2017年07月14日

耐えてみろ!(8)

近い、とは言いつつも郊外にある大学なので、そもそも周囲に家など殆どない。崇の家もどちらかというと駅の近くで、歩いて15分ほどかかるところにあった。パチンコやゲームセンター、居酒屋が立ち並ぶ通りの脇道を入ってすぐの木造2階建ての奥の、日当たりも良くないし、築数十年経ったかと思われる、かなり老朽化したアパートだった。
「どうぞ、むさ苦しいところだけれど。」
何もない部屋ではあったが、畳は日焼け跡が残りかなりささくれ立ち、カーテンも備え付けなのかところどころ汚れや破れが目立っていた。何よりも、15時だというのに西日が当たって真夏に1時間駐車した後に車のドアを開けたときのような、こちらに熱波が押し寄せてくるかのような暑さだ。
「エアコンなくて、扇風機なんです。」
どこからか拾ってきたかのような年季の入った小型扇風機が音を立てて回りだした。ただ、熱気がかき回されてサウナの中にいるかのようだ。
「麦茶、飲む?」
灰色の煎餅座布団に座り、キリンビールと書かれた小さなコップに注がれた麦茶が、テーブルというよりちゃぶ台といった感じの茶色いテーブルに乗せられた。テーブルだろうか、それともこのアパートだろうか、何か床がフラットではない感じがする。
何でこんなところに住んでいるのか、聞きたいけれど、きっと聞いてはいけない何かがあるのだろう。部屋全体は古びているが、全てがきれいに整理整頓されていて、ほこりどころか磨きがかっていてツヤツヤしている。しかし、暑いなんてものではなく、じっとしていても汗が滴り落ちて、畳へと吸い込まれる。
「ごめん、暑いでしょ?気を使わないで。」
崇は着ていた大学の名の入ったTシャツを脱いだ。色白で細い印象だったが、脱ぐと体脂肪がほぼないのではないかというくらい、筋繊維一つ一つがちょっとした動きでも浮き出て見える。脱いだTシャツはまた着るのだろうか、金属製の細いハンガーを強い日差しが差し込む窓のカーテンレールにかけた。
「かけるよ、脱いで。」
崇が慎吾の肩を軽くつまむようにつかんだので、慎吾もTシャツを脱いだ。崇は座布団を取って、向かい側に座り、麦茶を一気に飲み干した。
「どこを鍛えたいの?」
「いや、どこをっていうのは特に決めていないんです。全体的に、バランスのいいカラダをキープできればいいなって感じで。」
「バランスかぁ。左利き?」
「何でですか?」
「バランスでいうと、筋肉の付き方が左側が若干太い感じがするかな。」
崇は慎吾の両手首を握って見比べる。
「一回りくらい太いっしょ?」
うん、そういわれてみると、確かに左手首の方が太い。そんなことを今までほとんど気にしたこともなかった。
「その影響が体幹に影響しているんだよね。ちょっと仰向けになってもらっていい?」
日に照らされて熱くなった畳に仰向けに寝る。そして、指で横腹を思いっきり押し出した。
「痛い、痛い。」
「痛い?ここは?」
ものすごい力で、ピンポイントで押される。筋肉の鎧で覆い固められたかのように複雑な形状をなしている腹の辺りを、指一本の力でものすごく深いところまで押していく。
「あぁぁぁ。」
「気づかないうちに歪みが蓄積されているんだよ。その歪みをカバーしようとして筋肉がついているからバランスが取れているようで均等でないつき方をしているんだよね。」
「・・・。」
恥ずかしいことに、このやり取りで下腹部に硬直が始まり、グレーのスウェットにくっきりと、まっすぐな鉄棒を入れているかのように現れた。


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toppoi01 at 08:00|PermalinkComments(0)耐えてみろ!Ⅳ 

2017年07月13日

耐えてみろ!(7)

