2023年05月17日
だって夏じゃない(11)
「どうした?」
普段あまり感情を表さない木偶の坊が珍しく顔を紅潮させていたので、出っ歯が木偶の坊に聞くと、
「殴られた。でも、俺は殴ってない。」
「なんだ、お前も焼き入れたいのか。そうだよな、殴られたんはお前だもんな。でも、顔はやめとけよ。」
と、木偶の坊は自分が履いていた靴を脱いで右手で持った。
「兄貴、すみませんが、奴の片足、持ち上げてもらってもいいっすか?」
「足、足ってこうか?」
淳平が片足だけ地面についた形になると、そして、一物を左手で握って上に上げると、その奥に垂れ下がっているものを靴の踵部分で叩きつけた。
「がはぁっ」
思いっきり革靴の裏で叩かれて、内臓がギュッと締め付けられる感じがした。肺も胃も収縮して、恰も内臓が口から出るのではないかという感じだった。二つの玉がキュッと上に上がっていった。爛れて傷ついた一物を雑に握られている痛さとは全く別で、何だか体の内部が得体のしれない何かに締め付けられている錯覚に陥った。
「タンマタンマタンマタンマ」
という声で木偶の坊は動きをピタッと止めた。
「ムリムリムリムリ、本当、ムリ。」
半泣きになって首を大げさに横に振って淳平は訴えた。
「バカだなぁ、兄ちゃん。そんなことを言っているうちはまだまだ平気ってもんだよ。なぁ。」
と出っ歯は木偶の坊をチラッと見た。木偶の坊は前に自身がやられた折檻の記憶が甦ったのか、軽く身震いをした。自身もかつて革靴の裏を使って、おそらくは何かされたのだろう。
「もういいんか?この前殴られて鼻血えらく出てたんけども。」
直近の記憶を蘇らせると、またも靴の踵を使って垂れ下がったモノを殴りだした。靴の踵はよく見ると、いざというときに凶器になるようになのかビスを埋め込んであった。
「あがぁぁ、ぐあぁぁ!!」
打たれる場所は違っても、何だかまるでボディブローでも食らっているかのような、臓物へのダメージが蓄積されていくような嫌な痛みが徐々に増していってくる。最早耐え切れず、手錠がなければ体を支えていることなんてできないだろう。
「これくらいにしといたらぁ、けどな、次はこんなんじゃすまさねえかんな。」
と遠くで捨て台詞のようなものが聞こえた。その後で、手錠がようやく外された。遠くで見守っていた光和だったが、手錠を外すとサッとまた戻って行ってしまった。おそらくは、ヤクザに帰れって言われたのに帰っていないことを咎められたら一大事と思ったからだろう。しばらくはその場から動けなかった。痛みもそうだけれど、何分男の象徴を目茶目茶にされてしまったことがひどくショックだった。悔し涙が出てきて、止まらなかった。淳平は、俺と同じ思いを他の奴らにも味合わせてやりたい、そんな憎しみの心を持ち、ヒリヒリズキズキする股間に軽く労わるように手を当てつつ海の家方向へと歩いて行った。辺りは既に暗くなり、雲の切れ間からいくつもの星が見え隠れしていた。

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2023年05月14日
だって夏じゃない(10)
「おう、それ、取ってくれ、それそれ、その袋、それじゃ。」
木偶の坊が、市指定のゴミ袋と、それを掴むトングを持ってきた。淳平は、ジンジンする自分の一物を労わることもできずに、体全体で大きく息をしていた。小麦色に日焼けした体と、競パンに沿って現れた本来の真っ白な素肌、そしておどろおどろしい様相で憮然と垂れてヒクつく一物が、先ほどの責め苦の激しさを物語っていた。
「さっきの兄ちゃん、海辺のゴミを集めたはいいけんど、ここに捨てちゃあかんがな。」
と、トングで何か取り出した。
「おい、これ、何だかわかるか?」
「溶けたビニール袋ですか?」
「お前は世間知らずじゃなぁ。これは電気クラゲっちゅうて、クラゲなんじゃ。」
「ふーん、そうっすか。」
「そうってお前、まあいいか、見ててみぃ。」
と、トングでつまんだカツオノエボシ、通称電気クラゲの死骸をそっと持って行った。で、テロンと垂れ下がった一物に手をかけた。
「止めろ、バカ、止めろ止めろ。」
出っ歯は一物の先を持って引っ張ると、その上にきれいなマリンブルー色の死骸を乗せた。
「危ない、止めろって、それ、毒クラゲ、チンポなん・・、きゃぁぁぁぁ!!!」
言い終わらないうちに、防砂林をつんざくような甲高い悲鳴が上がった。体を広く揺り動かしたので、クラゲの死骸は落ちてしまったが、その部分は点々と赤くなっていた。大事なところにキリのような太めの棘が刺さった、それも深くまで、そんな信じられないような痛さだった。
「電気、死んでもあるんですか、兄貴?」
「電気じゃねえよ、オメエ。クラゲってのは足んとこに毒針仕込んであんだぁ。刺激すりゃ、毒針がシャッと相手に突き刺さんだわ。」
「おっかねえクラゲっすね。」
「そうでもしなきゃ、オメエ、海にプッカプカ浮かんでんだけで、何も餌取れんじゃろが。」
そんな話をしているうちに、立派な一物をぐるっと取り巻くように赤くなった筋がミミズ腫れになってぷくっと膨らんできた。
「おお、ポコチンがいい色になってきたな。こりゃ、当分は遊べないわな、カカカカ。」
淳平は出っ歯を睨みつけた。
「なんだぁ、文句あるんかぁ?」
と、砂を持った手で長い一物を雑に扱き出した。
「かぁぁぁぁぁ!!!止め止め止めて、あぁぁぁぁぁぁ!!!」
風が吹いただけでもヒリヒリするのに、砂を擦り込まれたのでこの世のこととは思えない痛さが襲った。遊べないどころではない、本当に使い物にならなくなってしまう。これからの長い人生、男の象徴が使い物にならないなんて、とてもじゃないが想像を絶する。が、木偶の坊は木偶の坊で淳平のことを睨みつけていた。

