ゲイなんすっけど、小説書いてみました。

ゲイ系の小説を書いてみました。素人が書く小説ですし、発表するほどのものでもないのですが。エロい内容も若干含まれていますので、気にされる方はお勧めしません。コメント残してくれるとうれしいです。

堕ちるところまで堕ちて(7)

あまりに敏捷な行為に何もできなかった。とりあえず、後ろ手に固定された状態で10数人の中年たちの視線をただ浴びていた。
すると、さっきまで特段何の動きもなく事務机に座っていた、背の低くて痩せた感じの男が立ち上がった。
「では、お待たせしました。左の人から一列に並んでください。」
無言で皆立ち上がり、緩慢な動作で縦に並んだ。
「一人30秒ですので、時間になったらベルを鳴らします。そしたら次の人に代わってください。では、いきます。」
え、ちょっとちょっとと何が始まるのか何も説明がないまま、そんな意味不明のコーナーが始まった。最初のイカツイ真っ赤な顔をした中年男性が近づいてきて、何するのかと思ったら、無防備な腋を舐めだした。若干多めに生え揃った腋毛を舌を出してベロンベロン舐めている。それで30秒などすぐ経った。
「チン。」
次のメガネをかけて七三分けして縦皺の刻まれた神経質そうな中年は、乳首をペロペロ舐めだした。両手は後ろで組んだままだ。
「チン。」
次は鼻が上向きに剥いた、髭のかなり濃い、ずんぐりむっくりした中年男性だ。そいつは乳首を顎鬚でジョリジョリし、舐めてまたジョリジョリするという繰り返しだった。
・・何なんだ、これは?そんな感じで13人が全て終わった。彼らは終わると、列の最後尾に静かに並んだ。
「では、二順目です。今度は二人がかりになりますが、時間は30秒です。ではいきます。」
赤ら顔が、また腋を舐める。で、右側は中年男性がやはり乳首を舐める。
「チン。」
赤ら顔が今度は髭面に代わって、またジョリジョリ、そして舐めてという作業を繰り返す。
違ったのが、最後の方の、何だか顔は疲れ気味の中年ど真ん中なんだけど所作がオネエっぽい感じの奴がずっとキスをしてきたこと。舌を入れようとするんだけれど、何せその口の臭さといったら半端ないから歯で断固阻止した。
何だろうな。でも、そういや皆、口だけで手とか使ってこないな。
最後の奴が終わり、また縦に整列している。
背の低くて紺のスーツを着た黒縁メガネが近づいてきて、俺の股間を握った。結構縮こまっていたので、いきなり握られて恥ずかしかった。
「皆さん、お疲れ様でした。オプションはありませんので、今日はこれで終わりになります。」
中年たちは一様にぼんやりした顔つきで、次々にこの部屋から出て行った。

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概要(2017/05/20)

初めて読む人のために、この小説集の概略を書きます。全部にゲイが主人公で登場しますが、タイプはいろいろです。

「川辺にキラリ」
一応、処女小説。短篇です。別れを自分の中で消化しようとする過程を描いたつもりです。

「短かった夏」
これも短篇です。別れ話がこじれ、何も言わなくなった相手に思い出話をするっていう話です。

「優先順位」
中編小説です。家庭と不倫の両立ができなかったって話です。主人公は中年のマッチョです。

「愛しているって言って」
中編小説です。一話一話で完結するように書いています。恋愛小説であり、SMの話ですけれど、そんなにエグい感じではないです。(たぶん)

「ハサミムシ」(執筆中)
これも中編小説です。一話一話で完結する感じです。この小説だけ、特に取り柄のないクズ人間が主人公です。いろいろなクズを集めて書いていけたらなと思っています。

「僕の彼氏は韓国人」
中編小説です。「愛しているって言って」と同じく一話完結の恋愛小説ですが、韓国人の特性みたいなものも織り込んだつもりです。一応、これは実体験に基づく私小説的なものですんで。

「夜明け前」
短篇小説です。深夜のゲイバーで繰り広げられたちょっとした恋愛小説です。

「そんなに仕事が大事?」
短篇小説です。失恋を中心において、仕事で追い詰められていく様子と織り交ぜて書いてみました。

「とことん付き合って・・いけるか、俺?」
中編小説です。完璧主義でシンメトリーが大好き。神経質で疑問点はとことん探求するという主人公とそれに振り回される彼氏との関係を描く、一話完結型の恋愛小説です。

「耐えてみろ!」(執筆中)
長編小説です。スジ筋とマッチョの二人を、主人公を入れ替えたりして書き進んでいます。腹筋ベースでちょっとSM小説チック、主として腹責めです。でも、他の腹責め小説に比べると、さっぱりしている(物足りない?)感じだと思いますが。