慎吾は、いつものように大学のフィットネスルームでウェイトをしていた。
慎吾の行っている大学のフィットネスルームは、市の施設と違ってマシンが新しくて充実しているし、使用料も学生であればかからず、何よりも日中は人が殆どいないので、慎吾は週に3,4回は利用していた。
トレーナーも学生を雇用していたが、トレーニングの方法やメニューなど、同じ学生ということもあって親身に相談に乗ってくれて、結構打ち解けて話すようになった。中でもいつもいるトレーナー、崇は体育会系のボクシング部に入っていたが、どちらかというとマネージャー的役割をしているそうで、ボクシングも試合をこなしたり観たりというよりは、シェイプアップのために続けているそうだ。
そのためか、他のトレーナー(といっても、皆、学生だが。)とは違ってマシンの効果的な使い方とかどこをどうやって鍛えたらいいかといったことに異様に詳しかった。信吾はどちらかというと空いた時間の暇つぶし程度に通っていたのだが、トレーナーの崇の言葉に影響され、いつしかのめり込んでいった。
慎吾から誘うということ自体が珍しいのだが、もっといろいろ聞きたいと思って、カフェテリアでコーヒーでもと誘ってみた。しかし、崇はコーヒーは体に悪いから、と断った。まあ、向こうにとって見たら、コーヒー飲みながら金にならない鍛え方の相談されるのもうんざりだよな。いくらなんでも自己中心的な誘いだったと、さすがに気まずい空気が流れた。
「今日、空いていますか?うち、近くだから。」
家?
「借りてるんです。」
むしろ、急な申し出に慎吾の方がちょっと戸惑ったが、この後は授業がないしと思って行って見ることにした。

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toppoi01 at 08:57|PermalinkComments(0)耐えてみろ!Ⅳ 

2017年07月11日

雑記帳(2017/07/11)

10日以上更新していないですが、一応見てくれている人もいるんですね。終わってからもアクセスが結構あるんで、ちょっと意外でした。「堕ちるところまで堕ちて」を加筆してます。もっと「堕ちる」のかどうかは構想中ですけどね。経過の部分を書いてます。人の小説ブログも見たりしています。ま、やっぱり人によってタッチが違うのは当然ですね。俺のなんてまどろっこしいなってきっと思われているんじゃないかと思うんです。ま、俺の全くの妄想を書いているだけなんでね・・。

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toppoi01 at 19:36|PermalinkComments(0)雑記帳 

2017年06月26日

終わりの見えないデスマッチ(42)

いつの間にか10秒が経ち、俺は終わった。周囲は静まっていて、大の字になってリング上に俺一人が倒れていた。そっか、もう終わったのか。起き上がろうとすると、俺の腹の上には大量の卵の白身のようなゾル状の液体が出されていて、深く刻まれた腹筋をあみだくじのように分かれて伝い、まるで一つの大きな流れとなってリング上に滴り落ち、液溜まりを作っていた。俺の下腹部は、まだまだ責め苛まれた余韻を残して鈍痛を伴っていたが、試合に負けたとは思えないような猛々しい容貌をし、ビクついていた。まだいけるぞという、ファイティングポーズを取っているようにも見えた。まだまだ終われないな。俺は実質は勝ったんだ。手をついてゆっくり立ち上がる。智哉もリベンジを挑んでくるだろう。俺に新たな確固たる目標ができた瞬間だった。股からいかにも重そうにぶらさがったモノもそれに応えるかのように身震いし、まるで獲物を探しているかのように先から透明な液を垂らしていた。

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2017年06月25日

終わりの見えないデスマッチ(41)

正気に徐々に戻っていくと、目の前に智哉の顔があった。とても冷静で乾いた目で俺を見つめていた。「これで最後だ、弘さん、参ったと言えよ。」腫れて一回りも二回りも大きくなった玉を優しく手で包み、揉み解し、まるでさっきの行為が嘘のように、打って変わっていたわっているかのような態度だった。そして、グッと近づいて、真剣な目で諭すように言った。「本当に最後だ、参ったと言え。」そんなに俺に勝ちたいのか。けれど、俺のプライドが許さなかった。「言わねえよ。」すると、智哉は俺をロープから荒々しく外し、そして俺の両足を掴んで、うぉぉぉと雄叫びをあげ、そして全体重をかけてかかとから股間めがけて振り下ろした。スローモーションでも見るかのようにゆっくりと金的へと振り下ろされる瞬間まで一コマ一コマが明確に見えた。それから、いきなりテレビのコンセントを抜いたかのように目の前が一瞬ピカッと強い光で煌めいた。リング上でカラダが、油の中に生きた蝦を投入したかのように、一瞬跳ね上がった。そして目の中で火花が飛び散り落ちた後、プツッと記憶が途切れた。