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2023年05月11日
だって夏じゃない(9)
「さて、どうしようかの?」
「もう、用が済んだろ、この手錠を取れって。」
「手錠の鍵の、ここの枝に架けておくってからに。」
「いやいや、さっきの兄ちゃんがいっじゃろがい。」
「外してくれって、アイツ、俺を置いて尻尾を巻いて逃げてったんだから。」
「いや、あの兄ちゃん、あんな性格だから戻ってくるはずや。それよか、こっちもおっ始めるか?」
と、もう一方の腕をとると、反対側に伸びた枝にやはり手錠をかけた。
「おい、解放するって約束だったぞ、おかしいだろうがよっ!!」
「おいおい、解放するとは一言も言っちゃいねえぞ。落とし前をつけるって言ったじゃねえか。」
「だったら、さっきアイツのは何だったんだ、おかしいだろ。」
「それはアイツの落とし前だろ、兄ちゃんよ、俺ら、お前が目的なんだぜ?さっきいたガタイのいい兄ちゃんにはちょっとビビらせただけよ。」
と、淳平の顎を手で掴むと、
「まあ、今日はコイツと遊んでみるかな。」
と言って、淳平の競パンをずり下した。今まで不格好に束縛されていたモノが、ボロンと重力に従順に垂れ下がった。淳平は細身の体ながら天性の立派なモノを持っていた。自由になったそのものは、ブランブランと振り子のように揺れ動いていた。そしてその後ろには、このデカくて長いモノでさえも隠し切れない二つの玉が、ゆったりとした袋の中でやはり慣性の法則でゆらゆらと規則正しく揺れていた。
「この前はコイツで楽しむ前に邪魔が入ったからな、今日はジックリ楽しませてもらおうかな。」
「汚い手で触るな、チンピラ、金なら金って言え。金が欲しいからそんなことを言ってんだろ?」
「急に威勢が良くなったな?あれだろ、大声出せばまたさっきの兄ちゃんが飛んでくると思ってるんだろ?金を用意してくるとでも思っているんじゃないか?」
出っ歯はそういうと、チラッと向こうの遠くに見える海の家の方を見た。そこには、股間をしっかり押さえ、もう一方の手で双眼鏡を握ってこっちの様子を覗っている光和の姿が小さく見えた。光和は、先ほどの金的に懲り懲りして、ヤクザから見えないところで見守っていたのだ。
「まあ、助けに来てくれればいいさな。まずはウォーミングアップといくか。」
と、長い一物の先の、男の敏感な部分を撫でだした。
「痛え、痛え、マジで止めろって!!」
出っ歯は、落ちていた砂や堆積物を手に取って、それを塗り込むように亀頭を揉んだのだった。
「止めろ、止めろって!!」
ものすごく体をよがらせて苦悶の表情を浮かべている。パキパキに割れた腹筋がひっきりなしにモコモコとまるで一つ一つが生きているかのように躍動している。淳平もまだ大学生、エネルギーに満ち溢れているけれども発散する機会がなかなかなく、悶々と過ごしている。普段は包皮に守られているので、こんな荒々しい刺激は生まれて初めて、というか金輪際最初で最後にしたいくらいの激しい刺激であった。