「落ちるところまで堕ちて」
長編小説です。一応SM小説で、主人公はマッチョな大学生です。マッチョ学生が金をきっかけにして自ら進んで壊れていく過程を書いていきます。

「終わりの見えないデスマッチ」(執筆中)
長編小説です。SM小説で、中でも金的メインです。主人公は二人ともスジ筋で、マッチョが脇役で出るって感じです。

「デリバリー」(執筆中)
中編小説です。主人公二人ともマッチョです。ま、焦らし系小説ですね。全然話が進まないじゃないかって感じですけれど、これが小説の醍醐味だと思ってもいます。時間がもっとゆっくり進むといいのに、と思っている人向けですね。

「灰色の空間」(構想中)
中編小説です。SM小説で、拷問系ですね。これも韓国を舞台に書いています。

「代償」(構想中)
中編小説です。ゲイ差別を受けるけれど、立ち向かっていく話です。

「台南の風に吹かれて」(構想中)
中編小説です。イケメン台湾人と旅先で恋に落ちてしまうという恋愛小説です。これも「僕の彼氏は韓国人」に引き続き、実体験に基づく私小説のようなものです。

「ゴーグルマン」(構想中)
中編小説です。マッチョなノンケがゲイビデオに出演する過程を描いてみました。

「終わりの見えないデスマッチB」(構想中)
基本、金的メインとかは変わらないんですが、主人公が代わります。


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堕ちるところまで堕ちて(6)

そこから見覚えのある顔の男がこちらに近づいてきた。
「じゃ、ちょっとさ、服を脱いで、これを履いてくれる?」
渡されたのは黄色い蛍光色のビキニパンツだ。それも競泳用なのかよく分からないが、紐がついていた。
「どこでですか?」
「ここでだよ、そりゃそうじゃない、浩ちゃん。」
と、この前初めて会ったのだが、いかにもよく知っているかのような馴れ馴れしい口調で話しかけ、ヒヒヒヒと下品な笑い方をした。
周りを見渡してみたが、2mくらいの距離でパイプ椅子に大人しく座っている中年が、この下品な笑いをしている奴を含めて全部で13人、ドアのところに立っている大柄であまり頭がよくなさそうな男が1人、事務用のテーブルに座っている黒縁メガネが1人、全部で15人しかいない。
その中年の集まりの眼の先にあるのは、大きなエアコンと鉄アレイが全部で6個、そしておそらくもともとは柱があったのだろうが、鉄筋が赤く数本むき出しになって途中で乱雑に切れていて、それをまた鉄パイプで組み合わせた、ジャングルジムのような構造物があるだけだった。
ストリップみたいにゆっくり脱いだ方がいいのかなとか、よく分からないながらも着ていた洋服を全部脱いで、指定されたビキニパンツに履き替えた。
モノの位置にちょっと困ったが、それでも毛がはみ出てしまうのはどうしようもなく、これで準備がいいのかどうかよく分からないまま直立姿勢をとった。
中年たちの目が輝いた。まあ、中年たちには縁のない、この発達した大胸筋に惚れ惚れしているのだろう。おひねりとかあるのかな?そんなに食いつきがいいのだったら予めもっと鍛えこんでおけば良かったな。
と思ってると、さっきの大柄な男が浩輔のところに来て、腕を後ろに組むように指示した。
言われるままやると、そうじゃなくて手を交差させて頭の後ろに持っていくように、そして中年たちの方を向けとジェスチャーで言われた。すると、大柄な男が手首に手錠をかけた。そして、手際よくジャングルジム状の格子にその手錠を縛った。

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堕ちるところまで堕ちて(5)

当日、指定された住所を頼りに行くと、一見普通の集合住宅のように見えるが、指示されたとおり地下へ階段を下りていくと、異様に頑丈そうなドアがあった。開けようとしたが開かない。呼び出しベルを鳴らしたが、音沙汰がなかった。メモを見ると、数字で****を押してから、*****と言えと書いてあった。そのとおりにすると、カシャンと鍵が開く音がした。
入ると、薄暗いコンクリートと配管に囲まれた空間であって、想像していたイメージ、スポットライトを浴びて華やかでずらっとギャラリーがいて、ステージがあってその上でパフォーマンスをするみたいなイメージを勝手にしていたのだが、それとは全然違っていた。
呆然と立っていると、坊主頭でカラダのでかい男が「こっち、こっち」と手招きをしていた。
言われるがままに行ってドアを開けて入ると、スーツ姿もいれば普段着姿もいるが、いずれも中年から壮年と言った感じの男が10人くらい、パイプ椅子に座ってこちらを見ていた。

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堕ちるところまで堕ちて(4)