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2017年06月24日

終わりの見えないデスマッチ(40)

智哉は真剣な眼差しで弘一の顔を見つめ、一呼吸おいてから、「いくぞ。」と念を押すように言い、何かに取り憑かれたかのように顔を紅潮させて目を見開いて歯を食いしばり、万力のように徐々に手に力を込めていった。その力は半端ではなかった。「ギヤァァァァァ!!!」俺は生まれて初めて、腹の奥底から雄叫びのような声を出した。意識的に出しているのではなく、本能から勝手に声が出ていた。智哉からは今までも急所への攻撃を喰らったことはあったが、こんなに長時間にわたり苛まれたことはなかった。「ガアァァァアア!!!」体中の血の気が引いて、全身に悪寒が走った。全身の筋肉という筋肉がその痛みに抗うかのように脈動していた。汗だけが、その痛みの元凶の方向へと伝っていった。全く逃げ場のない俺の玉は、防御力ゼロの状態で、ただ智哉の押しつぶさんばかりの握力に辛抱強く耐えるだけだった。ケツから生きながら鋭い刃で串刺しにされたかのような、猛烈な痛みが全身を稲妻のように襲った。「ヒヤァァァァ!!!」どれくらいの時が経ったか、天井を見て目を見開いて口を開け、ヨダレを垂らしたまま、もう声が出なくなっていた。体中が痙攣をおこし、汗は脂汗のような粘着質なものに変わり、噴出してカラダをコーティングした。大理石のような純白なカラダだったが、全身がうっすら紅潮し、反面先ほど執拗に責められた腹だけが特に、隕石が次から次へとぶつかってクレーターを作ったかのように、まだら模様の青緑色に変色していた。

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2017年06月23日

終わりの見えないデスマッチ(39)

年下なのにぞんざいな口の利き方だ。ただ、声を出そうとしても腹に受けたダメージでなかなか口に出てこない。さすがに鋼のように鍛えた腹筋を以てしても、こんなにも一つ一つが重いパンチを喰らうのは堪えた。「お前、誰に口聞いてんだ?言う訳ないだろ?」息を整えて何とか振り絞るように言うと、「後悔するぞ。」智哉は、そう言い放ち、その後ろにふてぶてしく垂れ下がった2つの玉を無慈悲に握りしめた。「参ったと言え。」これから行われる行為が確実に効果的に行われる準備をするかのように、二つの玉を逃がさないよう、その小さな手の平では持て余し気味のそれの位置を確かめている。この先のことを考え、恐怖で呼吸がまた荒くなってきた。あまりにも救いようがなく絶望的な状況だが、智哉の目を見据えて言った。「いいから、やれよ。」智哉は、弘一の悲壮なる決意を聞くと、軽く微笑んだ。

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2017年06月22日

終わりの見えないデスマッチ(38)

しばらくして何とか目の焦点が合い始めてきた。リングの端で俺は寄りかかっていた。介抱されているのかと思ったが、違う、ロープで俺の腕が引っかけられているのだった。そして、目の前には智哉が立っていた。ダウンは取られていなかったようだ。智哉の顔がちょっと笑ったように見えた。途端、急に腹を抉るような痛みがして夢見心地から現実に引き戻された。鍛え抜かれているとはいえ、弛緩した腹への一撃は堪えた。そして、俺をサンドバックのように、智哉は腹に拳を打ち付ける。その一つ一つが俺の腹に楔のようにめり込み、波動状の衝撃が湿っぽく緩慢に、しかも休息する間もなく次々と襲ってくる。足が思うように動かないためにロープから腕を外せない。ロープにもたれかかり、一つ一つが全て力のこもったパンチを腹で受けた。俺も歯を食いしばってこらえるが、そろそろ限界だ。足が痙攣したかのようにガクガク小刻みに震え出した。すると、智哉は俺のその無防備に垂れ下がり揺れ動くバカでかいウインナーのようなモノを握り、乱雑に扱いて、若干大きめの声で言った。「おい、どうだ?弘さん、参ったといえば許すぜ。」

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2017年06月21日

終わりの見えないデスマッチ(37)