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2023年05月08日
だって夏じゃない(8)
「ギャン!!!」
思いっきり急所を蹴られ、犬が哭いたのかと思うような声を上げた。じわじわと染み渡ってくる痛みに耐えようとしているのか、それとも逃れようのない痛みにあえて逃れようとしているのか、頻りに体をくねらせて捻って、内股を引いて、それこそマッチョらしからぬ格好をしている。
「いいぞ、サンドバッグ。手を離すなよ。」
「あぅぅ、勘弁して・・」
「おいおい、サンドバッグはしゃべらんじゃろ。ほら、腰が引けちょる。腰、前に出さんか、おい。」
歯を食いしばって痛みに耐えている。正直なところ、光和は顔は男っぽいのだけれど温和な性格で、喧嘩どころか揉め事とは無縁な性格だった。それに、こんな体つきをしていれば、手を出そうとは思わない。しかし、少なくとも光和は、正義感からヤクザに囚われた淳平を放っておくことができず、ヤクザの言いなりになって許しを乞うしかなかった。もちろん、淳平はむしろ光和が代わりに折檻されているのを見て、心がすく思いがしているどころか、ざまあねえなと思っていた。
「ギャン!!」
小さく縮こまった一点目掛けて、ボクサー崩れの的確な一撃が見舞った。
「ぐぉぉぉぉ!!!」
小さいからと言って痛みもまた小さいと考えるのは早計というものだ。神経は誰だって同じく通っていて、痛点も同じ数だけある。つまりは、神経が一か所にコンパクトにまとまっている訳だ。そもそも、金的なんていうものは男がそう簡単に食らってはならないからこそ、攻撃されるとこんなに痛む。少年時代のお遊びで電気あんま程度しか食らったことのない光和には、それこそ人生初めての金的、しかもモロに食らっているわけだからたまらない。たった2発で既に目が回るくらいの衝撃を受けている。
「ふっ、キンタマやられたくらいで騒いでダセエ奴。」
淳平はボソッと呟いた。大げさな演技だと思っているのだろうし、こんな恵まれた体をしているのにワーワー喚いている姿が癇に障ったのだろう。
光和は、何よりも急所を潰されて、男性としての機能を喪失してしまうのではないかという恐怖があった。なんせ、柔道ばっかりしている大学生で、正直まだ経験すらなかった。光和は奥手で、本当に好きになった人と関係を持ちたいと思っていた。それほど大切にしてきたものをここで失ってしまうのかという恐怖が頭を支配した。
「あの、すみません、お願いです、お願いですから、許してください。」
「はっ?」
「オマエ、何言ってるんだよ、殴ってくださいだろうよ。」
淳平は聞いていて苛立たしくなって言った。
「もう金輪際いたしませんから、許してください。」
「いいぜ、別に。」
皆が驚いて振り向いた。
「だが、条件がある。すぐにここから帰れ。すぐだぞ、いいな。」
「バカ、オマエ、根性なし、意気地なしのヘタレ、軟弱者、何してんだ、さっさと元に戻れ!!」
「ごめん、けど、本当に、ごめん。」
と言い残して、光和は股間を押さえて防風林を全速力で走っていった。

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2023年05月02日
だって夏じゃない(7)
「別に、謝って済むんだったらヤクザは用無しだわな。まあ、こっちとすりゃ、落とし前はどっちにつけてもらったっていいんだが、どうするよ?」
と、ナイフを淳平に突きつけつつ出っ歯が言うと、言い終わるか言い終わらないかのうちに、
「おい、元はといえば、こっちが頼んでもいないのにヤクザを突き飛ばしたオマエが悪いだろ。悪いと思っているならすぐ跪け!!」
と、淳平はまたも喚き散らした。光和は先日、淳平が羽交い絞めされて殴られている様子を見ていた。突き飛ばしたのだから、その仕返しに来たのだと悟ったし、少なくともナイフで刺すのだったらとっくに刺しているだろうし、ここは様子を見た方がいいのだろうと思い、大人しく膝をついた。
「何が望みなんだ?」
「おい、その態度はなんだ、言われた通り何でもしますだろ。」
と叱りつけたのは淳平だった。
「まあ、俺も体が最近なまっちまってなぁ、年だなぁ、俺も。おい。」
と、ナイフを木偶の坊に渡した。で、ナイフを淳平に突きつける役を木偶の坊と代わり、
「サンドバッグ欲しいとこさなぁ、なあ、兄ちゃんよ、サンドバッグやるっけぇ?」
「やります、やらせてください、是非!!」
と淳平が代わりに答えた。
「なんだ、オメエ志願すんのけぇ?」
「違います、アイツです、アイツ。アイツがサンドバックなんです。」
と光和を当然のように指名した。さすがに出っ歯もその厚かましさにムッと来たし、用があるのはむしろ淳平の方であったが、一方で全く歯が立ちそうもないこの筋肉隆々の若者をひいひい泣かせてやりたいという思いもあったので、わざわざ呼び出したのだった。
「そっか、兄ちゃんがサンドバックになるか。じゃあ、その枝あんだろ、そこを両手で掴めや。」
出っ歯が指した向かいの木の枝を両手で掴むと、ちょうどサンドバッグのように見えてきた。出っ歯が殴る構えをとったが、すぐに止めると、
「兄ちゃん、サンドバッグは服なんて着てないやなぁ。」
「いや、それは、ちょっと勘弁して。」
「バカ、オマエは、脱げよ、サンドバッグなんだから、ほら、脱げ、脱げって。」
渋々脱いだが、恥ずかしいから、股間を片手で押さえている。
「兄ちゃん、サンドバッグはそんなことはしないやな?」
出っ歯もさすがに失笑した。周りは男だけ、それに男っぽい顔立ちのマッチョが股間を見られるのを恥ずかしがるというのも滑稽だった。恥ずかしそうに手を除けて、両手で枝を掴んだ。まあ、出っ歯も、そしてその他の者も、恥ずかしがる理由は何となく分かった。そんな立派なものを持ち合わせてはいなかったのだ。特に淳平は蔑んだような笑みを浮かべていた。それにしても、少なくとも海水浴場では見かけないような、全身筋肉で覆われたものすごい体をしている。海水浴場でこんなマッチョがいたら二度見してしまうだろう。男も惚れ惚れするような精悍な顔つきをしていて、普通の男の腿くらいはあろうこの太い腕、どうしたらこんな胸になるのかというくらい厚い胸、それでいて超合金並みの硬さだと推測できる腹、腕が腿であれば、足に至ってはもう木の幹のようである。筋肉で覆われたサンドバッグ、当たり前だが狙いはもう一点に限られるだろう。