「いえ、待ってください。でも、ショーって、俺、本番とかちょっと勘弁して欲しいっていうか・・」
ガハハハハと、急に豪快に笑い出した。そして、しばらく笑い転げていた。
「いやいや、ショーってさ、そういうショーじゃないから。それ違法でしょ?筋肉見せ付けてさ、パンツも履いているしさ、そんな構えるようなことはなくて、何もしないでただ立っているだけでいい、簡単なショーだから。だって、無理でしょ、知らない相手とヤルなんてさ。」
「はい。」
「そんな、素人さんが急に人前で本番なんかできないんだから。だって、急に勃てって言われて勃つ?それも知らない人に囲まれて。ああいうのは演技力がないとできないの。そんなの求めちゃいないからさ。」
「はぁ。」
まあ、聞く限りでは全然なんてことない。なんかそんなもの?みたいにあっけにとられたというか狐にでもつままれたような感じだったが、金持ちって言うのは分からないものに金をかけるものだからなと変に納得して、承諾の返事を再びした。

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堕ちるところまで堕ちて(3)

「お金は、お金はすぐに返します。」
実際盗んだのは2万3千円ほど、返せない額ではない。
「浩輔ちゃんよ、お金の話をしてないんだよ。これは立派な犯罪よ?明治大学水泳部3年の浩輔ちゃん。」
相手は俺の素性を調べてからここに来ているようだ。
「窃盗事件はマズいよね?学校だって停学で済めばいいけどね。ましてゲイバーで窃盗なんてね。」
結構目がマジで、視線を半ば上向きにして、落ち着いた様子で話した。
「どうしたらいいですか?」
唾を飲み込み、相手が一体何を望んでいるのかを聞いた。要は脅しだ。ただ、バレたら俺の将来はメチャメチャだ。
「パーティのゲストとして出てほしいんだ。」
「!?」
「いや、パーティって言ってもそんな若い人たちがするような奴じゃなくてさ、簡単に言うとゲイの金持ちが集まって、そこでショーをするんだけど、そこに出演するっていうんでどうだろ。」
なんだ、慰謝料含めていくらって話かと思ったが、拍子抜けした。
「弁償とかではなく、それに出ればいいってことですか?」
「そうそう。悪い話じゃないだろ?それにさ、そのパーティに出たら、逆にVIPの客からおひねりでるかもしれないし。」
「向こうのママもさ、金さえ返してくれればいいって言うし、実はそのパーティの主催者に写真見せたら、出てくれたらその金を肩代わりしてもいいって言うんだ。」
もう、話が知らないところで進んでいるようだ。
「分かりました。」
「そう?そっか。話が早いな。体育会系は物分りがいいよな。よし、じゃ、話つけておくから。」

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堕ちるところまで堕ちて(2)

「おいおい、今日は君に用があるのよ、浩輔ちゃん。」
普段、店では「コウちゃん」と言われていて、名前そのままで言われることはない。俺を知っているのか?
「ああ、君さ、浩輔ちゃん。この写真見覚えある?」
携帯を俺にかざす。暗くてさっぱり分からないが、なにやら黒い影がもぞもぞと動いている。どうやら動画のようだ。ただ、目を凝らして見ても、人が何かを探しているのかくらいにしか分からない。
「分からないかな?暗いもんね。これ、中野にあるbo-zuってゲイバーの店内映像なんだよ。知ってるだろ?」
浩輔の顔から血の気が引いていった。目が泳いで焦点が合わず、明らかに動揺しているが、浩輔は平静を装って、
「ああ、知っています。よく行っていましたから。」
若干声も上ずっているのが自分でも分かった。この動画が何を物語っているか、浩輔自身がよく知っていた。
半月前、bo-zuで飲んでいた。ママが客を見送りに外に出て、もう一人、店内にいた客はトイレに立った。その隙に、カウンターの内側にあった現金12万円ちょっとを鷲掴みにして、そっとポケットにしまったのだ。
浩輔自身、これが初めてではなかった。3回目だった。初めはほんの少し、千円札2,3枚をかすめ取っただけだった。ばれないと思ったからだ。次は2万円。これもこの前の場所に手を入れたところ、たまたまこれが2万円だったというだけで、ばれないだろうと思っていた。
味を占めて、3回目は洗い合切、そこに置いてあった現金をそのまま持ち去った。もちろん、何食わぬ顔で会計を済ませた後で。もう来ないと決めていたから大胆だった。ただ、半日経って改めて明るいところで見ると、1万円札は全てカラーコピーだったことに気づくことになるのであるが。
その時の客が、浩輔は気づかなかっただろうが目の前にいるオヤジ、そしてママに依頼されて防犯カメラを設置し、犯人の目星をつけていたママに呼び出されて飲んでいたのだ。防犯カメラには、色こそ違えど、似たような横のボーダーの服が映し出されていた。
もう、何も言い逃れはできなかった。