試合開始のコングがなると、智哉は軽快なステップでこっちに向かってきて、積極的に回し蹴りやフックを繰り出してくる。もちろん全然届かないが、距離を取るためでもあるし、デモストレーションの意味もあるのだろう。智哉の回し蹴りは初めて見たが、かなり速いし安定している。しかし、俺の間合いに踏み込まなければ当たらないことくらいは分かっているだろう。俺も応えて、蹴りを入れていく。ハイキックは踏み込まれる怖れが高いから、ミドルで様子を見る。ただ、どれも腕でブロックされている。右でフックを入れると避けずに踏み込んできた。やはり腕でガードする。ボクシングの技術のようだ。前蹴りで距離を取り、もう一度左フックを入れても、やはり腕でガード。カラダの軸も安定していて倒れない。智哉がずっと俺の垂れ下がるモノを見ていることが分かっている。金的のチャンスを虎視眈々と狙っているのだ。また意味もなく蹴りを放つ。俺から踏み込んで智哉の顔面を狙ったが、ガードされて、同時に智哉のストレートが俺の腹に当たる。中ぐらいの石が腹にめり込んだような感覚だ。距離を置いて蹴りを放ったが、若干バランスを崩したところを智哉の拳が俺の右脇腹にヒットする。そして、俺が渾身の力で顔を狙っていったところを避けられて、顎の辺りにアッパーを喰らい、天井のまばゆいばかりの灯りを見た後、フラッシュのように瞬いて、視界が揺らいだなと思うと足から崩れ落ちた。目眩でしばらく立てなかったが、その間に腕を抱えられてリングを引きずられていった。

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2017年06月20日

雑記帳(2017/06/20)

「終わりの見えないデスマッチ」も、ようやく終わりが近づきましたね。一応、終わったと言いつつ書き足してます。なんかね、書き急いで雑なところも目立つので。他の話もそうですけどね。説明が多いとまどろっこしいっていうのもあるんですけど、この辺はメリハリをつけているつもりなんですね。背景としての説明は結構前からしておこうと思って。の割に、最初の頃はストーリーの行方が定まっていないから、結局微調整をする羽目になるんですが。あと、登場人物が他の話と被って出てくることについて、別にスピンオフとか勿体ないからとかで出しているわけではないです。ゲイの世界は狭いんだということを暗に言いたいんですけどね。パラレルワールドのようで実は絡み合ったりくっついたりしてつながっているんだと。これ以降は短編小説が続きます。

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toppoi01 at 00:56|PermalinkComments(0)雑記帳 

2017年06月19日

終わりの見えないデスマッチ(36)

携帯でそろそろということを知らされ、ロッカールームで服を脱いだ。鏡を見ると、この前のマッチョ男と試合で受けた左腕の上腕二頭筋から肩にかけた箇所が青く内出血のように痣になっていた。そんな痛みも今まで感じなかったのに。そういえば、左腕を上に持ち上げる動作に最近力が入らない。肩から上に上げようとすると違和感がある。カラダのパーツが知らず知らずに悲鳴を上げている。考えてみれば、いろいろ負担をかけるようなことをしてきた。いろいろガタが来ているのかもしれない。智哉は一向に現れないと思っていたら、リング上に既にいた。VIP席から上がったようだ。吸い寄せられるように俺もそこへ向かった。コングが鳴る。こうしてギャラリーがいる前で広いリングで対戦するのはもちろん初めてだが、智哉の成長をずっと見守ってきたのは俺だ、俺が智哉の弱点を一番よく知っている。実践は俺の方がよっぽど積んでいる。ただ、俺は今までリング上で金的を喰らったことは殆どない。長いリーチと懐の深さを活かしていることと、俺のモノは撒餌のようなもので、金的狙いに来た奴はだいたい膝蹴りか右フックを喰らうことになる。自分の急所くらい守れないようではファイターとは言えない。ただ、智哉はそれをすり抜けて狙ってくる。俺に勝つには金的しかないだろうから、そこだけは注意していなければならない。
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2017年06月18日

終わりの見えないデスマッチ(35)