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2023年04月28日
だって夏じゃない(6)
海の家は、最後の客がいなくなって早々と店仕舞いをした。夕方になると、監視員としての仕事もほぼなくなり、光和は監視台の拭き掃除をしている。淳平は、その様子を横目で見て、くだらない、と独り言をつぶやくと店の裏に回った。携帯電話を弄っていると、ふと人影が見えた。振り返ると、出っ歯がサバイバルナイフを持って、それをわき腹に当てていた。
「騒ぐな、騒ぐとそのままこのナイフが刺さるぜ。」
ビックリして意識せずに声を上げそうになったけれど、少し動いただけでもこの鋭利なサバイバルナイフがわき腹に突き刺さってしまいかねない状況を目の当たりにして、ぐっと息を呑んだ。
「か、金ですか、金、金なら・・」
過呼吸気味になって声が上ずって思うように出せない。
「兄ちゃん、そうあせんなや。」
と、もう一人の木偶の坊が片方の手首に手錠をゆっくりとかけた。そして、ナイフを腰附近にあてながら、防風林の中へと分け入り、適当な枝を見つけてその一方を枝につなぐと、さっき取り上げた携帯電話を渡した。
「兄ちゃん、あの図体のデカい奴、それでここに呼び出せや。」
そう言われ、淳平は俺が狙いではなかったのだと思うと、ひとまずホッとした。俺は人質として捕らえられただけか。そうとなったら、さっさとアイツを呼び出して、俺は解放してもらおう、アイツが大体ヤクザを突き飛ばしたりするから俺がとばっちりを受けるんだと、きっかけが自分にあったことなどすっかり棚上げにして、相談事を口実に呼び出した。光和は言われたとおりに防風林の方に向かうと、ヤクザがその入口のあたりで声をかけた。
「おい、兄ちゃんよ、アイツを探してるんだったらこっちだぜ。」
一瞬怯んだが、状況をなんとなく察して付いていくと、手錠をかけられて木に半ば吊るされている淳平の姿が目に入った。
「おい、コイツをどうするつもりだ。」
といって近づこうとすると、淳平は、
「お前のせいだかんな、お前のせいで俺はこんな目に遭っているんだ。謝れ、土下座でも何でもしてすぐに謝って誠意を示せ!!」
と喚き散らした。謝るといっても、何を謝ればいいのかわからなくて戸惑っていたが、とりあえず土下座しようとしたところで、出っ歯が声をかけた。

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2023年04月25日
だって夏じゃない(5)
もう夏も終わりだ。風も涼しくなって、すっかり秋めいてきた。クラゲが今年は異様に多いし、もう海に入るって陽気でもない。ただ、泳ぎにっていうわけではなく、海に来てパラソルの下で寝転んで、海の家で焼きそばをつまみに昼から生ビールをグビグビ飲んで一日を過ごすなんて客も少なからずいるので、海の家は許可された8月いっぱいまでは続けている。まあ、監視員のバイトも同じで、人が泳いでいてもいなくても、雨が降っても暑くなくなっても、さすがに台風接近のように遊泳禁止になる場合はともかく、そのシーズンが終わるまでは続くのだった。あいかわらず光和はデカい体を屈めて青いビニールのようなクラゲの死体を拾っている。空き缶空き瓶だけではなく、近くの川から流れ込んでここまで漂ってきた木の枝とか色褪せたペットボトルの蓋をも拾っているし、海水浴客は逆に減る一方なので、海岸はすっかりキレイになった。昼下がり、この頃になるとようやく過ごし易いというよりはちょっと暑いくらいになる。すると、この前の、出っ歯と木偶の坊がやってきた。今日は兄貴分らしき人はいなかった。二人は座ると、ビールと焼きそばを注文した。何かあったらすぐに警察に電話していいよと言われていたが、二人とも今日は大人しく、というか何しに来たのかというくらい、ほぼ何もしゃべらず、淡々とビールを飲んで焼きそばを食べていた。で、金をちょうどぴったりテーブルの上に置くと、そのまま何事もなく帰っていった。あんなにいろいろあり、それで1週間たつか経たないかのうちにまた現れて、なのに何もせずに帰っていくというのも不気味ではあったが、他の店員は皆一様に安堵の表情を浮かべていた。

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2023年04月22日
だって夏じゃない(4)
出っ歯は、ことの顛末を兄貴分にすぐさま報告した。興奮して、唾を飛ばしつつ早口で話した。兄貴分は、腕組みをしてずっと動かずに話を聞いていた。
「で、テメエはどうしたんだ。」
「やくざ者に手を出したらどうなるかってものをこの身で教え込ませないとなりませんぜ、兄貴。」
「その、オメエはいったい何されたんだ?」
「今話やしたとおり、投げ飛ばされたんですぜ、兄貴。」
と、ゴルフクラブのドライバーを奥から取り出して、
「そうか、テメエ、やくざ者に手を出したらどうなるかを教えてやったのか?」
「いえ、何しろ相手は力自慢なもんでして、でも、兄貴の手にかかりゃ、怖いものなしですぜ。」
兄貴分が立ち上がると、ゴルフボールを打つかのようにスイングをして、ドライバーで思いっきり出っ歯の足のすねに振り下ろした。出っ歯は弁慶の泣き所を押さえてうずくまる。
「おい、やくざ者が手を出されて、おめおめとよく帰ってこれたな。だったらもうやくざなんて辞めちまえよ。そんな根性なしを置いといたら、岸本組の看板に傷がつくってもんだ。」
しゃがんで出っ歯の顎をつかんで顔を近づける。
「テメエ、ボクサー崩れじゃなかったか?そんなんでやくざ稼業が務まると思っているのか?テメエに子分なんてまだ早かったな。また事務所の雑巾がけから始めるか、それとも・・」
「いや、待ってください、待ってください、兄貴。やくざ辞めたら、俺、もう行くとこないです。」
「オメエよ、あの兄ちゃんのいうとおりだな。俺がいないとテメエじゃ何もできないか?」
「・・・。」
「まあ、今日明日ってのもなんだから、一週間待ってやる。一週間でよくよく身の振り方を考えろ。」
兄貴分は、突き放すようなものの言い方をして、たばこの箱に手をかけた。
「あの、兄貴、身の振り方ってのは・・。」
出っ歯よりも先に、気配を消していた木偶の坊がライターでタバコの火をつけた。木偶の坊は、さっき抵抗されたときに殴られた鼻のあたりが青痣になっていた。
「無理だろ、あんなのシメられないようじゃ、この先やくざなんてよぉ。」
「いえ、必ず、この落とし前付けますから、どうか待ってやってください。」
兄貴分はほぼ吸っていないタバコの火をコンクリートの壁に押し当てて消すと、
「シメんのは勝手だが、ただ、サツにチンコロされるような真似はすんじゃねーぞ。刑事沙汰になれば即破門だからな。」