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堕ちるところまで堕ちて(1)

赤いランプで照らされた店内。テーブルもソファも皆真紅。白ワインさえも赤く輝く。
「嫌、ん、モー、照さん。」
座り際にお尻をなでられ、毛深い腕を掴んでそっと払う。
「なんだよ、新入りか、やけに堅いじゃねーの、ヒヒヒヒ。」
書けた前歯も赤く照らされ、酒焼けで普段から真っ赤な顔は、却ってどす黒さを増している。
ネクタイも左に曲がり、はしご酒をしてきてここ、東上野のムーンサルトにたどり着いた客をさばく。
「照さん、久しぶりじゃないの、元気してた?」
正直、浩輔には名前すら記憶がなかった。ただ、ママがそう呼ぶし、いろいろ聞いていればそのうち思い出すだろうという、根拠のない自信があった。
「元気じゃないよ、ママ、元気なのはね、ココだけ。」
と、股間を指さし、下品な声で高笑い。
うわっコイツ最悪と思いつつも、
「すみませーん、私も一杯いいかしら?」
浩輔は木曜と土曜だけ、バイトで入っている。浩輔の仕事は客にボトルを入れてもらうこと。
グラスが空きそうだったら促し、減りが遅い客には自ら分け前をもらいに行く。
「おう、いっぱいでもおっぱいでも。」
と浩輔の胸を揉む。
「もう、照さん、ご機嫌なのね。」
またも、客の手首をつかんで払う。
「おいおい、知らない仲じゃねーんだし、いいじゃねーの。」
と、また浩輔の胸を揉み始める。
黄色と青の、横ボーダーのラガーシャツにはちきれんばかりにパンパンになっている胸は浩輔の自慢でもあった。
触れられただけでも体をビクつかせるくらいの性感帯。けど、酔客に触られるために鍛えたんじゃない。浩輔は歯を食いしばってこの屈辱に耐える。
そもそも知らない仲じゃないってなんなんだ?全く覚えがないし、それにゲイバーだから触られることがないわけではないが、こんなにも大っぴらに触られることは初めてだ。
「ごめんなさいね、ここはお触り禁止なの。また今度ね。」
「おっ!?今度っていつの今度だよ?」
「さあ、いつかしら。」
「今度はコンドーム用意ってか?ゲヘヘヘヘ。」
オヤジギャグに愛想笑いを浮かべ、敏感な胸を揉まれた興奮を落ち着かせようと深呼吸をする。ボトルを取りにカウンターに向かおうとすると、ズボンの縁を掴まれた。

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とことん付き合って・・いけるか、俺?(4)

俺、また発見しちゃった。努、時間を計ってる。
キスの時間、12秒。決まってるんだ。いや、ちゃんとね、計ってるんだよ。
キスって目を閉じる人?俺は閉じるんだけど、さっきいきなりだったから開けてたのね。
努の目が、俺の方に向いていなかったわけ。はっきりデジタル時計見ていたね。で、何か俺が乗ってこようがこまいが、12秒できっかり止める。
まさかねと思ったけれど、セックスも時間が決まっている。アラームまではかけないけどさ、これ、デリバリーの人のすることじゃない?
単調、単調と言えば単調なんだ、正直。セックスがその一日の一コマの中に当てはめられているわけだから。でもさ、でもよ?俺のカラダはそんなわけにはいかないじゃない?違うことをして欲しかったりもする。今日は後ろから攻められてみたいとかあるわけじゃん?人間のカラダって法則どおりにはいかないわけだよ。
ってなわけでさ、俺は意地悪く、体勢を入れ替えてみたのね。くるんってカラダを回転させて、俺が四つんばいになる形に。俺も受身だからってやるときはやるんだよ。
そしたら、それはそれでいいみたい。何か、いつもと違う。違う位置に当たっているし・・あっそこばっかり責めて、・・って時間は同じなんだ。俺は籠の中の鳥。

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耐えてみろ!(6)