憂鬱な気分でまた試合を迎えた。ただ、チラシを見て、そんな気分は吹き飛んだ。智哉、俺の相手が智哉だ。髪型がオールバックになっていて精悍な顔立ちになったが・・あれから5か月、久しぶりに見る智哉に全身に電気が走ったかのような刺激が走った。どこにいるのだろうか、控室を見てもその附近にも姿は見えない。しかし、リングの方を見ると、その前列でサングラスをかけた男と談笑している黒いTシャツを着た男が、まさしく智哉だった。相手は黒いスーツを着ていて、リクライニングされた椅子席、VIP席と呼ばれているエリアに座っている。試合が始まったが、智哉と黒スーツの男が何をしゃべっているのかが気になって、全然試合を見ていなかった。オッズは7.1対1で俺が勝つ予想になっている。デビュー戦だし、俺の方が実績があるし、当然といえば当然だ。タバコを吸うが、緊張でタバコを階下に落としてしまった。手が知らずして震えていた。対戦慣れしている相手であるし、場数を踏んでいるのに、これほど緊張するのはデビュー戦以来かもしれない、そう思うとお互いがデビュー戦のようなものか、しかし、智哉は終始何か話しかけていて、試合がこれからあるなんていう様子を感じさせなかった。気を落ち着かせようと外に出た。やはり港から見る海は今日も変わらず黒く、そして月明かりに照らされた波の尖端部だけが白く輝き揺らめいていた。

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2017年06月17日

終わりの見えないデスマッチ(34)

智哉とは最近ご無沙汰だ。声をかけるけれど、高校を辞めてからバイトをしているが、そっちが忙しいんだとか。ジムのサンドバック相手に蹴りを打ち込む。ズバッと重い音が響き、脛にその振動が伝わるが、めり込み方がやはり人とは違うし、その蹴ったリアクションも分からない。無機質な相手に、規則的に打ち込んでいく。人がサンドバックのようにいつも同じところにいるわけではないし、ずっと不死身で倒れないなんてこともない。何をしても、ずっとそこに何もなかったかのように存在するだけだ。智哉は俺に飽きたのか、と思うと、不意に涙が頬を伝った。それを紛らすかのように、ほぼ垂直まで傾かせた腹筋台にぶら下がる。シャツがめくれて研ぎ澄まされたシックスパックが露わになった。周囲の目が弘一に注がれるが、何事もないかのように、また黙々とメニューをこなす。ただ、何か遣り甲斐のようなものを急に失った、喪失感に襲われていた。脳裏では、黒々として水平線のかなたまでずっと広がった底知れない海の情景を思い浮かべていた。果てしなく拡がり、とらえどころのなく光さえも届かないような深い闇のような海を。

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2017年06月16日

終わりの見えないデスマッチ(33)

相手は拳同士を腹のあたりで打ち合い、気合を入れているようだ。大胸筋が連動して波打っている。余計エキサイトさせたようだ。窮鼠猫を噛むというが、手負いの熊だったらどれほど危険なのだろうか。普段だったら勝ち急いでいたが、心の余裕というよりはぽっかり空いた空虚さが判断ミスを犯し、相手に休息とチャンスを与えたのだ。会場は野次の嵐だ。試合を観に来たのではなく、皆、賭けをしに来たのだから。しかし、相手はやはり平静さを失っていた。繰り出す技が単調で、雑で正確さを欠いていた。獲物をしとめようとする気持ちが先走って、一発逆転のラッキーを狙っているかのようだったので、俺は足を使ってそれをかわしていった。それに、急所を守ろうとして自然と腰が引けていた。顔にフックが面白いように当たる。次第に動きも鈍くなっていく。目が腫れてきたから、視界が悪くなってきたこともあるだろう。筋肉野郎が自分でよろけて倒れたら、急に手を股間に持っていく。急所攻撃がよっぽど怖いらしい。狙い甲斐がないや、そんな小さいの。俺は薄笑いを浮かべつつ顔をサッカーキックした。意識がなくなったのか、それっきり筋肉野郎はほぼ動かず、10秒が経過して勝利を得た。

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2017年06月15日

終わりの見えないデスマッチ(32)