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2023年04月20日
だって夏じゃない(3)
裏にはもう一人、少しおつむが弱そうなランニング姿の奴がいて、出っ歯が、
「そいつを捕まえろ!」
というと、愚純な動作で腕を掴んだ。
「離せ、バカ、うすのろ、コイツ!」
ともう一方の手で顔面をガンガン殴ったが、そこは鈍重でありつつも命令には絶対服従、全然離さない。顔が鼻血まみれになりつつも羽交い締めをすることに成功した。出っ歯は近づいてくると、
「さっきはよくも恥をかかせてくれたわな。」
と腹を拳で突いてきた。見た目、歯も欠けているし肌もボロボロで、声だけデカいチンピラという感じだったが、結構腹に響いた。よくよく見ると、拳に青年漫画雑誌の広告で見るような、銀色のナックルをつけていた。それに、外見と違ってボクシング経験者なのか、一連の動作が軽快で、腕の動きが速くて見えないが、確かに一つ一つが的確に、それこそ競パンだけしか入っていないのでおそらく相手には分かっているだろう、内臓のある、効くところばかりを狙って打って来るのだった。
「すみませんでした、すみませんでした。」
謝るが、
「なんだ、聞こえねーな。何言ってんのか、ちゃんとはっきり言えよ。」
と手を止めずにニヤニヤとこっちの様子を見ながら打ち込んでくる。こっちの反応を見て、苦悶にあえぐ様を楽しんでいるようだ。と、急に出っ歯が視界から消えた。そしてバンという音が聞こえた。羽交い絞めが解かれて淳平はその場にへなへなと座り込んだ。ランニング姿の木偶の坊は、出っ歯の方に飛んで行った。光和だ。光和が出っ歯を掴んで力任せに放り投げたのだ。やはり体格差というか、ムキムキのマッチョに投げ飛ばされたりしたら、誰だって怖いに違いない。さっきまでの勢いはどこに行ったやらで、這う這うの体で視界から消えていった。
「大丈夫か?」
「まあ、別に。」
淳平は光和に感謝の言葉もろくすっぽ言わず、店に散りばめられたビール瓶のかけらを片付け始めた。淳平はそもそも人に恩を売るというか恩着せがましいことをよくするし、光和のことを正直下に見ていたので、あんな逃げられない絶体絶命だった状況をすっかり忘れ、助けてくれとも頼んでいないのに有難迷惑だなくらいに思っていた。光和の性格がことさら良かったから何もなく済んだが、そんな塩対応で揉めたことは枚挙にいとまがなかった。

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2023年04月18日
だって夏じゃない(2)
海の家にはガラの悪い連中だって訪れる。
「ビール、全然来ないぞ。」
と怒声が響いたので、淳平が持っていくと、出っ歯のやさぐれた感じの奴が、
「遅えんだよ。」
と言って余っていたビールをぶち撒けられた。
「何すんだよ。」
と思わず淳平はそのガラの悪い客の肩を押してしまった。一瞬、場が凍り付いたが、
「まあ、興奮すな。兄ちゃんもすまんかったな。」
と兄貴分らしきもう一方がたしなめて、それで収まるかと思いきや、
「兄貴頼みかよ。助かったな。」
と淳平は去り際に毒づいたのである。
「マジか、コイツ!!!」
と殴りかかろうとしたが、やはり兄貴分がよく抑え込んで、コトはようやく収まった。
日が落ちてくると大分人が減ってきた。ここの海水浴場は17時終わりだ。海の家も15時半から片付けに入り、16時には人もいなくなった。監視員の仕事も特にない。大体、夏も終盤に入ってくるとカツオノエボシという青いクラゲが出てくるので、知っている人は海に入ったりしない。浜辺にもよく死骸が落ちているが、その死骸でさえも毒がある。光和は捨てられたゴミを拾うついでに、それをゴミ取りトングで一つ一つつまんで取って回っている。もちろんそんなのは監視員の仕事ではない。淳平は誰もいなくなった海の家で休んでいると、先ほどのチンピラに声をかけられた。しつこいし、まださっきのことを根に持っているとは、相当ネチネチした性格なんだな。それに、さっきの兄貴肌のような人もいないし。と、裏にあったビールの空き瓶をこっちに投げつけてきた。危うく避けたが危ないところだ。空き瓶はまだ奥にたくさんある。危ないし、さっきももっと言ってやれば良かったと思っていたので、店の裏手を覗いてみた。