同じクラスの柔道部の奴が先生にずうずうしくも腕相撲などと。
「いいぞ。腕太いな、兼子君。」
え、やるの?えー、俺もしたい。瑞樹は腕相撲を見るために近寄った。というか、慎吾が腕相撲を取っているところを見るために。
「先生、やめなよ。無理だよ。」
「先生、腕相撲強いの?」
「先生、早くしないと次の授業始まっちゃうよ?」
女どもが本当にウルセー。でも、先生、力比べは止めた方がいいよ。
兼子と慎吾は教壇で向かい合って、互いの右腕の肘を置き、右手で握り合った。10人ほどのギャラリーに囲まれている。
「長塚君、君、審判な。」
兼子は不敵な笑いを浮かべ、自信満々な様子で瑞樹を見つめる。瑞樹は両者の拳を手で上から軽く押さえた。なぜか瑞樹の手が一番熱かった。
「レディ・・・ゴー!」
勝負は結構あっけなかった。遊んだりとか焦らしたりすることなく、兼子の腕がその力とは反対の方に押され、驚きの表情と共に倒された。急だったためか、体もバランスを崩して倒れかけた。
「先生、ツエー・・・。」
「また、体調のいい時にやろう、兼子君。」
そう、言い残して、夏季講習テキストを机でトントンと揃えてから、サッと教室から出て行った。
「えー、何、兼子。それはなくない?」
「先生、腕細いくせに、結構やるよね。」
バーカ、兼子。先生は鋼のような肉体しているから、オマエみたいな雑魚に負けるわけがないんだよ。
俺は見たんだ、先生の秘密を知っているんだ。
ゲイ動画の「SHIGOKI」シリーズでメインで出てたのが先生だ。顔が手とかで隠れててはっきり分からないけれど、左腕のサポーターと左足についていた2本のミサンガがそのままなんだよね。
えぇって思って、パーツで確かめてみた。でも、決定的だったのは、薄いピンクのTシャツで、LONDON CITY BOYSって黄色くロゴの入ったものを着てきたときかな。動画では、その後でまくって自慢の腹筋を見せるんだもんね、先生。
俺もめくってみたいな、そして・・と夢想を巡らせていても、そんなことを言う勇気さえなかった。せいぜい、目で脱がせて、全裸の状態で授業をする慎吾の姿を夢想して・・
1週間後、勉強に手がつかなくなった結果、クラス替えテストで下のクラスへの変更を余儀なくされ、女性教師の元で人一倍勉強に励む長塚瑞樹の姿があった。

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耐えてみろ!(5)

「惜しい。これは一つしか入れられないだろ?分詞構文だよ。」
後ろから先生が声をかける。でも、声をかけられたかと思ったら、前の奴に声をかけている。
「うん、そうそう。ん?ここはもうちょっと考えた方がいいな。ヒント。「か」。」
夏期講習。いつもとは違って、見慣れない奴も半分くらい混じっている。先生、前の奴なんて昨日初めて会ったんじゃん?
「おー、正解。やるね。」
先生は右に左にと声をかけながら、生徒のプリントをチェックしていく。
先生、もう俺終わったよ。でも、先生は俺なんか最初から見えていないかのように、他の奴に声をかけている。
「はい、では、だいたい終わったようなので、32ページを開きましょう。仮定法はよく出るので、もう一度確認します。」
うーん、先生はかっこいいね。今日は黒縁メガネをして一段と冴えている。背も高いし、甘いマスクで、うーん、絶対彼女いるよ。
「(3)admitは分詞構文にすると、長塚君。・・長塚君?」
え、え、俺?何、何?
「難しいかな?これは過去分詞だからadmitedだね。次、(4)。」
やっちまったー。下手こいた。先生の前でいいとこ見せられなかったー。
「じゃ、今日はここまで。」
先生が言うのを待って、皆帰り支度をする。夏期講習以前からいる生徒のうち何人かは先生を囲んでいる。
「先生、彼女いるの?先生、いくつ?ねえ、先生。」
ウッセー女だな。俺の先生に軽々しく声かけるな。心にそう念じつつ、ダラダラと分厚いテキストをリュックに入れる。次は数学なので別の教室に行かなければならない。
「先生、腕相撲やろうぜ。」

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とことん付き合って・・いけるか、俺?(3)

昼は丼を食べに行った。海鮮丼。努の食べ方って特殊で、取り分け皿をもらうと、上の刺身の部分をちゃんと同じようにその皿によそって、丼の方をご飯だけにする。で、要するに刺身定食のようにして食べる。
定食にすればいいじゃんと誰でも思うだろうけれど、丼の盛り付け方がきれいなんだとか。
この前、初詣行ったときはもう大変。真ん中でお賽銭を投げようとする。川崎大師なんて相当先から動けない状態なんだけれど、真ん中にこだわるからいつになっても投げられない。いや、俺はいいんだけれど、はぐれそうだし、人混み過ぎて携帯つながらないから仕方なく付き合う。
そして、きっかりとゾロ目が好き。例えば、パンをオーブンで焼く時間、7時開始。家を出る時間、8時ちょうど。必ずそう。おそらく乗る電車も決まっているみたいで、遅れると必ずメールが来る。俺、そんなメールもらっても困るんだが。
シャワー浴びる時間とか寝る時間とか、そういうのは特にない。ない理由は知らない。付き合っていられないので。いや、たぶん俺にあんまり関わり合いなさそうなのを決めているっぽい。俺に配慮しているんじゃなくて、俺がそういうのルーズだと思っているんじゃないかな?
「すべてがfになる」の犀川先生が時報で腕時計を合わせていたけれど、うちはそんなことしない。全部電波時計に入れ替えたからね。全部デジタル。
Tシャツのマークが「555」。色違いで3着持っている。22年2月22日の切符が机の上にある。何気ない封筒にも、よく見ると22年2月22日の消印が。いや、これは言わないよ。俺が気づいたことで。たぶん、俺が知らないところでこれ以外にもいろいろあるんじゃないかな。逆に探している俺の方が気になっている。おお、あったぞ、12345なんだ、自転車のチェーン。それはそれで危なくない?