「うぐぅぅぅっ。」筋肉で身を固めたようなタイプの男は前にも対戦したことがあるが、大体が見事な筋肉に反比例してお粗末様なモノを、ぶら下げていると言うよりも付けているとでも言った方が適切かもしれない。筋肉をまとっている男は頭が悪いというのは俗説かもしれないが、モノが小さいと言うのは栄養摂取が筋肉基準で考えられているからあながち間違いのではないのかもしれない。ただ、大きかろうが小さかろうが関係なく、効果は絶大のようだ。勢い余って仰向けに倒れていったところを、その流れで膝に全体重をかけてそのまま落とし、更にその小さな股間を打ちのめした。「きゃぁぁぁ。」と、女の金切り声のようなみっともなく甲高い悲鳴を上げた。血まみれの口を大きく開けて、目は上方を剥いて泡でも噴くのかというような感じで、酸欠のフナのように口をパクパクさせている。だから何のための筋肉なんだよって呆れてちょっと藁けてきた。面白いので、コーナーに戻って回復を待ってみることにした。奴はカラダを起こして、肩を激しく上下させて呼吸を整えていた。鼻に指を当てて、鼻血の塊を出す。その辺りがどうも場慣れしている印象を受けた。

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2017年06月14日

終わりの見えないデスマッチ(31)

相手は来いと手招きをしている。手馴れた感じだ。相手をしてやるぞといわんばかりの挑発。蹴りで腿あたりを蹴り、様子を窺う。全く効いていない。でも、長期戦は不利だろうな。向こうが右のパンチを繰り出してきたのと同時に、コンビネーションで蹴りを放った。リーチの長い俺の方が一瞬速かった。腕で防いだけれど、腕の筋肉が押しつぶされる衝撃を受けた。こんな化け物のような腕をしたパンチなど喰らったら、顎の骨が砕けてしまうかと思ったが、こういう場で試合したことがなかったのだろう、俺の蹴りは急所に的確に入っていた。こんなこれ以上筋肉が発達しようもないくらい鍛え上げたマッチョマンでも、金的を喰らえば猫のように大人しくなるのだから面白いもんだ。両手で急所を押さえたまま屈み込んでしまい、吐き気を催しているようで口をつぼめていた。一瞬で戦意を喪失した相手のハードジェルで固めた髪を掴み、膝で顔を何回も何回も蹴っていく。歯に当たって膝が痛むが、それに耐えつつ打ち込んだ。低めの鼻から出血し出し、弘一の膝を汚した。鼻血を抑えようとして手が鼻へといったところで、またも股間に蹴りを食らわす。

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2017年06月13日

終わりの見えないデスマッチ(30)

今日の試合はまさしく人間と言うよりはゴリラでも相手をしているかのような、ひどい組み合わせだった。プロとは言わないが、レスラーのように筋肉で覆い尽くされたカラダで、体重にすれば俺の1.5倍はあるのではないかと思われる男だった。オッズもさすがに今までにないくらいな開きになった。俺はどこか頭が朧気というか、何かガラスの破片が脳の深くに刺さったような、妙な感覚だった。試合に勝ちたいといった欲がなかった。むしろ他の人が試合をしているのを遠くで見ているかのような、客観的というか他人事のような感じで試合に臨んだ。試合が始まったが、相手には余裕がありありと感じられた。どんな衝撃も吸収してしまうだろう胸の厚み、俺の脚よりも太いと思われる胸、腹も筋肉でプロテクトされているようにどの部分も隙間なく囲われている感じだった。首から肩にかけても、こんなところまで鍛えられるのかと言うくらい筋肉が付いていて、足も棍棒なのかと言うくらいの膨れぶりだ。一撃を喰らえば致命傷なのだろうし、明らかに俺の攻撃を待っていた。掴まれても終わりだ。
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2017年06月12日

終わりの見えないデスマッチ(29)

また、智哉とスパーリングだ。日に日に智哉は、目の奥に獣が潜んでいると言うか、凄みを帯びてきた。カラダもあのスポーツをやっていて自然とついた筋肉から、脂肪を削ぎ落として筋量がそこから染み上がってきたかのような、俺のカラダと同じくらいの体脂肪量でありながら、胸の谷間の部分から腹にかけて深く刻まれる溝が顕著で、俺と似ていて否なるものを見にまとってきた。最初の頃は、かかってくる智哉を横に転がしたり、跳ね飛ばしたり、力の差が歴然として子供を相手にしているような感じだったのが、今では力は互角かもしれないがスピードはついていけなくなった。そして、寸止めをするようになったし、勢い余って当たってしまったら「ごめんなさい。」と逆に言うようになった。手加減をされているようにも思えたが、智哉はそれを否定した。以前のような、やったらやり返すと言ったような刺々しさはなくなり、互いが計算めいた、いや、智哉の目の奥にはもっとつかみどころのない何か得体の知れない怪物が隠されているかのようだった。