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2023年04月05日
だって夏じゃない(1)
門田淳平と定岡光和は、今日もこの逗子海水浴場で監視員の仕事をしていた。普通であればライフセーバーが携わる仕事であるが、ここ数年はライフセーバーのやり手がおらず、逗子海水浴場のような波も穏やかで遠浅の海岸は海難事故もここ数年ゼロが続いているということもあって、淳平も光和もライフセーバーの経験はなく、泳ぎが得意だからという履歴書の文言だけで採用された。淳平は細身で、脱ぐと腹筋がボコボコ浮き出て見えるほどだからそれっぽいのだけれど、光和の方は現役柔道部だからか異様に筋肉の盛り上がったマッチョな体形をしていて、水に入ったら絶対沈むなという感じであったのに、採用されるくらいであった。まあ、本当にこれといって事件事故はない。家族連れが殆どだ。淳平は、してはいけないことになっているのだが、忙しいときは海の家のバイトもしていた。ここは湾全体が見渡せる小高いところにあって、のんびりとできる。と、遠くに一人だけ、浮かんだり沈んだりという影が見えた。海の家にいた淳平は光和にサインを出す。が、こっちのいうことに気づいてはいるのだが、どうも動かない。埒が明かないのでそっちに行くと、
「今、このおばあさんが体調を崩したみたいで介抱しているんだ。あっち、やっておいてくれないかな?」
と、おばあさんがおそらく熱射病か何かで寝ているところを団扇であおいでいた。結局、小学生くらいの女の子を助けたのは淳平だった。だから、おそらく泳ぎは不得手なのであろう。

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2023年02月13日
ウルトラマンジャック(7)
その日以降、ワイドショーも一切触れることがなくなり、CSの有料チャンネルで細々と放映されるだけとなった。今日は所沢の航空公園に現れた。近くに空軍基地があるものの、全く来る気配はなかった。経緯は分からないが、画面に映った時には既にウルトラマンはジャングルジムに両手両足を括られていた。これも理由は分からず、恐らくは隼人の性癖なのだろうが、股間は勃起していた。そしてそれを見たゼラブ星人は、早くも有頂天になったようで、ワーンワーンといった音波を周囲に出して、周辺の広葉樹をワサワサと揺らせた。そして、ゼラブ星人は一方的に鉄の腕で股間だけを痛めつけ、そしてウルトラマンは天空を見上げて「ギャン、ギャン」と苦痛に悶えるも、いつしか「あふん、はぁはぁああ、はふぅぅん」ととても聞かせられるような声に代わり、恍惚な表情を浮かべて涎を流し続けるという、もはや戦いではなくて一種のプレイのようなものに変質した。航空公園にある大きなゼロ戦の形をした滑り台には、その痴態の様子が描かれた。おそらく後年、伝説として語り継がれることになるのだろう。大宮駅西口のとある店で、こういうコスプレで責めたり責められる店が現れたという噂も、あるとかないとか。確実な事実としては、隼人が狭山湖に全裸で、鍛え上げられた腹筋の上に白濁した液体が生々しく残った状態で現れるということだった。何しに来た、ウルトラマンジャック、戦えよ、ウルトラマンジャック。もう来るな、ウルトラマンジャック。

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2023年01月31日
ウルトラマンジャック(6)
一番衝撃を与えたのは、久喜のイオンの屋上に現れたときだった。「おっと、現れました。ゼラブ星人に遅れること5秒、ウルトラマン、直近の戦いでは骨を少なくとも3か所は折られているのですが、全くダメージはないようです。」前回の戦いで、明らかにウルトラマンは骨折をして絶体絶命だったのだが、なぜか次に現れるときには無傷の状態で現れる。地球の科学では何ともならないが、ゼラブ星人は超回復の技術を持っているようだ。「われらがウルトラマン、いつものように果敢に挑む、キック、今日はキックが冴え渡るが、ゼラブ星人には効いていないようだ。」と、ウルトラマンについていうと、ゼラブ星人に対しての攻撃は単調で、そもそもゼラブ星人と戦うようにインプットされているようにしか見えないくらい、現れるとすぐに戦い始める。ゼラブ星人自体は、攻撃は得意ではないらしい。ただ、カラダが鋼鉄でできているので、むしろ攻撃をする側がダメージを受け、最後の方はグダグダになって時間切れになるのだが、今日はかなりのハイテンションでゼラブ星人を圧倒しているかのように見える。ゼラブ星人はカラダが固く、腕も足も短いので、足はせいぜい60度くらいしか上がらないし、腕も振り回すくらいしかできない。しかし、アクシデントが起こった。ウルトラマンが蹴ろうとしたところ、水たまりに足を取られて滑り、結果ゼラブ星人の頭部に股間が激突したのだ。股間を両手で押さえて緑色の床を転げ回るウルトラマンの姿を見て、ゼラブ星人がおそらく笑っているのだろう、衝撃波のような音波が検出された。人間の耳では鼓膜のすぐ近くでセミが鳴いているような、途轍もない音であり、デパートの周辺に集まった人も皆地べたにうずくまって耳を塞いだ。そして、それ以上の進展は見られず、泡を吹いて白目を剥いて痙攣しているウルトラマンと音波を出して体を揺らすゼラブ星人は、カラータイマーの点滅のタイミングで時空の歪みへ消えていった。