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ハサミムシ(7)

「お待んたせ。」
悠然と克利はその相手に近づいて行った。
「来いよ、サクッとやろうぜ?」
顎をクイッとしゃくって自転車の置いてある方に行きかける。
「あ、いや、ちょっとしゃべりませんか?そこにドトールあるんで。」
なんだよ、コイツ。ノリ悪いな。そう思いつつも、コーヒー飲んでからヤルのには変わらないわけだからな、と付いていくことにした。
その相手はアイスコーヒーを頼んだので、克利も同じものを頼んだ。15時の店内は結構な人。階段下のちょっと薄暗いスペースが空いていたので、そこに向かい合って腰を下ろした。
克利は席について早々、アイスコーヒーにストローを差して、一気に飲み干した。しかし、相手は気にも留めず、ガムシロップを入れている。
「あの、写真のことなんですけど。」
「はい?」
「あれ、本物ですか?」
明らかにセーターの上から下っ腹が出ているが分かるのに腹筋画像を使っているから、誰だって訝しく思うのは当たり前だが、本人はそんなことを全く意に介していない。
「当たり前だろ?そんなの。脱げば分かるって。」
「そうなんですか?」
相手は無表情で聞き返す。
「なんだ、欲情してんのか?すげえスケベ。俺のテク・・」
コーヒーが無情にも克利の顔面にびっしゃりかかり、驚いた勢いで後ろに椅子ごと倒れた。
それを相手はパシャパシャと写メを撮っている。
何が起こったのか分からず、呆然としている克利に、
「それ、俺の画像だ、バーカ。次やったら殺すぞ。」
顔を足で思いっきり踏まれ、相手は足早に出て行った。あまりの出来事に、あたりはシーンと静まり返った。
その日のうちに、ゲイアプリで不細工な画像つきの、詐欺画像注意投稿があり、ツイッターで拡散されたのだが、克利は知らないままだ。
というのも、投稿してすぐ、克利はブロックされているのだから。

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ハサミムシ(6)

「今日、これからって暇ですか?」
「空いてるよ。やろうぜ。」
「場所ありですか?」
「あるある。来れる?」
「でも、ちょっとうちからじゃ遠いかな?」
「平気平気。意外と思っているほど遠くないって。」
「でも、会う前に顔みたいな。」
「もう、俺のマグナム発射寸前。」
「写メあります?」
「オマエのケツマNに俺の極太マグナムをぶち込んでやるぜ。」
履歴が消えた。ブロックされたのだろう。
「何だよ、コイツ。使えねーな。クソが。」
克利は、気持ちを新たにして、ゲイアプリで次の相手を探し出した。
「165/58/28 ダンサー。今、ジムのトレーナーになるために一生懸命頑張ってます。俺のことを大切に思ってくれる人だけを探しています。」
顔入りの全体写真、後ろ姿の裸写真、ビーチでピースをする写真の3枚が載せてあった。
まあ、そこそこだな。克利はそうつぶやくと、早速メールを出した。
「175/57/28 スジ筋タチ。デカいとよく言われる。かわいいね。会わねー?」
すぐに返信が来た。
「タイプです。カッコいい。どこですか?」
克利はカラダ写真しか掲載していない。腹筋が薄く6パックに割れた画像を2枚載せている。もちろん本人とは似ても似つかない画像で、どこからか拝借したものだ。
身長は175㎝ない。3㎝サバを読んだ。体重も6キロ、年齢も4歳サバを読んでいるが、本人はどこ吹く風だ。それくらいは許容範囲というか、詐称したところで誤魔化せるレベルだと思っている節がある。
それに、詐欺画像だろうが何だろうが、部屋に連れ込んでしまえばこっちのものだ。画像はそれまでの手段に過ぎない。
最寄駅を伝えた。
「今日、会えますか、そこなら30分かからないくらいで行けます。」
「いいぜいいぜ、俺のキャノン砲をぶちかましてやろうか?」
「最寄駅はどこですか?」
「志木駅、東口に出たら連絡寄こせよ。」
なんだ、超淫乱野郎でやがる。やりたくてやりたくてたまんねーんだな。まてよ、ガバマNかもしんねーな。
薄手の桃色のセーターの上からお気に入りの黒くて薄手のジャンバーを羽織り、赤いマフラーをまとって、自転車で駅に向かう。
途中、マツキヨに寄ってテスターのフレグランスを体中に振りまく。お気に入りだからかかなりセーターも着疲れしていて、手首のところは若干脱色気味に変色している。ジャンバーもほつれがかなり目立つようになってきた。長年洗ってもいないので、フレグランスと相俟って得も言われぬ臭いを放つ。
着いたと言うメールが入る。東口を睨むように見ていると、髪を茶色く染め、ジーンズに無地の青いセーターを着た、見た目は22くらいのやんちゃそうなのが立っていた。
写真では色白で髪も耳が隠れるくらい長くて、どっちかというと物静かな感じだったんだが、服装はメールで指示のあったとおりだった。