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2017年06月11日

終わりの見えないデスマッチ(28)

「そろそろです。」事務的な電話だった。智哉には結局このことは言わなかった。試合前には会わないようにしているが、きっとどこかで見ているのだろう。ロッカーで着替え、リングに向かうと、既に相手はリングにいた。二人とも俺と同じくらいの長身だ。奥目の方の右目は義眼のようだし、南米人の顔立ちの男も前歯が3本くらい欠損していた。コングが鳴った。義眼の奴は早くも後ろに回りこんでいる。もう一方は隙っ歯を覗かせてニヤリと醜悪な笑みを浮かべると、何かペットボトルのキャップのようなものを咥えたようだった。こっちから仕掛けた。その隙っ歯に蹴りを入れようとしたが、これはかわされた。しかし、フェイントで回し蹴りを行った。後ろは見えていなかったが、ふくらはぎの辺りがヒットしたようで、倒れる音がした。そして向かい合う。仰け反って蹴りを放ったのが良かった。相手の顔面を掠ったが、その際に霧状のものを噴き出して、その青い器具が口から跳び出した。若干目が染みたところから、目潰しのための噴霧剤だったのかもしれない。予想外のことに戸惑い、額に深い皺を浮かべてこちらを見るが、既にもう一度、今度はしっかりと重心を保った蹴りを放っていて、防ぐ間もなく後頭部を直撃し、前から倒れていった。ダウンだ。よし、と思ったが、その間に義眼はカラダを起こしていて、すぐに俺を羽交い絞めにした。しかし、俺の腕が長いというのが計算外だったようだ。義眼の下にぶら下がるモノを探り当てるのは容易だった。握り緊めていくと義眼は両手で俺の手首を掴んだ。顎の辺りを目掛けて殴ると、そのまままた倒れた。そして、隙っ歯の方は幸いなことにダウンしたまま起き上がってこなかった。ダウンを取る時間が長く感じたが、10秒が経過し、懸念とは裏腹に勝利を得たのであった。

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2017年06月10日

終わりの見えないデスマッチ(27)

「そろそろです。」事務的な電話だった。智哉には結局このことは言わなかった。試合前には会わないようにしているが、きっとどこかで見ているのだろう。ロッカーで着替え、リングに向かうと、既に相手はリングにいた。二人とも俺と同じくらいの長身だ。奥目の方の右目は義眼のようだし、南米人の顔立ちの男も前歯が3本くらい欠損していた。コングが鳴った。義眼の奴は早くも後ろに回りこんでいる。もう一方は隙っ歯を覗かせてニヤリと醜悪な笑みを浮かべると、何かペットボトルのキャップのようなものを咥えたようだった。こっちから仕掛けた。その隙っ歯に蹴りを入れようとしたが、これはかわされた。しかし、フェイントで回し蹴りを行った。後ろは見えていなかったが、ふくらはぎの辺りがヒットしたようで、倒れる音がした。そして向かい合う。仰け反って蹴りを放ったのが良かった。相手の顔面を掠ったが、その際に霧状のものを噴き出して、その青い器具が口から跳び出した。若干目が染みたところから、目潰しのための噴霧剤だったのかもしれない。予想外のことに戸惑い、額に深い皺を浮かべてこちらを見るが、既にもう一度、今度はしっかりと重心を保った蹴りを放っていて、防ぐ間もなく後頭部を直撃し、前から倒れていった。ダウンだ。よし、と思ったが、その間に義眼はカラダを起こしていて、すぐに俺を羽交い絞めにした。しかし、俺の腕が長いというのが計算外だったようだ。義眼の下にぶら下がるモノを探り当てるのは容易だった。握り緊めていくと義眼は両手で俺の手首を掴んだ。顎の辺りを目掛けて殴ると、そのまままた倒れた。そして、隙っ歯の方は幸いなことにダウンしたまま起き上がってこなかった。ダウンを取る時間が長く感じたが、10秒が経過し、懸念とは裏腹に勝利を得たのであった。
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