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2023年01月29日
ウルトラマンジャック(5)
設置された防犯カメラは、有事に備えて一定数が内閣府の危機管理センターへとつながっているが、同時にメディアにも配信される。ただ、配信に当たってはモザイク処理がなされる。ウルトラマンが人間であるという根拠、それは、人間の体をボディペインティングのようなモノでラミネート加工されたかのように金属質の覆いが覆っているので、股間の形はクッキリ、いや、そのものだからだ。もちろん、人間を模しているのだという意見もあるが、3mもなかったなら、全身タイツをまとった人間だと誰もが思うことだろう。それに、ウルトラマンはゼラブ星人を撃退できていない。なんせ、知る限り、、ゼラブ星人に対して全敗しているからだ。このウルトラマンはウルトラマンジャックと呼ばれている。ジャックは元々はアメリカのテレビがつけた愛称だが、日本の「弱」の音読みに似ているので、日本でもすんなりとそう呼ばれるようになった。最初は、マッチョなウルトラマンが赤手空拳で異様ないでたちのゼラブ星人に立ち向かっていく姿に、まさにヒーロー現るといった感じで万雷の拍手で迎えられたが、そもそも、ゼラブ星人が出現してすぐのタイミングでウルトラマンが現れ、またゼラブ星人も出現しても積極的に周囲のものを破壊するというわけでもなく、また敗れたところでとどめを刺されるわけでもなく、毎回同じゼラブ星人だし、ということで、いつしか怪獣出現もニュース速報からワイドショーネタに移っていった。
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2023年01月26日
ウルトラマンジャック(4)
直近だと、ゼラブ星人が西川口の、蕨市との境界に近いラブホテル街に現れた。出現スポットはどちらも栃木県から埼玉県にかけてが多く、たまに東京の北部や茨城県西部にも現れる。おそらくは北関東にその侵略拠点基地のようなものがあるものと推定されているが、これもまだわかっていない。ほぼ同時にウルトラマンも現れる。武器を使わないのか、という素朴な疑問についても分かっていない。おそらくは将来の植民にあたって、地球の自然に悪影響を与えてしまうといった環境配慮なのだろうとは推測されている。科学特捜隊は何をやっているのか、もちろん、ミサイル等を使った攻撃はしたのだが、何せ体の主成分が鉄なのでダメージを与えられないし、市街地に出現するので住民を巻き込むような大規模な攻撃はできない。そして、ウルトラマンに誤射してしまったこともあるが、ウルトラマンには相当のダメージを与えてしまうのだ。また、大事なところはゼラブ星人は住民に危害を与えていない。あくまで相手はウルトラマンに限られている。一説では、既に日本政府とゼラブ星人は取引をしていて、人間に危害を加えないという確約をもらっているようだ。なので、今ではゼラブ星人が登場しても、ウルトラマン以外は誰も手を出したりしない。

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2022年12月30日
ウルトラマンジャック(3)
隼人は漸く気が付いた。人間に戻ったところで、隼人の体を使っているのだが、どうやら隼人はそのウルトラマンでいるときの記憶もないし、また戦いによるケガも全くない。最初に説明しておかなければならないが、怪獣も宇宙人だ。ウルトラマンというのは伝説上のヒーローだ。伝説では様々な怪獣が出没していて、各地の壁画にその戦いの様子が残っているが、今回登場する怪獣はいつも同じ、ロシアのヴィエリチカ洞窟で描かれているものと姿かたちが全く同じ、ゼラブ星人である。ウルトラマンもゼラブ星人も、身長は3m程度である。これは地球では大きいと思うかもしれないが、宇宙では標準的な大きさである。であるが、ゼラブ星人の体の主成分が広い宇宙でもどこにでも普通に存在する鉄であるため、破壊力はかなりのものがある。また、これもウルトラマン伝説とは異なるのだが、いわゆるカラータイマーと呼ばれる生命維持アラートが付いているのはゼラブ星人の方である。地球上の酸素はゼラブ星人に毒性なのだが、ウルトラマンは伝説とは違って大丈夫なようである。ゼラブ星人は地球への滞在が大体3分を超えると体に有害な作用を及ぼすようで消えてしまうが、個体差があるようだ。ただ、ゼラブ星人のこともデータが少なく、よくわかっていない。また、これも大きな誤解なのだが、ゼラブ星人もウルトラマンも、実は地球を侵略する目的は共通している。伝説でもウルトラマンが怪獣をやっつけているので正義の味方のように思われているが、単なる主導権争いに過ぎない。