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夜明け前(5)

金曜日にしては珍しく、夜2時くらいに客がいなくなった。まだ来るかもしれないので、店は開けておいたが、来たとしてもたかが知れていると思うので、明を先に帰すことにした。
「もう、いいわよ。明日も仕事でしょ?」
明は黙々と、多少疲れたスポンジで、コップと平皿を洗っている。
「どう?大分紛れたかしら?それともまだまだ引きずっているの?」
明は答えないで、若干シミのついた布巾でコップを拭く。
「いつまでも溜めこむのって、カラダに良くないわよ。」
「ママ・・。」
コップを置いて、幸子(繰り返すが、本当の名前は智幸)を見つめた。
「ママ、俺、ママのことがずっと好きなんだ!」
「えっ!?」
幸子は思わず、普段は出さない、地の低い声をあげた。
「やだ、あんた、オバサンをからかうもんじゃないわよ。」
「俺じゃダメかな?」
明は幸子の手首を掴んだ。
「俺、ママが・・」
「駄目よ。」
幸子は明の手を払い、カラダを90度ひねって自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた。
「生理なの。」
明は、ちょっと引きつったような顔をしたが、それもすぐ破顔一笑に変わった。
「じゃあ、生理治ったら・・。」
「生理は病気じゃないわよ。」
「ママのは病気だよ。血が出てるんでしょ?」
明は、なんだか久しぶりに笑ったように感じた。笑うことを今まで忘れていたのかもしれない。何か、つかえていたものが取れた感じがした。
「俺が、血を止めてみせるよ。」
幸子は幸子で、逆に脳の血管が切れそうだった。こめかみに青筋が立っていないか不安なくらいだ。
二人は見つめ合って、そしてどちらともなく抱き合った。明は幸子の厚い胸に顔をうずめた。幸子は、ルージュのマニキュアを塗ったごつい手で、明の頭をなでた。いつまでも、いつまでも。

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夜明け前(4)

明は、昼は池袋の某百貨店でアパレル勤務をしているため、アルバイトをすると言ってもそう長い時間いられない。
シフトで木金休みなので、金曜日は早く来るようにしている。週末はさすがに客が多く、10時以降になると満席になる。
明は元々寡黙な性格で、しかも人見知りなので、こうした客相手の商売には不向きである。それは自分でも重々承知している。
客から「明美ちゃん、今日もかわいいね。」とか言われても、顔を赤くして黙ってうつむいてしまう。
すかさずママが「何、うちの秘蔵っ子に手出してんのよ。高くつくわよ!」と間髪入れずに返すのが常だった。
ゲイバーの喧騒とは裏腹に、黙々と酒を作って出し、皿やコップを洗っている。しゃべりは専らママの役目。けれど、店に来るオヤジたちは、やっぱりイケメンの若い明を放っておくわけがない。なんとか話の糸口をつかもうと、いろいろ話しかけてくる。
ママに明のことを聞き出そうとする客も多い。ただ、ママは「そんなの、明美ちゃんに直接聞けばいいじゃない。」と冷たくあしらう。
ママも明の気持ちがよく分からないのだった。口下手なのにここで働いているのは、ひょっとしたら前の彼氏が訪れるのを待っているのかもしれない。
前の彼氏は浮気性で、ママが知っているだけでも常時2,3人はスペアがいた。明は一途だったが、彼氏の方はそのうちの一人程度にしか思っていなかったようで、明が不実を責めると、今までの熱々な関係は何だったのかと思うくらい、あっけなく別れて次の男に乗り換えた。
端的に言うと捨てられたのだ。あくまで都合のいい男であって、面倒なことが起こればもう用済みだった。ただ、明はその男に身も心も捧げていたから、急に別れると言われても心がついて行かなかった。


