、きっと僕は見えていなかったのかな。一緒にいたけれど、実は一緒にいなかったんだ。追いかけていたのではなくて、スタートから、違う方向へと走っていたんだ。

また、風が吹いた。邦史の涙の痕をさらい、シャツを波立たせて通り過ぎた。ガマの穂がまた揺れ動いた。それぞれがそれぞれの動きをしていたが、そのうちの一組は、全く同じ動きをしていた。左右のワイパーのように、いつまでも、いつまでも同じ動きをしていた。
僕は立ち上がった。頭上には月が昇っていた。その月の右側で、星が白く輝いていた。月の明るさに負けないように、ひときわ明るく輝いていた。
ガマの穂も白く輝いて映えていた。星の光が反射しているかのように、てっぺんがダイヤのように輝いて見えた。
急に空腹を感じた。帰りにコンビニで弁当買って帰ろう、そう思って土手を駆け上がった。
また、風が吹いた。けれど、その風は邦史には感じなかった。

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toppoi01 at 20:41│Comments(0)川辺にキラリ 

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