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2022年12月27日
ウルトラマンジャック(2)
「隼人、しっかりしろ、おい、隼人。」
狭山湖のほとりで気を失っているのが見つかった。というか、いなくなったときは狭山湖のほとりで伸びている。彼の名は井手隼人。科学特捜隊隊員であり、ウルトラマンだ。彼がウルトラマンになったのはよくわかっていない。ある日、寝ていた時に体が激しいけいれんを起こして昏睡し、それ以来、勝手にウルトラマンにさせられているというのだから、寝ている間にウルトラマンという宇宙人が寄生した説が有力である。隊員の間では、隼人がウルトラマンだということは、隊員の間では周知の事実だ。ウルトラマンが出現したら隼人はいなくなり、ウルトラマンが倒れて消えたら隼人が全裸で狭山湖にいるからだ。どうやって狭山湖にたどり着くのかは、まだ誰も分からない。ただ、ウルトラマンと怪獣が戦っている様子は防犯カメラでとらえられ、その日のうちに全国に放送されている。そのうち、ウルトラマンの正体がバレる日も来るのかもしれない。そう思うと、科学特捜隊は気が気でならない。なんせ、ウルトラマンが破壊した建造物は数知れない。ウルトラマンも伝説ではスペシウム光線とか使えるはずなのだが、今は全く使わない。また、伝説ではいろいろなところに出没していたが、今のところ市街地で多く出現しているため、破壊された建造物もそれなりに多い。ウルトラマンジャックが隼人だと露見すれば、莫大な損害賠償を請求されるに違いない・・

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2022年12月24日
ウルトラマンジャック(1)
「うぉっと、現れました。われらが正義の味方、ウルトラマンです。」実況中継の割には、淡々と話すアナウンサー。ウルトラマンとその相手、ゼラブ星人が荒川の湿地帯に現れた。出現する1時間前に時空が歪み、周囲の大気が急に不安定になるので、カメラは間に合わなくとも無人撮影機が周囲を取り囲む。「あっと、ウルトラマンから攻撃を仕掛けました。蹴る、蹴る、一方的な展開だ、しかしゼラブ星人には効いていない。」実況といっても実は1時間前の光景で、モザイク処理が施されている。当初は臨時ニュースの扱いだったが、ゼラブ星人の声明によって人間に危害を与えないことがわかると、ウルトラマンとの戦いはショーの様相を見せてきた。今まで、この一方的な展開、ウルトラマンが殴る蹴るをしたところでゼラブ星人にはなんらダメージを与えていない、それだけのものだったのだが、この戦いの後、アナウンサーも淡々と話すということはなくなった。「あっと、ウルトラマンが倒れました。それをゼラブ星人が、折った、折りました、右腕から明らかにバキッという音が聞こえ、あっと、足も、足も折りました、両足です、ウルトラマン、悶絶しています、ウルトラマン、」というところで、両者はまた時空の歪みに消えていった。

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2022年12月14日
月光仮面は誰でしょう(5)
と、考え事をしていたのでそのうちの一人が走り寄ってくるのに気が付かなかった。一瞬だった。ビリビリビリと衣を切り裂くような音がしたと思うと、その男は白いボロキレと化したものを持って反対方向に走っていく。もはや、顔は目鼻を除いて隠しているが、そこから下はすっぽんぽん。バイト先に用意されたパンツがあるし、蒸れて汗疹ができないように、シーツの下は何も履いていなかったのだった。周りではやし立てていた者は腹を抱えて大笑いしている。「返せよ、それ!!!」と追いかけるけれど、ボロキレを持った側は余裕で等間隔で逃げていく。異国の言葉なのでよく分からないが、下半身を指さして、ゲラゲラと笑い転げている。見ると、小さいながらもきちっと勃起していた。マッチョなのに小さいから嗤われているのか、勃起しているから嗤われているのか、・・どっちもだろう。追いかけられている奴すら笑いが止まらない様子。笑いすぎて走りも覚束なくなったので、ようやく追いついて取り返す。しかし、引き裂かれてしまったし、帯があるわけでもないからスリットというか、手で押さえていないとケツ丸出しになってしまう。と、急に皆が散り散りになって逃げだしていった。左腕を三角巾で釣った男は、三角巾自体を投げ捨てて一目散に逃げて行った。まあ、何も取られていないし、と思って振り返ると、警察官が数人で降りてくるところだった。逃げる?どこへ?
「君、ここで何をしているの?」
「何って・・」
「いや、通報があってね。不審者に追いかけられている人がいるって。名前は?」
「月光仮面・・です。」
「あっそう。交番で続きを聞かせてもらおうかな?」
月光仮面は、警察署の薄暗い個室で一晩を過ごした。

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2022年12月10日
月光仮面は誰でしょう(4)
常磐線の鉄橋下は、前は白髪の長髪のホームレスがいたのだが、いつの間にかどこかに行ってしまい、半ば壊れた段ボールと傘とかラジオとかのガラクタが残っていて、ひび割れたコンクリートから水が染み出していて、デコボコになった舗装に水たまりを作っていた。古びたサドルのない自転車の脇に、左腕を三角巾で吊った男が座っていた。「おいこれ、どうしてくれるんだ?」「お前がやったんだ。」と周りの若者たちが言う。しかし、よくよく見ると、見た感じは大人びているとはいえ中学生から高校生くらいで、あの骨折したらしい男も口ひげを生やして老けてみえるとはいえ、同じくらいの年代なんだろう。「というかさ、お前、その服、何?」さすがに異様な、ガンジス河のほとりにいるインド人のような布切れを巻いただけの服にケチをつけた。「こいつ、金、ないんじゃねーの?」「貧乏、貧乏、貧乏仮面。」「インド帰れ。」と、囃し立てて、河川敷にいくらでもあった石つぶてを投げてきた。隙を見て逃げようとしていたが、浩輔は体にまとった筋肉量が重いので、生意気なこいつ等を走って撒く程、足が速くはない。逃げようとしたところでまた追いつかれてしまう。ここは素直に謝って、金で解決した方がいい。
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