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夜明け前(3)

そんなことが2週間くらい続き、さすがに幸子が声をかけた。
「まだ、引きずってんの?」
明は無言で頷いた。
「もう、忘れなさいよ。あんな男だったらいくらでもいるわよ。」
「いないよ。」
溜息をつき、2杯目の生ビールを追加で頼んだ。
「あんたさ、まだ若いんだから、何とでもなるわよ。」
「もういいんだ。」
「じゃあさ、あんた、ちょっとここで働いてみなさいよ。」
明は顔を上げて、幸子を見つめた。どこで買ってきたのか、色黒のカラダに不釣り合いなチャイナドレスで紫のアイシャドーと紫の口紅、そこから発せられる言葉に明は息を呑んだ。
「別に好きな時間でいいから。そうやってグジグジグジグジと飲んでいるよりかわさ、気が少しは晴れるわよ。」
「お願いします。」
明は反射的に答えた。きっとカラダが渇望していたのかもしれなかった。声をかけてくれる人を。自分を理解してくれなくてもいいから、癒してくれる人を。
仕事帰り、明は早速「幸」を訪ねた。
「あら、来たのね。」
幸子は明らかにサイズがあっていないチャイナドレスに着替えているところだった。
「よろしくお願いします。」
明は帽子を取って、深々と頭を下げた。
「あんたも着る?」
幸子は紫のスパンコールの服を手に取ったが、さすがに断った。

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夜明け前(2)

いつも明は一人で訪れ、生ビールを1杯と、幸子が作るつまみを食べて、30分ほどで帰る、そんな感じで週に2,3回は顔を見せていた。
そもそもは年が一回り離れた、カラダのガッチリしていて背の高い元ラガーマンの彼氏と二人で来ていた。よく幸子と3人でワイワイ騒いで、終電間際に仲良く二人で帰っていた。
けれど、きっと別れたのだろう。それに話しかけても全然しゃべらず、ただ黙々と生ビールを飲んで、すっと立ち上がって帰っていく姿が、見ていて痛々しかった。
別れた彼氏のことが忘れられなくて、そのことを想い出しつつ飲んでいるのか、それともまた元彼が来るかもしれないと待っているのか、いずれにせよ、意気消沈ぶりが甚だしく、とても聞ける雰囲気ではなかった。

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夜明け前(1)

18時、まだ外は明るい。店のドアの前にセミが死んでいた。 「もう、セミ、嫌いなんだよな。」 蹴ると、セミが余力を振り絞って鈍い声を出しながらUターンしてきた。明はセミが入らないように気をつけながら、店に入った。 明がここ、東上野のゲイバーに勤め出したのは10日前のことだ。ゲイバーでは「明美」という名で働いていたが、別にニューハーフでも女装しているわけでもなんでもない。 よく、友達とかには風間俊介に似ていると言われてきたが、ここ上野ではV6の三宅健に似ていると、客の何人かから言われた。そろそろ小じわが出てきたからかな、と自己分析している。 明は既に31歳、店のママ、幸子(本当の名前は智幸)より5つも上だ。 元々は明はこのゲイバー、「幸」の常連客だった。上野という土地柄、客層は若くても40代で、もうヨボヨボのおじいちゃんのような客まで来るのだが、その中でも明は目立って若かった。31とはいえ、見た目は20代、どちらかというと、ママよりも年下にさえ見えた。
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そんなに仕事が大事?(3)

「ねえ、俺って一体何なの?何だったの?今まで、信君にとって、俺って何?」
「答えてよ、仕事って何?仕事が一番なんだ?俺じゃなくて、仕事なんだ。俺ってただ、信君のお荷物なんだ。」
「ねえ、何とか言ってよ、本当に?もう、俺、バカみたい。今までの時間、返してよ。失った時間、返してよ。」

「あはははははっ、あはっあははははははっ。」
統括課長はもう何も言わずに、口を半開きにして、信明の、半狂乱になって、殺虫剤をかけられたゴキブリのように、仰向けになって手足をバタバタさせて、目を大きく見開いたまま笑い続けている様子を見続けていた。絨毯には、失禁してズボンから染み出た尿が染みて、真紅のシミを作っていた。

「バカ、バカぁぁぁ!」
信明の耳の中で、1年前の光景が、ずっと反響していた。
耳の中にセミが数十匹いるかのような大音量で繰り返し、繰り返し止むことなく叫び続けられた。
半裸の状態で、力いっぱいかき毟った跡がミミズ腫れになっていたが、信明はなおも嗤っていた。
1年前と同じように。
統括課長は棒立ちで、終わることなく嗤い続ける信明を見つめていた。もはやかけるべき言葉も見つからなかった。

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